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残った仕事
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定時に帰宅しやや早めの夕ご飯を済ませ、ゆっくり紅茶を飲みながら陽が沈むのを待つ。
ちなみに私の家であるが、人間と変わらない場所に住んでいる。
断じて洞窟などには住んでいない。
さて、
内ポケットに入れていた羽ペンを取り出し、適当に放り投げる。
「いきなり手荒ですね~。怪我したらどうするんですか~?」
「投げられた程度で怪我をする貴方では無いでしょう?」
「そうですけども~。ようやく夜ですか~。長かったですね~。疲れましたね~」
やはり音無く、気配無く、羽ペンから少年の姿に戻った彼は、陽が沈んだのを確認し、着ていたフードを脱ぎ捨てる。
「よ・う・や・く・僕の時間ですよ~。さぁ~、血をください割とマジで一日中間接的にとはいえ日光を浴びるのを魔法をいくつも重ね掛けして何とか蒸発とか煙とかにならないように頑張ってたんですマジでもう無理なんです~」
一瞬気取ったポーズを取ったかと思ったら早口で私の手を取り上目遣いでまくしたてる。
「直接吸われるのは嫌ですので今血を出します。ちょっと待っててください」
爪で自分の指の腹を切り、血が滴るのを確認する。
「って、わ~。もったいないもったいないもったいないです~」
床に血の雫が落ちる前に驚異的な反射速度で口でキャッチする。
「は~、ひっさびさに龍族の血を飲みましたけど、やっぱり別格の美味しさですね~」
一滴飲み込んでは両手を頬に当て、美味しさをアピールし、また血が床に落ちる前に口でキャッチ。
これをおよそ10分ほど続けたところで、
「あ、もう充分です~。やっぱり龍族の血は回復量が段違いですね~。ごちそうさまでした~」
「ではモンスターの移動をお願いしますよ」
指の傷を僅かに押さえて修復し、彼に言う。
「嫌で~す☆そんなめんどくさい事しませ~ん☆」
あぁ……こいつぶん殴ろう……
「大体モンスターが2つのダンジョンで総数いくらか理解してますか~? そんな数の転移魔法なんて使ったら魔力枯渇以前に一日で終わるはずないじゃないですか~」
だから、と両手を広げて、
「こ・う・し・ま・~・す☆」
両の手の間から零れるのは闇……というよりはその見た目は……夜
ところどころに見える光は夜空の星か、彼の両手から発せられた夜は、
部屋を、家を、町を、そして空を覆いつくすほどに広がっていく。
「久々ですね~。ここまで大きい’嘘’を付くのは~。楽しいですね~」
そうして完全に空が、作られた新しい夜空に覆いつくされたころ
「終わりましたよ~☆あ~疲れました~」
と開いていた両手をぐったりと下げお疲れアピールの彼。
「何を行ったか……聞かせてもらえますか?」
「簡単ですよ~?ダンジョン自体に’嘘’を付いて~、お互いのダンジョンにお互いのダンジョン内のモンスターが入れ替わっていると思い込ませただけです~」
ん? 何を……言っているのだ?
「モンスターが入れ替わってしまったと思い込んだダンジョンは~、お互いの中身を入れ替える事で合意し~、無事に全モンスターの入れ替えが終わったという事です~」
「そんな……」
あり得ない……と思いたい。
百歩譲って、人間やモンスターなどの生物を騙す魔法というのならばまだわかる。
しかし、意識すら無いダンジョンという言うなれば概念を騙した……など。
そんな事
「結構大がかりでしたね~。流石にこの世界を騙すというのは~」
そう、世界を騙すという事で、それが出来るという事は……
もっと、それこそ魔王様とも十分に戦えるほどではないのか?
そんな私の考えを読んでいるのか、
「流石に僕だって身の程弁えていますよ~?あんな何もかもがデタラメな魔王様と一緒にしないでください~」
口から除く牙をチラリとこちらに覗かせ少年は無邪気に笑いながら言う。
「ではでは~、本日は僕のわがままを聞いていただきお手数おかけしました~。暇な時はぜひ僕のダンジョンに足をお運びください~」
そしてそういうやいなやまた気配無く、音無く、今度は姿が掻き消える。
僅かに、蝙蝠の羽音だけを残して。
*
「相変わらずデタラメな方でしたね……」
姿が見えなくなった少年に、少年の使った魔法を思い返してポツリと漏れる。
想像すらしえなかった、そもそもそんな魔法を思い浮かべる事すらなかった魔法。
意思の無い土地に認識を誤解させ、土地に与えた認識に向けて、土地自身が修正を加える事を織り込んだ魔法。
そんな魔法を他の事に使えばどうなるか。
私であるならばと仮定し、魔王様の退屈しのぎになればと勝負を挑んでみたとする。
当然私ごときが太刀打する事は敵わない。攻撃の一つでも当たれば終わり。
どの様な攻撃で合っても問題なく当たれば文字通り消し飛ばす攻撃。
例えば魔法を撃たれたとしよう。
ではその魔法自体に……対象は私ではなく、魔王様に向けられて放たれた、と誤解させてみたらどうなるか。
同じ要領で、ありとあらゆる攻撃を、対象を全て相手に置き換えさせ続ければ……?
攻撃はこちらに届かず、相手の放った攻撃で勝手に自滅していくだろう……
いや、
と首を軽く振ってその考えを否定する。
あの少年が、姿は少年であれど500余年生き、Sランクのダンジョンマスターをやっている彼が、龍族の血で魔力を補充しなければ出来なかった魔法である。
そう気軽に撃てるものではないのだろう。
それこそ出来ているならば、そしてそれが魔王様に通じるならば、彼はとっくにやっていただろう。
彼は、ダンジョンに来る冒険者達を倒し続けて自身のランクを、レベルを、モンスターとしての格を上げ、下克上を考える野心家なのだから……
「羽虫め……」
空に煌々と輝く無数の星を、ただ漠然と眺め思わず本音が漏れる。
といけないいけない。
まだ仕事は残っているのだ。人間の仕事……ではなく、モンスターとしての仕事ですがね……
ちなみに私の家であるが、人間と変わらない場所に住んでいる。
断じて洞窟などには住んでいない。
さて、
内ポケットに入れていた羽ペンを取り出し、適当に放り投げる。
「いきなり手荒ですね~。怪我したらどうするんですか~?」
「投げられた程度で怪我をする貴方では無いでしょう?」
「そうですけども~。ようやく夜ですか~。長かったですね~。疲れましたね~」
やはり音無く、気配無く、羽ペンから少年の姿に戻った彼は、陽が沈んだのを確認し、着ていたフードを脱ぎ捨てる。
「よ・う・や・く・僕の時間ですよ~。さぁ~、血をください割とマジで一日中間接的にとはいえ日光を浴びるのを魔法をいくつも重ね掛けして何とか蒸発とか煙とかにならないように頑張ってたんですマジでもう無理なんです~」
一瞬気取ったポーズを取ったかと思ったら早口で私の手を取り上目遣いでまくしたてる。
「直接吸われるのは嫌ですので今血を出します。ちょっと待っててください」
爪で自分の指の腹を切り、血が滴るのを確認する。
「って、わ~。もったいないもったいないもったいないです~」
床に血の雫が落ちる前に驚異的な反射速度で口でキャッチする。
「は~、ひっさびさに龍族の血を飲みましたけど、やっぱり別格の美味しさですね~」
一滴飲み込んでは両手を頬に当て、美味しさをアピールし、また血が床に落ちる前に口でキャッチ。
これをおよそ10分ほど続けたところで、
「あ、もう充分です~。やっぱり龍族の血は回復量が段違いですね~。ごちそうさまでした~」
「ではモンスターの移動をお願いしますよ」
指の傷を僅かに押さえて修復し、彼に言う。
「嫌で~す☆そんなめんどくさい事しませ~ん☆」
あぁ……こいつぶん殴ろう……
「大体モンスターが2つのダンジョンで総数いくらか理解してますか~? そんな数の転移魔法なんて使ったら魔力枯渇以前に一日で終わるはずないじゃないですか~」
だから、と両手を広げて、
「こ・う・し・ま・~・す☆」
両の手の間から零れるのは闇……というよりはその見た目は……夜
ところどころに見える光は夜空の星か、彼の両手から発せられた夜は、
部屋を、家を、町を、そして空を覆いつくすほどに広がっていく。
「久々ですね~。ここまで大きい’嘘’を付くのは~。楽しいですね~」
そうして完全に空が、作られた新しい夜空に覆いつくされたころ
「終わりましたよ~☆あ~疲れました~」
と開いていた両手をぐったりと下げお疲れアピールの彼。
「何を行ったか……聞かせてもらえますか?」
「簡単ですよ~?ダンジョン自体に’嘘’を付いて~、お互いのダンジョンにお互いのダンジョン内のモンスターが入れ替わっていると思い込ませただけです~」
ん? 何を……言っているのだ?
「モンスターが入れ替わってしまったと思い込んだダンジョンは~、お互いの中身を入れ替える事で合意し~、無事に全モンスターの入れ替えが終わったという事です~」
「そんな……」
あり得ない……と思いたい。
百歩譲って、人間やモンスターなどの生物を騙す魔法というのならばまだわかる。
しかし、意識すら無いダンジョンという言うなれば概念を騙した……など。
そんな事
「結構大がかりでしたね~。流石にこの世界を騙すというのは~」
そう、世界を騙すという事で、それが出来るという事は……
もっと、それこそ魔王様とも十分に戦えるほどではないのか?
そんな私の考えを読んでいるのか、
「流石に僕だって身の程弁えていますよ~?あんな何もかもがデタラメな魔王様と一緒にしないでください~」
口から除く牙をチラリとこちらに覗かせ少年は無邪気に笑いながら言う。
「ではでは~、本日は僕のわがままを聞いていただきお手数おかけしました~。暇な時はぜひ僕のダンジョンに足をお運びください~」
そしてそういうやいなやまた気配無く、音無く、今度は姿が掻き消える。
僅かに、蝙蝠の羽音だけを残して。
*
「相変わらずデタラメな方でしたね……」
姿が見えなくなった少年に、少年の使った魔法を思い返してポツリと漏れる。
想像すらしえなかった、そもそもそんな魔法を思い浮かべる事すらなかった魔法。
意思の無い土地に認識を誤解させ、土地に与えた認識に向けて、土地自身が修正を加える事を織り込んだ魔法。
そんな魔法を他の事に使えばどうなるか。
私であるならばと仮定し、魔王様の退屈しのぎになればと勝負を挑んでみたとする。
当然私ごときが太刀打する事は敵わない。攻撃の一つでも当たれば終わり。
どの様な攻撃で合っても問題なく当たれば文字通り消し飛ばす攻撃。
例えば魔法を撃たれたとしよう。
ではその魔法自体に……対象は私ではなく、魔王様に向けられて放たれた、と誤解させてみたらどうなるか。
同じ要領で、ありとあらゆる攻撃を、対象を全て相手に置き換えさせ続ければ……?
攻撃はこちらに届かず、相手の放った攻撃で勝手に自滅していくだろう……
いや、
と首を軽く振ってその考えを否定する。
あの少年が、姿は少年であれど500余年生き、Sランクのダンジョンマスターをやっている彼が、龍族の血で魔力を補充しなければ出来なかった魔法である。
そう気軽に撃てるものではないのだろう。
それこそ出来ているならば、そしてそれが魔王様に通じるならば、彼はとっくにやっていただろう。
彼は、ダンジョンに来る冒険者達を倒し続けて自身のランクを、レベルを、モンスターとしての格を上げ、下克上を考える野心家なのだから……
「羽虫め……」
空に煌々と輝く無数の星を、ただ漠然と眺め思わず本音が漏れる。
といけないいけない。
まだ仕事は残っているのだ。人間の仕事……ではなく、モンスターとしての仕事ですがね……
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