こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

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陽が沈む前に

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仙狐様仙狐様、人間がこの山を登って来てます。

はぁ? んなもん追い返しぃや。

でもでも、皆さんすっごい怖い顔です。正直近寄りたくないのですが。

はぁ、んならええわ。うちが行ってくる。

仙狐と呼ばれたその存在は、頭を抱えて山を降りていく。

いずれ人間に、神として崇められるその存在は、今の所、そのような空気は一切無かった。



 ツヅラオを背負って跳んで跳ねて、ダンジョンを巡って、陽はすでに傾き始め、午後に回ったダンジョンも二桁を超えて、少し木陰にて休憩中。

 降り注ぐ太陽の下で動き回っているため、汗びっしょり……というわけでもなく。
標高高い山にもダンジョンはあるので、そこで涼み……もとい凍えたり、洞窟の中はひんやりしていたりと意外と汗はかかないもので。

 問題があるとすればそろそろツヅラオの体力が限界というくらいだろうか。
昼寝をしていたとはいえ、普段の何倍も動き回っているのだから当然といえば当然か。

「ツヅラオ、辛いなら先に戻っても構いませんよ?」
「い、いえ、その、だ、大丈、夫、なのです」

 あまり大丈夫に見えないんですけどね。
と、一つ思いついたことが。

「ツヅラオ、念話は使えますか?」

立ち止まってツヅラオの方を向き、尋ねる。

「ね、念話なのです? やった事無いのです」
「私の魔力は感知できますね? その魔力に向けて、何か強く思ってください」
(こ、こうなのです?)

目の前でギュッと目を瞑ったその可愛らしい存在から頭の中に直接声が届く。

「しっかりと出来ていますね。ではツヅラオ、一つ頼まれて頂けますか?」
「は、はひ! 何をすればいいのです?」
「一度ギルドに戻り、どの程度回収されているのか教えて欲しいのです。今の所ダンジョンに配られた装備の中に該当するものがありませんでしたし、下手をするとダンジョンに運ばれた数が0の可能性があります」
「む、無駄足の可能性がある、ということなのです?」
「はい。なのでその場合は私も戻る事が出来るので。それに、全部回収し終えて数が足りない、となってもすぐに動けるように、というのも兼ねてですね」
「わ、分かったのです。……ちなみに、ここからだとギルドはどっちなのです?」

 私は無言でツヅラオの両肩に手を置いて、

「状況が分かりましたら、こまめに報告お願いします」

と伝えるだけ伝えて、彼をギルドへと転移させた。
結構魔力食うんですよね、これ。

*

 全身の毛穴が開き、景色がぐるぐると回って、全ての毛が逆立って、僅かに吐き気を覚えながら、僕はギルドへ戻って来たのです。
いや、あの、本当に気持ち悪いのです。
ギルドの入り口にはすでに戻って来ていた職員の皆さんと、その付近に置いてある今回回収するべきアイアンメイルがいくつも。

「お疲れ様なのです。現在幾つ位回収出来たのです?」
「おかえり、ってツヅラオ君だけかー。マデラさんはまだダンジョンを駆け巡ってるってところか」
「はいなのです。それで現状がどの程度集まったのか見てきてくれと言われたのです」
「戻って来た職員は大体半分で、数は35個だな。これから徐々に遠出組みも戻ってくるだろうし、意外と町にばっかりあるって印象だな」
「分かったのです。ありがとうなのです」

(ということらしいのです。マデ姉)

 頭を撫でられながら、僕は言われた通りにマデ姉に念話を飛ばしたのです。

*

 ツヅラオからの念話を受け取り、残りの個数を把握。そして町にばかりある印象というのは私も巡ってて思いましたよ。思いのほかというか、ダンジョンに無さ過ぎてですね。

 空振りを繰り返すうちに少し心が折れかけててですね。
どうせこのダンジョンも空振りだろう、とほとんど期待せずに入ったスライムちゃんのダンジョンでしたが……

「これでいいんだよねー?」

と持って来てくれたアイアンメイルは50個を超えていて、
お目当ての印の掘られた物は20個もあってですね。
一人で持ち帰れませんので、応援を呼ぶ為にツヅラオに念話をしながら、私はゆっくりと壁にもたれ掛かった。

*

「えぇっ!? 分かったのです。皆さんに伝えるのです」

 マデ姉からの念話を受け取り、びっくりするくらいの数がある事を職員の皆さんに伝えるのです。

「マデ姉からの報告で、『ゴブリンの巣 奥』に20個も装備があるらしいのです。一人では持ち帰れないからと応援をお願いされたのです」
「わぁお、そんなに固まってんのか。……てことはそこので全部回収だな」

 皆さんが回収してきた装備の数を数えて、ミヤジさんが言うのです。

「応援つってもあれだな。まず『ゴブリンの巣』を突破しないと奥には進めないし、応援に行けるのはある程度腕の立つやつじゃないとダメだな」
「? 冒険者じゃないのに戦わないとダメなのです? マデ姉はほとんど素通りだったのですよ?」
「あのな、マデラと俺らを一緒にするな。あいつ、ダンジョン入る時は威圧を飛ばしまくってるんだよ。マスターには効かないけど、その辺の通常モンスターをビビらせるくらいのを、さ」
「つまり、……マデ姉だから全く襲われ無いのです?」
「全くってわけじゃないが、まぁ、ほとんどだな。対して俺たちはそんなスキル持ってないから、しっかり突破しないとダメ。マデラだけがダンジョン担当なのの理由が分かっただろ?」

 最近結構マデ姉の強さの認識を改めてはいたのですが、まだまだ足りなかった様なのです。

「んじゃ、行くぞお前ら! 女性ばかりに肉体労働させてらんねぇ! マデラには手ぶらで帰らせるくらいの意気込みで行くぞ!」

 ミヤジさんの号令と共に、彼に続いて装備を整えた職員さん達が『ゴブリンの巣』を目指して出発したのです。

追伸
マデ姉は装備を10個ほど抱えて、ミヤジさんは両手にやられた職員を抱えて、ギルドに戻って来たのです。回収は完了したのですが、なんだか締まらないミヤジさん達だったのです。
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