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離・婚前旅行 5日目の午後は1人で散策
しおりを挟む「エリサ、あーん。」
「はい。」
5日目の昼食後。
バルトルは大人しくベッドの住人をしており、俯せで顔だけを横に向けた状態で、私の手ずからミルク粥を食べています。
唇とベッドのシーツとの境に畳んだ手拭いを挟んで食べさせるのですが、何ぶん食欲のある若い男なので今回が5杯目。
流石にこのやり取りも面倒くさいし、腕が疲れました。
5杯目を食べ終えたバルトルにリタイアを告げ、私は馭者の怪我の様子を聞きに行きたい旨を伝えると、街へと向かいました。
ここは、侯爵領の隣の領に入ったところにある街で、王都を出てから1番の繁華街です。
貴族向けの洋品店あり、貴族向けの化粧品店あり、テラス付のカフェやパーラーもあります。
他にも、護衛向けの武器店もあり、書店もあり、劇場もあります。
少し東西に外れれば領主邸や下町もある、本当に大きな街でした。
馭者がお世話になっているのは平民向けの治療院です。
大昔には治癒魔法を使って治療していたのが、現在では他国で学んだ医師という人と、自国のみで一子相伝のように師から弟子へと受け継がれた技を駆使して行う治療師、薬に精通した薬師、泊りがけの治療を受ける人の看病や世話をする看世人、治療に食事から携わって調理を一手に引き受ける食事人など、たくさんの人の手を借りて不調を治す場所があるのです。
たいてい孤児院に隣接しており、孤児院の子どもたちの成育を調査したり、大きい子どもたちが看世人や食事人として働くこともあります。
この国の治療院は、実はこの領の治療院が国内初なので、見学してみたいと常々考えていたのでした。
「こんにちは。」
面会時間の只中、私は治療院の入口受付に声を掛けました。
……が、無人のようですね。
返事がありませんので、少し奥まで入ってみることにしました。
受付の先には背もたれのない長椅子が数台置かれた《待合室》と、《治療室》という部屋はいくつかありますが、どこも無人です。
その奥には右手には御不浄、左手には浴室がありますが、大きな浴槽は空でやはり無人なのでした。
私は《治療室》まで戻ると、《待合室》との境にある階段を上へ向かいました。
すると、上からは声がします。
「さぁ、早くこの薬を飲んでください。」
「嫌です。臭くて苦くて、その色! 絶対に口にしたくない。」
「…………ならば、わかりました。これをきちんと飲んだら、この後少し散歩に出ましょうよ。」
「ベスさんが? わかりました。それをください。えいっ」
グビッグビッグビッ…
「っくぁーーっ!! 約束です。行きましょう。」
「わかりました。ではこちらへお掛けください。」
その声のする部屋の開放されている扉から中を覗けば、中に居たのは馭者と、妙齢の女性でした。
「ハッ! 奥様、申し訳ありません。治療院に泊りで、侯爵領まで間もなくだと言うのに。」
馭者がベッドから降りて頭を下げようとするのを制し、妙齢の女性から馭者の怪我の経過を確認しました。
馭者は、馬車が倒れた当初は骨のひびだったものが知らせに走ったことで骨折となってしまったとのこと。
治って自分の足で歩くためにはかなりの時間を要する上、大昔の治癒魔法とは違って骨が接げるまでにも季節がいくつもかわる程度の時間が必要で、その後には歩く訓練もしなければならず……
私が《仕事に復帰できるまでどの程度掛かりますか?》と訊ねてしまったのもあり、
「そうですね。長くて1年は掛かるかと。ただし、こちらのヨセフさんの、初期は動かない、飲み薬や湿布を厭わず受け入れる、後期は果敢に訓練に取り組むという《頑張り》があれば、多少は早くなるかと思います。」
「い…1年?」
女性への返事は馭者のヨセフさんです。
「そんなに仕事を休んではクビになってしまいますぅ!」
「しかし、きちんと治さなければ自力で自由に歩くことが…」
「それでは、領主に手紙で相談してみます。返事が来たらすぐに知らせますので、ヨセフはこちらの女性…」
「看病と世話全般を引き受けてくださっている、ベスさんです。」
女性は私に頭を垂れますが、熟練したカーテシーのようにとても姿勢良い仕上がりでした。
どうやら訳アリの様子ですが、孤児院や治療院で働く女性というのは訳アリの方ばかりなので珍しくありません。
「ではベスさん、ヨセフを宜しくお願い致します。ヨセフはゆっくりと休んで、ね。」
私は2人が頷くのを確認してから部屋を、それから治療院を後にしたのでした。
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