こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

文字の大きさ
9 / 75

続、女子会

しおりを挟む
 女子会とは何だろう。
まぁ名前の通り女子で楽しむ会であろう。
この会は飲み会でもあるしお茶会でもあるだろう。
問題はそこではない。

 問題は……
「あなた……男でしょう?」
若干酔いが醒めてしまったのか予想より低い声が出てしまった。

「はぁい☆でも今は~女の子ですよ~?」
普段来ている、夜から引っ張り出したような黒ばかりのタキシードではなく、
ところどころにフリルの付いた、いわゆるゴシックロリータ調のスーツの様な服装の……彼?

 下に履いているのはスカートであるし、胸もほんの僅かながら膨らんでいる。
しばしの沈黙……あぁ……なるほど。

「性別を偽った……と」
「ピンポ~ン☆大・正・解・で~す☆」
本当にこの人には世の理が通じないようで……

「女子会なるものに誘われたのなら女子として行くべきという事で~、まぁ普段の僕でも十分女の子の見た目なんですけど~、やっぱり雰囲気重視という事で~、女の子になってみました~」
割と気軽にその魔法は使えるようですね……全く、

「さて~、あ、すいませ~ん、赤ワインいただけます~?あとおつまみにチーズを数種お願いしま~す」

 私たちの席に座りながら流れるように注文。

「最初はエールじゃないノ?とりあえズ感覚でサ」
「あまりエールは好きじゃないんですよ~。というかもっぱら赤ワイン専門です~」
「というかあなた人間の言葉なんて今まで話した事ありました?わたくし初めて聞くような……」
「僕としてはお二人みたいに話せるほうが不思議ですよ~?僕は”嘘”をついてるだけですし~?」
「わたくしはリリスに転醒した時に理解出来ましたわ。書けはしませんがお話しする分には不自由しません」
「私ハ頻繁にこの町に素材卸してるからネー。その度に酒場でお酒飲んでたラ覚えたヨ?」

 転醒で理解した、何度も聞いてたら覚えた……話せないが自分は話せると自分に”嘘”をついて喋っている。
……みんないいなぁ、話せるようになった経緯がプライベートで……
冷静に考えてですよ?なんで同じ言葉でイントネーションで意味が違ってきやがります?

 文字を覚えるために書き写しして、発声練習まで行って、ギルドの人達から優しい言葉とアドバイスを貰って、私がどれだけ涙を流したか知ってますかね貴方がたは……。思わず心がゲリラ豪雨に襲われた所で、

 お待たせしました。
と吸血鬼の頼んだチーズと、ボトルワインが運ばれてくる。

 お注ぎしますわ。
とリリスがグラスに注いで。

「乾杯のしき直シかなァ?」
再びの乾杯。

 と吸血鬼のこだわりなのか、一度グラスに注がれたワインを天井の光りに透かし、無邪気な子供の様な笑みを見せ、ゆっくりと一口口に含む。

 コロコロと舌で転がし、ゆっくり飲み込んで、ふぅ、と目を細め、今が幸せの瞬間である、と主張し、

「美・味・し・い・で~す☆本当に最高ですね香りも味わいも後味も何もかもが完成されている完ッ璧な飲み物ですね赤ワインは~」
先ほどの上品な空気はどこへやら。そう早口でまくし立てた。

「今さっきの一連の動作が不覚にも色っぽく見えてしまったのが解せませんわ」
「ずいぶん美味しそウに飲むネー?私ワインダメー」
「銘柄とおつまみで酸味や渋みは何とかなりますよ~?僕は全部の銘柄好きですけど~」
「血しか飲んでるイメージがありませんでしたが、お酒もたしなむのですね」
「赤ワインは神の血である。なんて伝わっている地域もあるらしいですよ~?つまり僕は神様の血を飲んでいるわけです~。これ以上強くなったらどうしよ~」

 その時は魔王様に挑もうとする前に丸焼きにでもいたしましょうか。

「そういえば僕が来る前はどんな話してたんです~?」
「普段通りノ愚痴だヨー?」
「主に魔王様のですけど……」
「お酒でも入ってないとあの方への愚痴なんて言えませんわ。この際、と笑いながらこぼしてましたわ」
「へ~。是非とも聞きたかったです~。……では僕もお酒が入って無いと出来ない話でもしてみます~」

 一瞬、何とも言えないゾクリとした感覚があったのは気のせいだろうか。

「皆さん僕の得意な魔法は知ってますよね~?」
いきなりモンスターの言葉に戻り話し始める吸血鬼。

「先ほどからおっしゃっている”嘘”をつく魔法でしょう?」
「は~い☆大正解で~す。ではでは~。一番負担が掛からない”嘘”って何だと思います~?」
「”嘘”っテ言っても魔法だかラ、何かに干渉かんしょうするよリ自分に掛けル魔法?」
「それも正解で~す。現にさっきは自分に性別と話す言語と、2つの”嘘”をついてました~。」
負担が軽いから”嘘”が重ねられたという事か…

 では、と区切り
「僕はいったい幾つまで重ねる事が出来るでしょ~う」
チビチビとチーズを食べ、ワインを楽しみながら話は続く。

「想像も出来ませんね、どうせ素直には答えないでしょうが」

 自分の手の内、しかも彼にしてみれば核に等しい情報だ。素直に教えはしないだろう。

「まぁ~そうなんですけどね~。ではではここからが本題ですよ~」
コホンとワザとらしく咳払い。

「”嘘”を重ねられる事により、どんな事が可能となるでしょ~う」
「それこそ何でも出来る。ではないのかしら?そうね……冒険者に扮して他のダンジョンに遊びに行く……とか?」
「そレ、やって意味無いでしョ。う~ン……魔王様に扮して無茶な命令をさせル?ってまさカ!?」
「どっちも外れで~す☆魔王様になれるのならもっとメチャクチャにしてま~す☆そもそも”嘘”で姿を変えるのは自分以下の強さを持った存在に限りま~す」
「つまり自分より弱い存在になって、何かしている?」
「はぁい☆」

 満面の笑みでこちらにその通り、と示す彼に、今度こそ背筋が凍りつくのを感じた。
彼の言わんとする事が理解出来たのだ。

 つまり……

「例えば僕が”嘘”で自分より弱いモンスターに姿を変えたとしますよね~?でも元は僕ですのでそこら辺のモンスターよりは知能があります~」

 外れていて欲しい予感ほどよく当たるという。

「そんなモンスターをわざわざなんて……ありませんよね~?」

 邪悪な笑みと、口元から覗く牙が、私に向かってくる錯覚を覚えたのは気のせいだろうか。

「別のモンスターになり、Sランクじゃないダンジョンのマスターになれば~、冒険者が全く来ないSランクと違い、冒険者は結構な数が来ます~」

 あぁ……やっぱり、

「そこで撃退し続ければ僕だって強くなれるはずですよね~?と、さらに申し訳ありませんが~、僕、存在自体に”嘘”をつけば~」
「こんな事だって出来ちゃいま~す」

 急に言葉の途中で、声が背後から聞こえた。
慌てて振り向くと、吸血鬼そっくり……というよりはもう、

……」

 一同絶句である。一体彼は、今までにいくつのダンジョンマスターになっていたのか……
本人以外に知る術は無い。だが、待て。ランクの割に異様にクリア報告の少ないダンジョンを洗い出せば……

「あ、無駄だと思いますよ~?ちゃんと適度に負けてあげてますから~」

 思考を先回りされ、トドメの一言。

「貴方は……」

 怒りを通り越し、むしろ感嘆に値するとさえ思う。

「ま、ぜ~んぶ嘘☆ですけどね~☆」

 気が付けばボトルワインを逆さまにひっくり返し、残ったほんの二口分をグラスに注ぎながら言うが……
 そこにいる彼を除いた三人は、
(信用出来るわけありませんわね)
(信用出来なイよネー)
(嘘であってください下手すりゃクレーム連発案件です誰も気づかないでください気付かれないでください詐欺行為もいいとこですごめんなさいごめんなさいごめんなさい)

各自そんな事を思っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4
ファンタジー
王都は整備局に就職したピートマック・ウィザースプーン(19歳)は、勇者御一行、魔王軍の方々が起こす戦闘で荒れ果てた大地を、上司になじられながらも修復に勤しむ。平地の行き届いた生活を得るために、本日も勤労。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...