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モンスターとして
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仕事も片付き、余裕のあった午後に作成した報告書を持ち外に出る。
周囲に誰も居ないことを確認し、自分にかけている魔法の一部を解除。
明らかに自分の今の体には大き過ぎる、アンバランスな翼が背に生える。
片翼でさえ私の全身を覆えるような龍族の翼。
その翼で空を叩く事、一回。
それだけで先ほどまで地に立っていた私は、自分の家が豆粒ほどの大きさに見える程度の上空に移動していた。
そのままもう一度翼で空を叩き、
音すら置き去りにし、目的の場所へ向かう。
目指すは、……魔王城。
*
窓ガラスが無い窓から城内に入り、一番奥、玉座の間を目指す。
玉座の間へと続く扉の前には……
私の仕事を唯一手伝えるが、絶対に手伝ってくれない側近様が単体。
「今回もご苦労様です。定期報告でございすね?」
「それ以外にここに来れるほど手が空いてませんからね。どなたかが手伝ってくれればいいのですが」
「考えておきましょう。どうぞ」
事務的な対応に皮肉を返したが、皮肉に返ってきたのは考える……だそうで、
どうせ考えるだけで手伝いもしてくれない側近に続き、玉座の間へと続く扉をくぐる。
部屋の中央には豪華な玉座。
魔王様曰く
「人間の王に脅したら貰った」
に腰を……おそらく掛けている魔王様の姿。
おそらくというのは見えないからである。
存在はある。気配もする。
しかし、魔王様は言うなれば概念である。
目に映るのは玉座にまとわりつく闇であり、
その闇こそが魔王様である。
決まった姿は無い。
ただ闇として、魔王という概念をまとう我らが王に、私は跪いて頭を垂れる。
「今回の報告書をお持ちいたしました」
報告書を差し出すと、闇の中に報告書が溶ける。
「どうだ?見込みのあるやつは見つかったか?」
低く、昏い声が響く。
「いいえ。おおよそ”勇者”と呼べる者の存在は未だ確認できません」
そもそもSランクのダンジョン踏破者が居ない時点で、魔王様の脅威になりえる存在すらいない。
「そうか、まぁすぐに成果があるとは思っておらん。引き続き、頼むぞ」
少し残念そうに、闇が一瞬震えてそう響く。
「しかし、本当に”勇者”という存在は現れるのでしょうか?」
と側近が尋ねる。
同じ疑問を私も持っていた。
そもそも”勇者”なる存在を知ったのは魔王様の口からその単語が出てからだ。
唐突に勇者は来るよなぁと呟いた魔王様にははたして何が見えていたのか。
「一応人間の文献には、おとぎ話としてですが、勇者という存在は確認しました。なんでも、女神の加護を持ち、決して屈さぬ強き心を持ち、掛け替えの無い仲間を連れて、魔王を滅ぼすもの……と」
今度は満足そうに、闇が震え
「ぜひとも出てきて欲しいものだ。退屈過ぎる」
と響かせた。
他に報告は?と促す側近に
「報告書に書いてある以上の事は特には……」
と返すと
「下がって良い」
と短く響き、先ほどまで視認出来ていた闇は、霧散し夜に溶け込む。
ただ魔王様がそこに居るだけで、発し続けるプレッシャーからようやく解放され、私は小さく息を吐いた。
「お疲れさまでした」
と側近に事務的に頭を下げられて私は玉座の間を後にする。
行きと同じく、窓から空へと飛び出して……
溜まっていたブレスを天に向かって吐き出し、あぁ……また明日も仕事だ……と
少し憂鬱な気分になりながら。私は帰宅するのであった。
明日は特に面倒ごとが起きませんように
とほとんどフラグにしかならない願いを祈りつつ、私の意識はゆっくりと沈んでいった。
周囲に誰も居ないことを確認し、自分にかけている魔法の一部を解除。
明らかに自分の今の体には大き過ぎる、アンバランスな翼が背に生える。
片翼でさえ私の全身を覆えるような龍族の翼。
その翼で空を叩く事、一回。
それだけで先ほどまで地に立っていた私は、自分の家が豆粒ほどの大きさに見える程度の上空に移動していた。
そのままもう一度翼で空を叩き、
音すら置き去りにし、目的の場所へ向かう。
目指すは、……魔王城。
*
窓ガラスが無い窓から城内に入り、一番奥、玉座の間を目指す。
玉座の間へと続く扉の前には……
私の仕事を唯一手伝えるが、絶対に手伝ってくれない側近様が単体。
「今回もご苦労様です。定期報告でございすね?」
「それ以外にここに来れるほど手が空いてませんからね。どなたかが手伝ってくれればいいのですが」
「考えておきましょう。どうぞ」
事務的な対応に皮肉を返したが、皮肉に返ってきたのは考える……だそうで、
どうせ考えるだけで手伝いもしてくれない側近に続き、玉座の間へと続く扉をくぐる。
部屋の中央には豪華な玉座。
魔王様曰く
「人間の王に脅したら貰った」
に腰を……おそらく掛けている魔王様の姿。
おそらくというのは見えないからである。
存在はある。気配もする。
しかし、魔王様は言うなれば概念である。
目に映るのは玉座にまとわりつく闇であり、
その闇こそが魔王様である。
決まった姿は無い。
ただ闇として、魔王という概念をまとう我らが王に、私は跪いて頭を垂れる。
「今回の報告書をお持ちいたしました」
報告書を差し出すと、闇の中に報告書が溶ける。
「どうだ?見込みのあるやつは見つかったか?」
低く、昏い声が響く。
「いいえ。おおよそ”勇者”と呼べる者の存在は未だ確認できません」
そもそもSランクのダンジョン踏破者が居ない時点で、魔王様の脅威になりえる存在すらいない。
「そうか、まぁすぐに成果があるとは思っておらん。引き続き、頼むぞ」
少し残念そうに、闇が一瞬震えてそう響く。
「しかし、本当に”勇者”という存在は現れるのでしょうか?」
と側近が尋ねる。
同じ疑問を私も持っていた。
そもそも”勇者”なる存在を知ったのは魔王様の口からその単語が出てからだ。
唐突に勇者は来るよなぁと呟いた魔王様にははたして何が見えていたのか。
「一応人間の文献には、おとぎ話としてですが、勇者という存在は確認しました。なんでも、女神の加護を持ち、決して屈さぬ強き心を持ち、掛け替えの無い仲間を連れて、魔王を滅ぼすもの……と」
今度は満足そうに、闇が震え
「ぜひとも出てきて欲しいものだ。退屈過ぎる」
と響かせた。
他に報告は?と促す側近に
「報告書に書いてある以上の事は特には……」
と返すと
「下がって良い」
と短く響き、先ほどまで視認出来ていた闇は、霧散し夜に溶け込む。
ただ魔王様がそこに居るだけで、発し続けるプレッシャーからようやく解放され、私は小さく息を吐いた。
「お疲れさまでした」
と側近に事務的に頭を下げられて私は玉座の間を後にする。
行きと同じく、窓から空へと飛び出して……
溜まっていたブレスを天に向かって吐き出し、あぁ……また明日も仕事だ……と
少し憂鬱な気分になりながら。私は帰宅するのであった。
明日は特に面倒ごとが起きませんように
とほとんどフラグにしかならない願いを祈りつつ、私の意識はゆっくりと沈んでいった。
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