こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

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壊滅したダンジョンの対応

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 個室に移動し、報告書を作成した主から話を聞く。
”ダンジョン壊滅”の報告書の主な内容はこうだ。
ダンジョンのランクよりもかなり高いレベルの冒険者によりダンジョンにいたモンスター達が一掃。
マスターである彼女はなんとか逃げ延びた。

「ひっぐ、……いきなりで……、グスッ……怖くて……」
私の目の前でスライムリーダーである彼女は大粒の涙を流しながら話す。

「命令を出す前に……ひっぐ……みんな……みんな……」
話している途中の彼女を抱きしめ頭を撫でる。

「まぁ、マスターである貴女は助かっていますし、モンスターの補給は魔王様にすぐ補充して貰うとしまして……、問題は冒険者のほうですかねぇ」
別にダンジョンに入るなと言うつもりは無い。

 いかに彼女に任せていたのがEランクのダンジョンで、いかに冒険者が高レベルでもである。
素材が欲しかった、新しい技の試し打ち、スキルの確認など考えられる理由はいくらでもある。
しかし、
「壊滅は流石に……初心者用のダンジョンでされると初心者の方々が困りますからねぇ」
そう、やりすぎなのである。

 この冒険者達が壊滅させたダンジョンに挑もうと準備していた冒険者なりたての人だって居る。
ランクが高ければ壊滅させてもいいというわけでは当然無い。
魔王様は強いモンスターの補充を頼めば人間が強くなっていることに喜びすぐにモンスターを送ってくれる。

 しかし今回のスライム達のような弱いモンスターの補充を要請すると明らかに対応が遅くなるのだ。
遅くなった分ダンジョンは再開が伸びてしまうわけでして。
とりあえずモンスター補充の要請は最重要で、
「貴女はモンスターが補充されるまでの間、他のダンジョンに応援をお願いします。つらい体験の後すぐで申し訳ありませんが」

「うっ……グスッ……はい。どこに行けば……?」
「イビルバットのダンジョンにお願いします。地図は後程渡しますね。あ、それと」
ふるふると頭を振り、気持ちを入れ替えたらしい彼女に私は、もう一つの重要案件について尋ねる。

「冒険者の背格好や見た目等を教えていただけますか?」

*

 イビルバットのダンジョンへの地図を受け取り、液体になり高速で地を這って遠ざかっていく彼女の姿を尻目に、私は報告書の作成へ向かう。
彼女のおかげで事の犯人にはすぐ辿り着けそうである。
なにせ
「こんなのと、こんなの」
と自分の体をダンジョンを壊滅させた冒険者そっくりに変身させてくれたのだから。

 その二人分の見た目をスケッチし、今回の報告書を作成して……と。
「ミヤさーん。お願いしまーす」
「ん?何事?」
私が呼んだミヤさんに報告書を渡す。

 冒険者教育課 課長ミヤジ・ローランドさん
元々凄腕の冒険者だったらしいが引退後ここ支援ギルドで次世代の育成に力を入れる頼れる渋いおじさんである。
「あー……やりすぎてんのね。ってこいつらか……」
「他にもその人達何か問題起こしているんですか?」
「モンスターのトドメの横取りやらクエストの報酬に関する恐喝紛いやら最近クレーム来てたんだ。丁度いい……キツーイお灸を添えとくよ」

 一瞬目の奥が怪しく光り、殺気をすこーしだけ漏らしてミヤさんが自分の席に戻る。
まぁ、これで任せておけば大丈夫だろう。
ようやく一枚目の書類が片付いたところで、残りをちゃっちゃと終わらせねば……
サービス残業なんて願い下げである。

 全ての書類に目を通し、そのほとんどがモンスター補充の依頼であった為まとめて魔王様に送りつけることにする。

 壊滅されたスライムの補充は早急に手配して貰うようすでに送り付けているし、と私は朝からダンジョン壊滅の対応に追われ今まで我慢していた事をするべく、席を立ち目的の場所に歩き出した。

*

 個室に入りポケットの中にある箱を取り出し、箱から1本の乾燥植物を紙に巻いた物を取り出し……
その先端に親指の腹を押し付ける。

 親指を離し、じんわりと赤くなったことを確認し、それをくわえて吸い込み、
ボオォゥ……と炎を吐く。
はぁ……やっと出せた…。

 朝から一度も吐き出さず、我慢を重ねた後のこれは何という爽快感だろうか。
もう一度咥えて息を吸い、天井に向かって炎を吐く。
わざわざ防火魔法のかかったこの部屋で無ければ吐けず、かつこの乾燥植物の煙によって炎の威力を弱めなければ防火魔法を貫通してしまうためこのような手順で無ければ炎を吐けない。

 龍族である私は……少なくとも私は、常に体内でブレス用の炎が生成され続けており、貯めすぎるとひょんな事でブレスとして吐き出してしまう。
仕事が終わらず、一服せずに残業していた時にため息がブレスに変わった時などあわや大惨事であった。
その経験を踏まえ色々相談した結果、このように防火魔法を施した部屋と、火耐性を持つ薬草で作ったタバコを作って貰った。

 ゆっくり時間をかけ体内の炎をあらかた吐き終わり、タバコを空中に放り投げ、ブレスで消し炭にし、仕事に戻るのであった。

*

 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
一服から戻った私を待っていたのは……
計算地獄だった。

 モンスター補充の依頼をまとめて魔王様に送る。
うん、文章にするとなんと簡単な事であろうか。

 実際には、ランク分けもされず順不同に置かれている書類毎にどのダンジョンにどのモンスターがどの程度必要かを把握し、ダンジョンの位置から魔王城からのかかる日数を割り出し、さらにそれらを冒険者の利用率が高いダンジョンに先に向かうように優先順位をつけて……とめんどくさい手順があるのだ。
頭をフルで回転させ、手は書類をめくる事と計算を続けているため止まることは無く、

 自分一人しかこのダンジョン課を命ぜられた者が居ない事を呪いつつ、今なお半分は残っている書類と格闘していた。

 自分一人しかダンジョン課に居ない理由?簡単である。
まずモンスターが居ないのはそもそもそんな知性を持ち、かつ魔王に従順なのが私しか居ないから。
私にだって兄弟は居るし親だっている。しかし、その全員が……その……脳筋なのである。
今日の朝の私の机の上の書類、これらを私の家族が見てどうするか。

 簡単である。
ブレスで焼き払う
まず間違いない。ありありとその光景を思い浮かべる事が出来る。

 そして私達以外の種族でまぁ外見を変えるという魔法が使えて、人間たちと共存出来て、そしてこんな書類仕事ができる者など魔王の側近位なものだ。
そして側近は側近で
「は?嫌ですよそんなめんどくさい仕事。一人でやればいいでしょう」

 とキッパリ魔王の命令を無視した。
これでモンスター勢は私以外全滅。

 次に人間が居ない理由。これも簡単である。
そもそもモンスターと会話が出来ない。
身振り手振りなどで多少は伝わるかもしれないが完全ではない。
私は一応人間の言葉とモンスターの言葉を扱えはする。

 何故なら仕事の為に覚えたからで、それ位の知性があるからこの仕事を命じられた。
では逆に、人間にモンスターの言葉を覚えてもらってはどうか。
なるほど、確かにそうだ。
モンスター側が覚えられないならば知性の高い人間側に覚えてもらう。確かに合理的だ。
人間側にモンスターの言葉を発音出来ればの話であるが。

 例えばの話、「ま゛」や「ん゜」と言った発音を出来なければ会話すら出来ない。
と言えばお分かりか。
書類にしろ全部モンスターの言葉で書いてあるのだから書類仕事を手伝う事すら無理。
発音出来なくとも読み書きさえ出来るならと覚えようとしてくれる人が現れるまで、まぁ恐らくそんな日は来ないだろうが、私は一人である。

*

「ぐへぇ~~」
ようやく頭痛すら引き起こしそうな計算を終え、机に突っ伏す。

 補充が必要なモンスターをまとめた紙に魔法をかけ、カラスへと姿を変えて魔王様の元に飛ばす。
カラスは開けられている窓から飛び出し、やがてその姿が見えなくなる。
少し遅いお昼ご飯のサンドウィッチを頬張りつつ、次に片付ける書類に目を通す。
 あー……うん。”ダンジョンの転属願い”かー……
また……面倒な事を……
残りを紅茶で流し込み、食後の一服を終えて、私はその面倒な案件に取り掛かった。
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