彼らの恋

325号室の住人

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たとえば、こんなはじまり 2  田上視点1

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「ラーメンがいいです。」


金曜の夜だ。
いつもみたいにホテルの最上階のバーかなんかに行って、そのままホテルでワンナイト…そんなつもりだった。

ゾゾゾゾー…

なのに今、俺達は、若いあんちゃんの多い背脂こってりラーメンを、カウンターに並んで啜っている。
この後にワンナイト…いや、もしかして本当にコレで終わり?

「ンくっ…ンくっ…プハァ~…ごちそうさま~!」

額に光る汗、真っ赤な顔、少し潤んだ瞳…

そんなのは、俺との熱い夜でさせるつもりだった。
なのに、たとえトッピングを全部したとしてもひと晩のホテル代にも満たない金額で見てしまうなんて。




連れ立って店を出た俺達は…




俺の胃がラーメンに負けたせいで、公園のベンチに並んで座っていた。


「えっと…先輩? 田上さん、でしたっけ? 大丈夫ですか?」
「うん…お兄さんは確かに《田上さん》だ。だいじょ…うぷっ…ごめ…」

俺は歩いて5歩の公衆トイレへ走った。
そして、店で食した殆どをリバースしてしまった。

俺の胃よ、アラサーとは言えまだ数年は20代だろ。しっかりしろ!

少しばっちい気がしたが、手洗い場で口を濯いでしっかり水で手と顔を洗い、ハンカチで拭きながら外へ出ると、よく冷えたペットボトルの水を差し出して心配そうな表情の安城くんが居た。

俺は笑って誤魔化すが、安城くんは今にも泣きそうな表情をしている。

「心配ならさ、家まで送ってくれない? すぐそこだから。」
俺が家の方向を親指で指して言えば、
「わかりました。」
と。

──意外に素直だな…



俺達は公園の隣にある、1階にパンが美味しいカフェとコンビニが入っているタワマンの3階でエレベータを下りると、その3番目の扉の前で立ち止まった。
303という、タワマンでありながらタワマンらしくない部屋が、俺の家なのである。

が、中は本当に、《タワマンで優雅な1人暮らし》とは程遠い内容になっているので見せたくない。
見せたくない…のだが、
「あ、終電……」
好みの男にそんなこと言われてみろ。俺はタクシー代を渡そうと尻のポケットに手を伸ばすしかないだろ?

……が、

「すみません。僕の住んでるの、学生時代からの寮なんです。門限があるので、今から帰っても絶対に入れなくて。
あの、玄関で構わないので泊めて貰えませんか?」
「…………」
でもさ、俺は中には入れたくない訳だ。ホテル代を出そうとする。
「そんな! 金が勿体ないですよ。」
けど、金を出させてくれない。

どうにもできず、深夜に共同廊下で騒ぐ訳にもいかない。
仕方ないかと、見ても驚くなとかとにかく念を押し、家に入れることにした。






扉を開いた先…そこは、俺の家である汚部屋だ。
前に付き合ってたヤツが別れたと同時にストーカーと化し、逃げるようにこの新築タワマンに引越した。
…が、ヤツにゴミを持って行かれたり、ゴミを荒らされたりしていた記憶が…まぁ最近はすっかり面倒臭くなっただけだが、ゴミを捨てられなくなった。
ただし、俺はこの家で飲み食いしない。だから生ゴミも調理器具も冷蔵庫も無いし、キッチンは入居当時のまま。
洗濯機の活躍は週1、洗濯物は都度集めるスタイル、今日は金曜……どうだ!

安城くんの顔を盗み見れば、
「僕、ちょっと下のコンビニ行ってきます。」
「じゃあ、オートロック面倒だし鍵持って行って。」

キーケースから鍵を外して安城くんに手渡せば、
「ありがとうございます。お借りします。」
と、サッと部屋を出て行った。
俺はとにかくスッキリしたくてシャワーを浴びに向かった。


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