5 / 75
モンスターとして
しおりを挟む
仕事も片付き、余裕のあった午後に作成した報告書を持ち外に出る。
周囲に誰も居ないことを確認し、自分にかけている魔法の一部を解除。
明らかに自分の今の体には大き過ぎる、アンバランスな翼が背に生える。
片翼でさえ私の全身を覆えるような龍族の翼。
その翼で空を叩く事、一回。
それだけで先ほどまで地に立っていた私は、自分の家が豆粒ほどの大きさに見える程度の上空に移動していた。
そのままもう一度翼で空を叩き、
音すら置き去りにし、目的の場所へ向かう。
目指すは、……魔王城。
*
窓ガラスが無い窓から城内に入り、一番奥、玉座の間を目指す。
玉座の間へと続く扉の前には……
私の仕事を唯一手伝えるが、絶対に手伝ってくれない側近様が単体。
「今回もご苦労様です。定期報告でございすね?」
「それ以外にここに来れるほど手が空いてませんからね。どなたかが手伝ってくれればいいのですが」
「考えておきましょう。どうぞ」
事務的な対応に皮肉を返したが、皮肉に返ってきたのは考える……だそうで、
どうせ考えるだけで手伝いもしてくれない側近に続き、玉座の間へと続く扉をくぐる。
部屋の中央には豪華な玉座。
魔王様曰く
「人間の王に脅したら貰った」
に腰を……おそらく掛けている魔王様の姿。
おそらくというのは見えないからである。
存在はある。気配もする。
しかし、魔王様は言うなれば概念である。
目に映るのは玉座にまとわりつく闇であり、
その闇こそが魔王様である。
決まった姿は無い。
ただ闇として、魔王という概念をまとう我らが王に、私は跪いて頭を垂れる。
「今回の報告書をお持ちいたしました」
報告書を差し出すと、闇の中に報告書が溶ける。
「どうだ?見込みのあるやつは見つかったか?」
低く、昏い声が響く。
「いいえ。おおよそ”勇者”と呼べる者の存在は未だ確認できません」
そもそもSランクのダンジョン踏破者が居ない時点で、魔王様の脅威になりえる存在すらいない。
「そうか、まぁすぐに成果があるとは思っておらん。引き続き、頼むぞ」
少し残念そうに、闇が一瞬震えてそう響く。
「しかし、本当に”勇者”という存在は現れるのでしょうか?」
と側近が尋ねる。
同じ疑問を私も持っていた。
そもそも”勇者”なる存在を知ったのは魔王様の口からその単語が出てからだ。
唐突に勇者は来るよなぁと呟いた魔王様にははたして何が見えていたのか。
「一応人間の文献には、おとぎ話としてですが、勇者という存在は確認しました。なんでも、女神の加護を持ち、決して屈さぬ強き心を持ち、掛け替えの無い仲間を連れて、魔王を滅ぼすもの……と」
今度は満足そうに、闇が震え
「ぜひとも出てきて欲しいものだ。退屈過ぎる」
と響かせた。
他に報告は?と促す側近に
「報告書に書いてある以上の事は特には……」
と返すと
「下がって良い」
と短く響き、先ほどまで視認出来ていた闇は、霧散し夜に溶け込む。
ただ魔王様がそこに居るだけで、発し続けるプレッシャーからようやく解放され、私は小さく息を吐いた。
「お疲れさまでした」
と側近に事務的に頭を下げられて私は玉座の間を後にする。
行きと同じく、窓から空へと飛び出して……
溜まっていたブレスを天に向かって吐き出し、あぁ……また明日も仕事だ……と
少し憂鬱な気分になりながら。私は帰宅するのであった。
明日は特に面倒ごとが起きませんように
とほとんどフラグにしかならない願いを祈りつつ、私の意識はゆっくりと沈んでいった。
周囲に誰も居ないことを確認し、自分にかけている魔法の一部を解除。
明らかに自分の今の体には大き過ぎる、アンバランスな翼が背に生える。
片翼でさえ私の全身を覆えるような龍族の翼。
その翼で空を叩く事、一回。
それだけで先ほどまで地に立っていた私は、自分の家が豆粒ほどの大きさに見える程度の上空に移動していた。
そのままもう一度翼で空を叩き、
音すら置き去りにし、目的の場所へ向かう。
目指すは、……魔王城。
*
窓ガラスが無い窓から城内に入り、一番奥、玉座の間を目指す。
玉座の間へと続く扉の前には……
私の仕事を唯一手伝えるが、絶対に手伝ってくれない側近様が単体。
「今回もご苦労様です。定期報告でございすね?」
「それ以外にここに来れるほど手が空いてませんからね。どなたかが手伝ってくれればいいのですが」
「考えておきましょう。どうぞ」
事務的な対応に皮肉を返したが、皮肉に返ってきたのは考える……だそうで、
どうせ考えるだけで手伝いもしてくれない側近に続き、玉座の間へと続く扉をくぐる。
部屋の中央には豪華な玉座。
魔王様曰く
「人間の王に脅したら貰った」
に腰を……おそらく掛けている魔王様の姿。
おそらくというのは見えないからである。
存在はある。気配もする。
しかし、魔王様は言うなれば概念である。
目に映るのは玉座にまとわりつく闇であり、
その闇こそが魔王様である。
決まった姿は無い。
ただ闇として、魔王という概念をまとう我らが王に、私は跪いて頭を垂れる。
「今回の報告書をお持ちいたしました」
報告書を差し出すと、闇の中に報告書が溶ける。
「どうだ?見込みのあるやつは見つかったか?」
低く、昏い声が響く。
「いいえ。おおよそ”勇者”と呼べる者の存在は未だ確認できません」
そもそもSランクのダンジョン踏破者が居ない時点で、魔王様の脅威になりえる存在すらいない。
「そうか、まぁすぐに成果があるとは思っておらん。引き続き、頼むぞ」
少し残念そうに、闇が一瞬震えてそう響く。
「しかし、本当に”勇者”という存在は現れるのでしょうか?」
と側近が尋ねる。
同じ疑問を私も持っていた。
そもそも”勇者”なる存在を知ったのは魔王様の口からその単語が出てからだ。
唐突に勇者は来るよなぁと呟いた魔王様にははたして何が見えていたのか。
「一応人間の文献には、おとぎ話としてですが、勇者という存在は確認しました。なんでも、女神の加護を持ち、決して屈さぬ強き心を持ち、掛け替えの無い仲間を連れて、魔王を滅ぼすもの……と」
今度は満足そうに、闇が震え
「ぜひとも出てきて欲しいものだ。退屈過ぎる」
と響かせた。
他に報告は?と促す側近に
「報告書に書いてある以上の事は特には……」
と返すと
「下がって良い」
と短く響き、先ほどまで視認出来ていた闇は、霧散し夜に溶け込む。
ただ魔王様がそこに居るだけで、発し続けるプレッシャーからようやく解放され、私は小さく息を吐いた。
「お疲れさまでした」
と側近に事務的に頭を下げられて私は玉座の間を後にする。
行きと同じく、窓から空へと飛び出して……
溜まっていたブレスを天に向かって吐き出し、あぁ……また明日も仕事だ……と
少し憂鬱な気分になりながら。私は帰宅するのであった。
明日は特に面倒ごとが起きませんように
とほとんどフラグにしかならない願いを祈りつつ、私の意識はゆっくりと沈んでいった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる