お嬢様の身代わり役

325号室の住人

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本編

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あの日以来、僕はお嬢様の身代わりを務めている。

僕は男で、髪も瞳も地味な黒。
対してお嬢様は、髪は月光の青みがかった白に瞳はハイド様と同じ碧。
これだけ違えば、普通なら別人だと言うと思う。

しかし…あれは僕がここでお嬢様の身代わりを初めてやった日の翌日のことだった。
なんと、あのピンクアフロ娘が、わりとちゃんとした侍女としてやって来たのだ。

お嬢様とシドが帰ってきた先日の夕餉の席。お嬢様が体調不良を理由に食事を部屋で食べると言い出した。
食事を載せたワゴンを部屋に運び入れたのが、あの女だったのだ。
不覚にも気付けなかった。

そして、僕がその日の報告をしている時だった。
ピンクアフロ娘…もとい、キャルルは言った。

「全て毒の所業にしてしまえばいかがでしょう。髪も肌も、瞳さえ色が変わり、声は出なくなってしまった…なんて。」
「それはいい考えだわ。」

そうして僕は、夜には寝室で寝ずの番をしたり、お嬢様がお出掛けになった後はお嬢様の身代わりとして昼にここで寝るようになった。
そういう日は代わりに夜には自室に戻れるようになり、少し気が楽だ。

僕の代わりに喋るのは、調子のいいことを思い付きでスラスラ喋れるキャルル。
キャルルのもの言いは全体の8割が嘘なので、気になって指摘したくなることが多々ある。
だから僕は、眠ってしまっていた方が都合が良いのだ。






コココンッ

「私だよ、アリス。また体調が悪くて殿下とのお茶会を欠席したそうだね。大丈夫かい? 入るよ?」

今日もハイド様がお嬢様のお見舞いにやってきた。


僕は磨いていた壺の中に雑巾を投げ込みベッドにダイブする。
それからナイトキャップを眉の下まで、掛布を鼻の上まで持ち上げると、キャルルを見る。
すると、キャルルが代わりに返事をする。

「どうぞ。」

変な抑揚もなくスラスラと話す目の前の侍女は、ほんの数週間前までアフロのような髪に酷い臭いを発していたとは思えないほどの侍女っぷりだ。

カツ…カツ…カツ………

僕が壺の前に砥いていた床に、ハイド様の靴音がよく響く。

「アリス、今日も顔色が悪い…」
──目元だけでよくわかりますね。

「何だか苦しそうだ…」
──そりゃもう、今は息も上がっております故…

「あの鈴の音のような可愛らしい声も、もう聞くことは叶わないなんて…」
──喋ったらバレますから。

「可哀想なアリス…」

いつものルーティン。ハイド様はいつも、そう言って涙をポロリと頬に伝わせ、去って行く。

イードのの字もなく、ただ単に妹を心配する姿しか見せなくなった。

──僕のことは、もういいのかな…

ちょっとだけ胸がザワリとした気もしたけれど、眠ってしまった虎をわざわざ起こさなくてもいいだろう。

キャルルも心得ているかのように僕の気持ちを代弁しようとはしないし、この寝室を出て行くことはせずにきちんと立ち会っており、僕とハイド様を2人きりにはしない。

横目でハイド様の背中を見送り、扉の向こうへ消えるまで視線で見送ると、僕は壺の中に手を突っ込んで雑巾を取り出した。

さぁ、この後は何を磨こうか。

お嬢様は、僕がただ眠っているだけではサボりと見なして給料からペナルティ分を引こうとする。
ちゃんと働かないと!

キャルルは…

「さて。今日もお疲れ様でしたぁ。私はお昼貰って来まぁす!」
──あいつ…またサボりやがったな…

今のところ、ハイド様の《お嬢様の私室訪問》は1日1回だから、ハイド様が帰ると途端に気が抜けてピンクアフロ時代の喋り方に戻るんだよな、アイツ。
それに、1時間まるっと昼休憩に入るとかでどっか行くんだよな…ズルい!!

「鍵は掛けておくので、ご安心くださぁい!」

そうして部屋に1人になった僕は、ドレッサーの椅子の猫脚を生贄に定めて作業を始めるのだった。


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