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風呂にて一杯
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ねーやっぱりさー、分からない事があったら誰かに聞いた方がいいんじゃないー?
どうやれば強くなれますか、なんて聞く勇者聞いたことないよ。
でもレベル上がるの伸び悩んでるじゃん。
そ、そうだけど……。
ほら、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うでしょ。
う、分かったよ。……でも誰に聞くの?
とびきり強い人の方がいいよねー。どうせ聞くなら。
▽
――――カッポーン
とどこかで聞いたような音が響く。
「はー、極楽極楽♪」
「初めテ入るけド気持ちいいネー」
「お姉さまと一緒のお風呂……グヘ、グヘヘ……」
「不思議な……感覚ですわね。……何故だか安心してしまうような……」
「ツヅラオー?そっちの湯加減どやー?」
「丁度いいのです!極楽なのです!」
「日々の疲れが取れるってもんですね~」
皆の口々の感想が零れるここは、温泉で。
屋根だけ取り付けられ、山の景色を一望出来るように作られた露天風呂であった。
「いい景色ですねー」
「せやろ?ここで飲む酒がまたうまいんよ」
と、先ほどまで飲んでいたにもかかわらず、気の桶に猪口と徳利とつまみの漬物を乗せ湯舟に浮かべながら姉御が言う。
「皆の分あるさかいね。温泉で星見酒、月見酒と洒落込んで、しばらくすれば花見酒やで」
「本当にお酒好きなんですわね。わたくしあまり強くないので……」
すでに顔は真っ赤になり、湯舟に足だけをつけて顔をパタパタと手で仰いでいるリリス。
「あらリリス様?こういった場ではお酒は雰囲気を飲むものですわ」
「お、よう分かってんやん」
と姉御がパパラにお酌。
「そういえばあんたがマデラの看病に行ってくれたんやったね。おおきにな」
「いえいえこちらこそ、ですわ。あんなに弱っているお姉さまも見れた事と、看病が出来た事は感謝してもしきれませんもの」
「ええ性格しとるわ。あんた」
カカカと笑いながら姉御はこちらを向き
「こないにあんたの事を慕うてんのやさかい、大切にせなあかんで」
ニッコリ笑顔で言ってくる。
「ええ、大切にしますよ」
私の体を。体調崩すことも、もうこりごりです。
「お姉さま……」
もう悔いはない、と言った笑顔でパパラは天を仰ぎ、そのまま後ろに倒れる。
バッシャーンと音を立て、風呂の中に沈んでいく。
「のぼせたか?よいしょ、と」
姉御が片手で引き上げリリスの隣へ座らせる。
「丙ー。ちと来てくれるかー?」
姉御に丙と呼ばれた妖狐は
何事でしょうか、と顔を出す。
「二人が熱い言うてるから扇いだってくれるか?」
お任せください。とリリスとパパラを風の魔法を使って扇ぎ始める。
あれ?そういえばハーピィが静かなような……
見渡せば、プカーと湯舟に浮いているハーピィ。
この子もですか。
同じく引き上げ、こちらもお願いします。と二人を扇いでいる妖狐に頼む。
そういえばこの人達はあまりお酒に強くは無いんでしたね。私たち基準ですが。
「結局マデラとうちしか残らんいつもの飲み会やな」
ポリポリと漬物を食べながら姉御が言う。
「いつもはここに吸血鬼もいますけど、向こうですし」
流石に性別で分けて温泉に入っているため吸血鬼とツヅラオは竹柵の向こう側である。
「呼びました~?」
「呼んでへん。それよりツヅラオにおいたしたら許さへんからなー?」
「して欲しいんです~?美味しく頂けますよ~?」
「ヒッ!?ちょ!?目が、目が怖いのです!?」
「よろしい、やったら戦争や」
と、星と月しか光が無かった夜空に、大きな、眩しい大輪の花が咲いた。
「やっと始まったか。ようやく花見酒や」
見渡しても花が見当たらないと思ったら、花火の事でしたか。
平和の祭典の始まりを告げる花火。
色とりどりの花が、ある花は大きく、ある花は控えめに、時に枝垂れて、時に瞬いて。
思わず見とれて声も出ないほど、美しい花火が続く。
こういった花見酒もまた、趣のあるものですね。
「なぁ、マデラ、あの花火に何の意味があるか知ってんか?」
「意味……ですか?平和の祭典の象徴なのでは」
「せやな、ほな、平和てなんや?何をもって平和なんや?」
何故こんな事を今聞くのだろうか。
「勇者が魔王を打ち取ったという伝承があるから……」
「勇者が打ち取って?その先はほんまに平和やったん?」
文献には勇者が打ち取った以外の記述は無かったはずだ。
打ち取った後は?勇者は、世界は、モンスターはどうなった?
いや、何より、そんな伝承が残っているのに今魔王様が存在しているのは……
「もうほとんど覚えてん者も居ーひん話や」
どこか寂しそうに、目を細めて、未だに打ちあがり続ける花火を見ながら、そう呟く姉御。
「ほな、そろそろ上がるか。他のみんなはグロッキーやし、マデラ、手伝うてや」
わたくしは歩けますわ。
とフラフラしながら自力でリリスは戻ったが、
ハーピィとパパラは動けすらしないようなので、私と姉御で担いで温泉を後にした。
私が担いだパパラが、妙に胸に当たるように感じたのは、気のせいだろうか。
……後で確認しておこう。
*
ツヅラオも上がり、一人花火を眺める吸血鬼は隣から聞こえた問答を思い出しながら呟く。
「あの人は、いったいいつまで平和ごっこを続けるんでしょうね~」
と。
そういえばワインはあるか尋ねなければ。
さっきの呟きも花火にかき消され、食事の時に出されなかった自分の大好物を思い出し、
彼もまた、温泉を後にするのだった。
どうやれば強くなれますか、なんて聞く勇者聞いたことないよ。
でもレベル上がるの伸び悩んでるじゃん。
そ、そうだけど……。
ほら、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うでしょ。
う、分かったよ。……でも誰に聞くの?
とびきり強い人の方がいいよねー。どうせ聞くなら。
▽
――――カッポーン
とどこかで聞いたような音が響く。
「はー、極楽極楽♪」
「初めテ入るけド気持ちいいネー」
「お姉さまと一緒のお風呂……グヘ、グヘヘ……」
「不思議な……感覚ですわね。……何故だか安心してしまうような……」
「ツヅラオー?そっちの湯加減どやー?」
「丁度いいのです!極楽なのです!」
「日々の疲れが取れるってもんですね~」
皆の口々の感想が零れるここは、温泉で。
屋根だけ取り付けられ、山の景色を一望出来るように作られた露天風呂であった。
「いい景色ですねー」
「せやろ?ここで飲む酒がまたうまいんよ」
と、先ほどまで飲んでいたにもかかわらず、気の桶に猪口と徳利とつまみの漬物を乗せ湯舟に浮かべながら姉御が言う。
「皆の分あるさかいね。温泉で星見酒、月見酒と洒落込んで、しばらくすれば花見酒やで」
「本当にお酒好きなんですわね。わたくしあまり強くないので……」
すでに顔は真っ赤になり、湯舟に足だけをつけて顔をパタパタと手で仰いでいるリリス。
「あらリリス様?こういった場ではお酒は雰囲気を飲むものですわ」
「お、よう分かってんやん」
と姉御がパパラにお酌。
「そういえばあんたがマデラの看病に行ってくれたんやったね。おおきにな」
「いえいえこちらこそ、ですわ。あんなに弱っているお姉さまも見れた事と、看病が出来た事は感謝してもしきれませんもの」
「ええ性格しとるわ。あんた」
カカカと笑いながら姉御はこちらを向き
「こないにあんたの事を慕うてんのやさかい、大切にせなあかんで」
ニッコリ笑顔で言ってくる。
「ええ、大切にしますよ」
私の体を。体調崩すことも、もうこりごりです。
「お姉さま……」
もう悔いはない、と言った笑顔でパパラは天を仰ぎ、そのまま後ろに倒れる。
バッシャーンと音を立て、風呂の中に沈んでいく。
「のぼせたか?よいしょ、と」
姉御が片手で引き上げリリスの隣へ座らせる。
「丙ー。ちと来てくれるかー?」
姉御に丙と呼ばれた妖狐は
何事でしょうか、と顔を出す。
「二人が熱い言うてるから扇いだってくれるか?」
お任せください。とリリスとパパラを風の魔法を使って扇ぎ始める。
あれ?そういえばハーピィが静かなような……
見渡せば、プカーと湯舟に浮いているハーピィ。
この子もですか。
同じく引き上げ、こちらもお願いします。と二人を扇いでいる妖狐に頼む。
そういえばこの人達はあまりお酒に強くは無いんでしたね。私たち基準ですが。
「結局マデラとうちしか残らんいつもの飲み会やな」
ポリポリと漬物を食べながら姉御が言う。
「いつもはここに吸血鬼もいますけど、向こうですし」
流石に性別で分けて温泉に入っているため吸血鬼とツヅラオは竹柵の向こう側である。
「呼びました~?」
「呼んでへん。それよりツヅラオにおいたしたら許さへんからなー?」
「して欲しいんです~?美味しく頂けますよ~?」
「ヒッ!?ちょ!?目が、目が怖いのです!?」
「よろしい、やったら戦争や」
と、星と月しか光が無かった夜空に、大きな、眩しい大輪の花が咲いた。
「やっと始まったか。ようやく花見酒や」
見渡しても花が見当たらないと思ったら、花火の事でしたか。
平和の祭典の始まりを告げる花火。
色とりどりの花が、ある花は大きく、ある花は控えめに、時に枝垂れて、時に瞬いて。
思わず見とれて声も出ないほど、美しい花火が続く。
こういった花見酒もまた、趣のあるものですね。
「なぁ、マデラ、あの花火に何の意味があるか知ってんか?」
「意味……ですか?平和の祭典の象徴なのでは」
「せやな、ほな、平和てなんや?何をもって平和なんや?」
何故こんな事を今聞くのだろうか。
「勇者が魔王を打ち取ったという伝承があるから……」
「勇者が打ち取って?その先はほんまに平和やったん?」
文献には勇者が打ち取った以外の記述は無かったはずだ。
打ち取った後は?勇者は、世界は、モンスターはどうなった?
いや、何より、そんな伝承が残っているのに今魔王様が存在しているのは……
「もうほとんど覚えてん者も居ーひん話や」
どこか寂しそうに、目を細めて、未だに打ちあがり続ける花火を見ながら、そう呟く姉御。
「ほな、そろそろ上がるか。他のみんなはグロッキーやし、マデラ、手伝うてや」
わたくしは歩けますわ。
とフラフラしながら自力でリリスは戻ったが、
ハーピィとパパラは動けすらしないようなので、私と姉御で担いで温泉を後にした。
私が担いだパパラが、妙に胸に当たるように感じたのは、気のせいだろうか。
……後で確認しておこう。
*
ツヅラオも上がり、一人花火を眺める吸血鬼は隣から聞こえた問答を思い出しながら呟く。
「あの人は、いったいいつまで平和ごっこを続けるんでしょうね~」
と。
そういえばワインはあるか尋ねなければ。
さっきの呟きも花火にかき消され、食事の時に出されなかった自分の大好物を思い出し、
彼もまた、温泉を後にするのだった。
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