こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

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マスター達治療中

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そういえばたまにクエストで野良モンスターの討伐依頼があるけど、あれはダンジョンのモンスターじゃないの?

あれは元ダンジョンのモンスターですよ。

元?

ダンジョンの入り口で俺たち冒険者がやられちまうとそこから外に出ちまうモンスターがいるのさ。
そいつらが野良化して悪さしてるんだ。

マスターと言っても他のモンスターは絶対服従じゃないんだね。

いや、基本は絶対服従だぞ。入り口でやられて逃げた冒険者を追ってダンジョンから離れちまって、帰れなくなって野生化するんだ。

いや、ドジ過ぎるでしょ。

モンスターの知能なんざその程度さ。だからそれ以上の知能を持ったモンスターがマスターになるのさ。

そう考えるとなんかモンスターに愛着湧いちゃう気もするね。

見た目全然かわいくないのばっかだけどな。オークとかゾンビとか。



「ほんで?うちは何したらええの?薬湯なんかあんた一人で事足ってんやないか?」
ゴリゴリと、薬湯を煎じる錦鯉の元へ向かった神楽の質問。

 それに対し、んー、と顎に人差し指を当て、少し考え
「流石に熱中症で倒れてるモンスター分の薬湯は一人じゃ無理よ。作るのも、材料の数も」
と錦鯉。

「ほんならうちに材料取ってこさせようって事か?」

「いや、材料は自分が取りに行くから、薬湯の方をお願いしたいかな」
コトリ、と作り終えた薬湯を置き、
「何入れてるか分かる?」
と神楽に出来たばかりの薬湯を差し出す。

 その薬湯を指ですくってチロリと舐めて、
「……不死草にエンコの実、地黄に甘草、芍薬と人参……てとこか?」
 配合されている全ての材料を言い当てる。

「さっすが~。配合量の方は分かる?」
「大丈夫やろ。これ幾つ作るん?」
「熱中症のモンスターは200体位って言ってたからそれ位かな」
「休まず作り続けろっちゅう事やね。はいよ」

 錦鯉に変わり薬台に移動し、さっそく薬湯を作り始める神楽に、

「じゃあ任せた~。すぐ戻るから~」

 そう言って伸びをし、宙へと駆け出せば、少女の姿は空中で鯉へ。鯉から龍へ。
龍へと姿を変えた彼女は、すぐに姿が小さくなり見えなくなる。

 その姿を見送って、シャン♪シャン♪と心地良い鈴の音を響かせながら、神楽は黙々と薬湯作りに励むのだった。

*

「おらぁ!ぼさっとすんな!遅れりゃそれだけ命に関わるぞ!」
なんて声を上げて麒麟は寝ているモンスター達を片っ端からビンタしていく。

 たった一発のビンタで体内にて暴走しかけていた魔力をそのままの状態で固定。
その状態にした患者をリリスとパパラで魔力の固定を崩さぬようにゆっくりバランスを整えていく。
整えていく、と言ってもそう簡単に出来るわけではない。
そもそも固定された魔力を調整するのに時間がかかるし、何より固定が崩れてしまえばまた暴走する。

 故に、針の穴に糸を通す集中力で、しかしなるべく早く行わなければならず、例えるならば中央はまだ凍っていない氷で彫刻を作るようなもので。

 モンスター一体一体の傍に膝をついて手を握り、体内の魔力を整える二人の額には汗が浮かぶ。

 二人が魔力を整える間に麒麟は熱中症の処置へ。
精霊に命令し、患者の近くに氷を出現させ、まずは体温を下げる。
魔力を整え終えた患者に錦鯉と神楽の作った薬湯を飲ませ、応急処置程度の回復魔法をかける。
いかんせん数が数である為がっつり回復魔法などかけていては魔力も時間も消費し過ぎてしまう。
歩けるようになる程度まで回復したら不死鳥の元へ行くように促して次の患者へ。

「中々に難しいですわね……これ」
リリスにしては珍しく弱音を、しかも自分の配下に聞こえるように言ってしまった辺り本当に辛いのだろう。

「いくら固定しないと暴走すると言っても、ここまでガチガチにしなくても」
と、マデラの時はあっさり魔力のバランスを整えていたパパラも弱音をこぼす。

「これでも調整したぞ。俺の力だとこれ以上弱く固めると暴走しちまう」
小柄のオークの背中をさすり、薬湯を飲み干す手伝いをしながら麒麟は言う。
強すぎる力は制御が難しいらしい。

「うーん」
と何やら二人を見ながら考え事をしている様子の麒麟。

「どうかなさいなして?」
「いや、そう献身的にしてくれてるのはいいんだが、服がちと気に入らねぇ」
なんて言って、指をパチンと鳴らせば。

 ある程度回復したオークやオーガ達から、おお!と声が上がる。

 サキュバスらしい露出の高い服の代わりに、リリスは薄いピンクのナース服に。
パパラはフリフリの付いた青を基調としたメイド服へ。

「完璧」
グッと親指を立て、笑顔でウインクする麒麟とオーガオーク一同。

「普段と違って肌は隠れていますのに、こう、恥ずかしいのは何故でしょう」
「なるだけ早く、終わらせましょう。リリス様」

赤面しそう呟く二人には、野郎どもの黄色い声援が響くのだった。

*

 ひとしきりサキュバス2体をいじった麒麟は薬湯が無くなった事に気が付いた。

「おい!薬湯間に合ってねぇぞ!」
「材料が届かへんからどうにもならんわ」
「はぁ!?水のは一体どこで道草食ってんだ!」
「うっさいわね!戻って来たわよ!」

 タンッと勢いよく地面に降り立った錦鯉。その両手にはよく持てたな、という程の薬湯の材料が。

「急げよ!薬湯待ちが結構いるぞ」
「分かってるわよ!九尾、急ピッチで作るわよ!」
「はいはい。というか薬湯が間に合わへんほど処置が進んどるん?」
「あの2体が優秀なんだよ。やっぱ細かい調整なんてのは俺苦手だわ」

 文字通り神速で薬湯を煎じる錦鯉を尻目に一旦息をつく麒麟。
「あー……目の保養はやっぱ欲しいな。魚しか居ねぇここはつらい」

なんて呟けば錦鯉から音速に匹敵する水弾が飛ばされるが、
バチィッ!と麒麟に当たる前に麒麟の発した小さないかづちに蒸発される。

「つーか、空のの方は大丈夫なんかね。最近になって冒険者が活発になったとかで外傷が多いモンスターが激増したっつってたし、熱中症の最後の回復はあいつの担当だけど」
「魔王の言いなり龍が行ってるし大丈夫じゃない?あいつの魔力ふざけてるから」

 瞬く間に薬湯が補充され、動きを再開しながら呟いた麒麟は、未だに列になっている外傷治療希望のモンスター達を横目で見る。
それに対し答えた錦鯉は、マデラの事をふざけているなんて評して、黙々と薬湯を作る。

 それまで不死鳥とマデラが何をしていたかと言えば、マデラは不死鳥の息の根を止めていた。
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