旦那様と私の、離・婚前旅行

325号室の住人

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離・婚前旅行 9日目 治療院へ

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「お待たせしました。どういう訳か、あちらでトラブルがあったようです。申し訳ありませんが、これから治療院へ向かってくださいますか?」
「治療院…どちらのでしょう?」
「あぁ。町の孤児院の隣りにある治療院ですよ。今、馬車を用意してますのでお待ち下さい。」
「ありがとうございます。」

どうやら、私はこれから投薬の為にヨセフさんの泊まっている治療院へ向かうようです。
まぁ、全く知り合いが居ないよりも、知り合いが居たほうが安心です。

それにしても、私は何の病気なのでしょうか。

お薬を飲めば、様々な体調不良が改善するとイザベラ先生は話していたわ。

でも、何だか胸が騒ぎます。

バルトルに会いたい。
バルトルに相談したいのに。
どうしたら会えるの?
もう会えないのかしら。



そうしてバルトルのことを考えていた時でした。

「エリサさん、馬車が到着したそうです。下へ降りますよ。」
「はい。」

私はイザベラ先生の後に続いて廊下を進み、階段を降り、邸の裏口にあたる使用人用の出入口から外へ出ました。

朝、洗濯婦の皆さんと外へ出たのとはまた別の扉で、外へ出れば洗濯物のドレスが視界の右の方で風にはためいていました。

馬車は、バルトルと旅をするのに使っていたような大きさのものではなく、荷物をたくさん積めるような幌の付いた荷馬車でした。

馭者台にはヨセフさんくらいの年齢の男性が1人。
それから、荷台には毛布が数枚ありました。

私はこれから馭者の男性と2人きりで治療院を目指すようですが、何故かとても不安でした。

きっとバルトルの居ない馬車に乗ってここまで来たのもあるのだと思います。

私の足は凍りついたように動かなくなってしまい、馭者が降りてきて私を抱き上げる形で毛布の上に座りましたが、服越しに馭者に触れられただけで鳥肌が立ち、悪寒がしてしまいました。

「あ、そうでした。これを受付で渡してください。紹介状です。
実は、あの治療院に叔母が働いているのです。エリザベスという名なのですが、エリザベスに渡すよう、必ず伝えてくださいね。」

私は、震える腕を伸ばし、イザベラ先生からの封書を受け取りました。

馭者が出発のために鞭を振り上げた時でした。


「もし! お待ちくださいませ!!」

1人の侍女がこちらへ駆け寄って来ました。

呼吸を整えてから、

「どうか私をお連れください。ほら、金庫番からお金を預かりましたから!」

革袋を掲げて馭者とイザベラ先生へ見せると、イザベラ先生の指示で侍女が荷台の私の隣へ座りました。

「ヤァ!」

馭者の一声で、いよいよ馬車は動き出します。
使用人用の門を出て、少し行った時でした。

「奥様…奥様…」

侍女はヘッドドレスを無造作に外すと、私に自分の顔を見せるように向きをかえました。

その顔を見てビックリ!
なんと、リリサだったのですから。

「リリ…サ?」
「はい、奥様。リリサでございます。」

私はリリサとの再会に涙を流しながら喜びました。
リリサに抱き付き、でも馭者から怪しまれないように声を殺して泣きました。

本当に心細かったのです。

「奥様、お迎えが遅くなって申し訳ありませんでした。バルトル様のところへ、すぐにお連れしますのでご安心ください。
ご無事で何よりでした!」

リリサは私の背中へトントンと優しく触れました。

遠い昔、母を弟妹に取られてしょげていた私を抱き上げた父がそうしてくれたことを思い出します。

「奥様、お疲れでございましょう? さぁ、リリサの膝をお貸ししますので、少しお眠りくださいませ。」

正直なところ、馬車の上では眠りたくありませんでした。
だって、またはぐれてしまいそうだったのですもの。

けれど、リリサの声には睡眠薬が入っているのではないかというほど、私はリリサの手を掴んだままリリサの膝を枕に眠ってしまったのでした。


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