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温泉旅館
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えっと……記憶違いでしょうか。
ここはSランクダンジョン神楽の社。
姉御の居るダンジョンで、モンスターハウスと化しているいくつかの建物と、その建物をつなぐ庭で構成されたダンジョンのはずだ。
しかし、ダンジョン内の全ての建物が何やらもうもうと湯気を立ち込めさせている。
ダンジョンの入り口には何やら達筆で、{神楽の郷}と看板が立てられていた。
そんな状況に頭が付いていかず、私はダンジョンの入り口で呆然と立ち尽くしていた。
と、
「あっレー?ドラちゃんモ招待されたノー?」
と後ろから声をかけられる。
「私も、という事はハーピィさんもですか?」
「そだヨー。少し前ニ招待状が来てネー。にしてモ私が知ってル九尾のダンジョンじゃ無くなってるよネー」二人で困惑中だったが
「なんや、まだ入ってきてへんのか。早う入りーな」
と入り口に近い建物から姉御が登場。
相変わらず下駄を鳴らし、煙管を片手に鈴の音を響かせながらの登場である。
「他の3人はもう中に入ってんで」
と言われ、姉御の後を付いていく。
建物の一つ、モンスター専用とこれまた達筆で書いてある中へ案内される。
中には、
「あら?あなた方が最後らしいですわよ?」
と言うリリスと、
「連休中もお姉さまとお過ごし出来る等感無量の極みですわー!」
と私に抱きつき頬擦りしてくるパパラと、
「やっぱり僕らだけ男の子なんですね~。まぁ気にしませんが~」
とニヘラニヘラと笑う吸血鬼と、
せっせせっせと料理を並べたりと動き回るツヅラオが居た。
やや大きめの部屋の中央に置いてあるテーブルに、煮魚や天ぷら、刺身と山の幸、川の幸、海の幸満載の料理が置いてある。
当然お酒も。
御馳走とは、こういったものの事を言うのであろうか。
「ほら、ほら、ぼーっと突っ立ってへんで座ってや」
と促されテーブルに座る。
「ほんなら、この休みは九尾の郷を利用して貰うておおきに。料理にお酒に温泉にと、ゆっくり体を休めてってや」
姉御が話している間にちょこちょこと、ツヅラオと同じくらいの妖狐達によってお酒が注がれる。
「まずは、そないな心配してへんかったけど、誰もやられてない事を祝して、乾杯!」
姉御の掛け声で全員乾杯。
清酒はあまり好きではないのですが、と思いながらも口に含むと、そんな思いは吹き飛んだ。
思わず注がれたお酒を凝視する。
他のみなも同じような反応をしているところを見ると、どうやら感想は同じのようだ。
目茶苦茶飲みすく、透き通るような味。
今まで飲んだどのお酒より、確実に美味しいと思える。
「九尾さん?このお酒は……?」
「うちが作ったで?この日みんなに振舞うために腕によりをかけてな」
姉御手作りなのか……。
「信じられないくらい美味しいんですけど~?どうやって作ったんです~?」
「どないしてって、別に普通にやけど?それより料理も食べてや。うちの子らがせっかく作ったんやさかい冷めへんうちに」
そうでした。お酒に心を奪われてました。
せっかくなので普段あまり食べない焼き魚からいただきましょう。
パリッと焼けた皮を箸で破けば中から現れるのは青いとさえ感じるほどに真っ白の身。
少し触れただけで脂が溢れてくるところを見ると完璧な火加減で焼かれているのだろう。
こんなの、美味しいに決まっているではありませんか。
魚を食べ、お酒を飲んで余韻に浸る。
周りの音すら意識に入らないほど深く、深く、自分の世界だけで堪能し、
また焼き魚へ箸を伸ばす。
幸せの時間は始まったばかりである。
*
「そういえバ、どうして急ニこんな事ヲ?」
「というかダンジョンの改修依頼、出していませんよね?」
「思い立ったさかいな。ほんで、連休終わりには元に戻すで。それなら文句あらへんやろ?戻したところで、どうせ冒険者は来いひんけどなぁ」
酒は進み、料理は食べては次から次へと運ばれてくる。
そんな中でハーピィの質問を皮切りに皆が皆、思った疑問を口にする。
「そもそも改修や温泉、料理にも人間のお金がかかりませんこと?あなたそんなにお金持ってますの?この前の飲み会も全員分払って貰ったみたいですし」
「あぁ、お姉さまが、麗しいお姉さまが、お酒で段々と顔が赤らんでいくのを見ながらのお酒が!こんなにも美味しいなんて……」
一人変な事を口走っているが絶対に無視。
「お金については困らへんで。うち、チビッ子達からは神様扱いされとるさかい」
「神様~?貴女が~?」
「そう疑いの目で見ーひんの。蝙蝠風情が。農業や穀物の神様と扱われてん」
初耳である。
「狐は化かす生き物ですからね~?どうやって人間を騙したのやら~」
「あんたの嘘には敵わへんよ。ま、日頃からの行いやな。そんなわけでお賽銭やらでお金は懐に入ってくるんよ」
姉御のお財布事情、把握。
姉御は毛づくろいさえお金を貰っているらしいが、人間からしたら神様に毛づくろいをしているという考えなのだろう。
御利益……があるかは定かではないが、信じる心は大事という事か。
「それにな、誰とは言わんがここ最近色々大変やったやろし、どうせ呼ぶなら思いついた全員思て声かけたんよ」
「一体どこのお姉さまでしょうかね。転醒したトロールと魔力が付きかけるまで死闘して、魔王の悪夢で無理矢理の魔力補給、死ぬ前に完全回復魔法を自分にかけて、数日後にはどこぞのSランクのマスターさんと手合わせしたなんてのは」
えぇと……パパラ?
口調が段々刺々しくなっているのですが?
「魔王の悪夢って……あれ飲むバカ居るんですね~」
チラチラ
「しかも転醒したトロールと死闘……ですか」
チラチラ
「そしテ、私達の中デ搦め手無しで純粋に強イ九尾と手合わせカー」
チラチラ
皆さんがこちらを見てくるんですが……魔王の悪夢はともかく、他は別にそんなに……
「言っておきますけどお姉さま。私でしたらどれか一つでも拒否しますわよ?」
いや、パパラはSランクのマスターではありませんし……
「僕もパスです~。どれも嘘を出し惜しみ出来ないものばかりです~。というか魔王の悪夢は状況によっては僕死んじゃいます~」
嘘でどうとでもなるにはなるが、そうまでしてやることではない、と。
「わたくしもパスですわね。九尾さんは魅了の事を知って居ますし、魔王の悪夢は論外、トロールは性欲の塊で野蛮なので近づきたくすらありませんわ」
論外とまで言われると相当危険だったんですね……あれ。
「私は九尾ト手合わせなラやってもいいかナー。九尾は魔法禁止の条件でなラだけどネー」
姉御以外には触れすらしない辺りもう察しましたよ。
「そや、一つ気になっとったんや。トロールの転醒の事やけど、あれ固有転醒かもしれへんで」
「固有?普通の転醒と違うんですか?」
「うちも見た事は少ないからからはっきりとは言えへんけど、普通の転醒は全体的に能力底上げされる感じや。対して固有やと尖ったちゅうか、何かに特化したような感じや」
パパラが言っていた魔王の悪夢を飲んだゴブリンの話。
そして固有転醒……と。
初めて知りましたね。
何かに特化する転醒ですか。
というか普通の転醒が全体的な能力底上げという情報すら初耳なんですが……
まだまだ、モンスターの事すら知らない事ばかりです。
そうこう話していれば、ツヅラオがひょっこりと部屋に顔を出し
「次が〆の品なのです!僕の料理は堪能して頂けましたのです?」
なんて聞いてくる。
姿が見えないと思えば、料理を作ってくれていたのですか。
お酒も料理も、残すことなく空になりましたよ。
「あの子がお作りになっていましたの?……今度貸してくださらない?」
「今はマデラの仕事を手伝わせてるさかいなぁ。しばらく無理や思うで」
「そんな……」
隣でがっくりリリスが項垂れる。
いや、本当に家にいて欲しいくらい美味しかったんですよ。
「〆の一品作り終えたら、片付けは壬と戊に任せてツヅラオもこっちおいで。風呂入んで」
温泉、初めて入るんですよね。
とても楽しみ……
ツヅラオや吸血鬼とも入るのですかね?
ここはSランクダンジョン神楽の社。
姉御の居るダンジョンで、モンスターハウスと化しているいくつかの建物と、その建物をつなぐ庭で構成されたダンジョンのはずだ。
しかし、ダンジョン内の全ての建物が何やらもうもうと湯気を立ち込めさせている。
ダンジョンの入り口には何やら達筆で、{神楽の郷}と看板が立てられていた。
そんな状況に頭が付いていかず、私はダンジョンの入り口で呆然と立ち尽くしていた。
と、
「あっレー?ドラちゃんモ招待されたノー?」
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「私も、という事はハーピィさんもですか?」
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相変わらず下駄を鳴らし、煙管を片手に鈴の音を響かせながらの登場である。
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と言われ、姉御の後を付いていく。
建物の一つ、モンスター専用とこれまた達筆で書いてある中へ案内される。
中には、
「あら?あなた方が最後らしいですわよ?」
と言うリリスと、
「連休中もお姉さまとお過ごし出来る等感無量の極みですわー!」
と私に抱きつき頬擦りしてくるパパラと、
「やっぱり僕らだけ男の子なんですね~。まぁ気にしませんが~」
とニヘラニヘラと笑う吸血鬼と、
せっせせっせと料理を並べたりと動き回るツヅラオが居た。
やや大きめの部屋の中央に置いてあるテーブルに、煮魚や天ぷら、刺身と山の幸、川の幸、海の幸満載の料理が置いてある。
当然お酒も。
御馳走とは、こういったものの事を言うのであろうか。
「ほら、ほら、ぼーっと突っ立ってへんで座ってや」
と促されテーブルに座る。
「ほんなら、この休みは九尾の郷を利用して貰うておおきに。料理にお酒に温泉にと、ゆっくり体を休めてってや」
姉御が話している間にちょこちょこと、ツヅラオと同じくらいの妖狐達によってお酒が注がれる。
「まずは、そないな心配してへんかったけど、誰もやられてない事を祝して、乾杯!」
姉御の掛け声で全員乾杯。
清酒はあまり好きではないのですが、と思いながらも口に含むと、そんな思いは吹き飛んだ。
思わず注がれたお酒を凝視する。
他のみなも同じような反応をしているところを見ると、どうやら感想は同じのようだ。
目茶苦茶飲みすく、透き通るような味。
今まで飲んだどのお酒より、確実に美味しいと思える。
「九尾さん?このお酒は……?」
「うちが作ったで?この日みんなに振舞うために腕によりをかけてな」
姉御手作りなのか……。
「信じられないくらい美味しいんですけど~?どうやって作ったんです~?」
「どないしてって、別に普通にやけど?それより料理も食べてや。うちの子らがせっかく作ったんやさかい冷めへんうちに」
そうでした。お酒に心を奪われてました。
せっかくなので普段あまり食べない焼き魚からいただきましょう。
パリッと焼けた皮を箸で破けば中から現れるのは青いとさえ感じるほどに真っ白の身。
少し触れただけで脂が溢れてくるところを見ると完璧な火加減で焼かれているのだろう。
こんなの、美味しいに決まっているではありませんか。
魚を食べ、お酒を飲んで余韻に浸る。
周りの音すら意識に入らないほど深く、深く、自分の世界だけで堪能し、
また焼き魚へ箸を伸ばす。
幸せの時間は始まったばかりである。
*
「そういえバ、どうして急ニこんな事ヲ?」
「というかダンジョンの改修依頼、出していませんよね?」
「思い立ったさかいな。ほんで、連休終わりには元に戻すで。それなら文句あらへんやろ?戻したところで、どうせ冒険者は来いひんけどなぁ」
酒は進み、料理は食べては次から次へと運ばれてくる。
そんな中でハーピィの質問を皮切りに皆が皆、思った疑問を口にする。
「そもそも改修や温泉、料理にも人間のお金がかかりませんこと?あなたそんなにお金持ってますの?この前の飲み会も全員分払って貰ったみたいですし」
「あぁ、お姉さまが、麗しいお姉さまが、お酒で段々と顔が赤らんでいくのを見ながらのお酒が!こんなにも美味しいなんて……」
一人変な事を口走っているが絶対に無視。
「お金については困らへんで。うち、チビッ子達からは神様扱いされとるさかい」
「神様~?貴女が~?」
「そう疑いの目で見ーひんの。蝙蝠風情が。農業や穀物の神様と扱われてん」
初耳である。
「狐は化かす生き物ですからね~?どうやって人間を騙したのやら~」
「あんたの嘘には敵わへんよ。ま、日頃からの行いやな。そんなわけでお賽銭やらでお金は懐に入ってくるんよ」
姉御のお財布事情、把握。
姉御は毛づくろいさえお金を貰っているらしいが、人間からしたら神様に毛づくろいをしているという考えなのだろう。
御利益……があるかは定かではないが、信じる心は大事という事か。
「それにな、誰とは言わんがここ最近色々大変やったやろし、どうせ呼ぶなら思いついた全員思て声かけたんよ」
「一体どこのお姉さまでしょうかね。転醒したトロールと魔力が付きかけるまで死闘して、魔王の悪夢で無理矢理の魔力補給、死ぬ前に完全回復魔法を自分にかけて、数日後にはどこぞのSランクのマスターさんと手合わせしたなんてのは」
えぇと……パパラ?
口調が段々刺々しくなっているのですが?
「魔王の悪夢って……あれ飲むバカ居るんですね~」
チラチラ
「しかも転醒したトロールと死闘……ですか」
チラチラ
「そしテ、私達の中デ搦め手無しで純粋に強イ九尾と手合わせカー」
チラチラ
皆さんがこちらを見てくるんですが……魔王の悪夢はともかく、他は別にそんなに……
「言っておきますけどお姉さま。私でしたらどれか一つでも拒否しますわよ?」
いや、パパラはSランクのマスターではありませんし……
「僕もパスです~。どれも嘘を出し惜しみ出来ないものばかりです~。というか魔王の悪夢は状況によっては僕死んじゃいます~」
嘘でどうとでもなるにはなるが、そうまでしてやることではない、と。
「わたくしもパスですわね。九尾さんは魅了の事を知って居ますし、魔王の悪夢は論外、トロールは性欲の塊で野蛮なので近づきたくすらありませんわ」
論外とまで言われると相当危険だったんですね……あれ。
「私は九尾ト手合わせなラやってもいいかナー。九尾は魔法禁止の条件でなラだけどネー」
姉御以外には触れすらしない辺りもう察しましたよ。
「そや、一つ気になっとったんや。トロールの転醒の事やけど、あれ固有転醒かもしれへんで」
「固有?普通の転醒と違うんですか?」
「うちも見た事は少ないからからはっきりとは言えへんけど、普通の転醒は全体的に能力底上げされる感じや。対して固有やと尖ったちゅうか、何かに特化したような感じや」
パパラが言っていた魔王の悪夢を飲んだゴブリンの話。
そして固有転醒……と。
初めて知りましたね。
何かに特化する転醒ですか。
というか普通の転醒が全体的な能力底上げという情報すら初耳なんですが……
まだまだ、モンスターの事すら知らない事ばかりです。
そうこう話していれば、ツヅラオがひょっこりと部屋に顔を出し
「次が〆の品なのです!僕の料理は堪能して頂けましたのです?」
なんて聞いてくる。
姿が見えないと思えば、料理を作ってくれていたのですか。
お酒も料理も、残すことなく空になりましたよ。
「あの子がお作りになっていましたの?……今度貸してくださらない?」
「今はマデラの仕事を手伝わせてるさかいなぁ。しばらく無理や思うで」
「そんな……」
隣でがっくりリリスが項垂れる。
いや、本当に家にいて欲しいくらい美味しかったんですよ。
「〆の一品作り終えたら、片付けは壬と戊に任せてツヅラオもこっちおいで。風呂入んで」
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