何万回も告げる鳥

時々雨

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何万回も告げる鳥

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 ◯1

「ねぇ。好きっていったら、どうする?」

 お互いに集中して明日提出する課題と向き合ってた中、唐突に投げ掛けられた言葉に、和泉は戸惑う。

 手を止め、顎にシャーペンの上の部分を添えながら、なんと答えようか迷う。

「えっと…、ありがとう?」

 そういって、柊の方を向いて答えると、彼は苦笑いをした。

「いや、ありがとうって…。これでも…勇気だして告白したんだけど俺」

「うん、だから…ありがとう」

「なに?俺フラれたってこと?」

 柊は頬杖をつきながら、流し目で和泉をみた。
 
「ううん、なんというか…。嬉しいけど、今は答えられないかな…。って感じ?」

 彼は「どういう事だよ…」とぶつぶつ呟いてた。

 和泉は、そんな彼をみながら「ちょっと、トイレ借りるね」と彼の部屋からでていった。

 1人、自分の部屋に取り残された柊は

「和泉だって、絶対俺のこと好きだと思うのにな…」

 と呟いていたのだった。


 ◆


 柊の部屋から出た和泉は、階段の下りて一番下の段で頭を抱え踞っていた。その理由は……。

「柊がかっこよすぎる。しかも…また今世でも、告白までされてしまった。あの頬杖つきながらの流し目、良すぎる…。たまらん。ちゃんと、返事できていたかな…。自信がない」

 と、小声でぶつぶつと呟いていた。

 和泉もまた、柊の事が好きだったのだ。

 それなら何故、告白を「ありがとう」と返したのかというと、和泉は"柊と両想いになると3日以内に死んでしまう"という、変な呪いみたいなものにかかっていた。

 だから、今世では柊と出会っても恋に落ちない。友人のままでいる。そもそも出会わないように…と努めていたのに、何の因果か高校に入学したら、同じクラスに柊がいた。

 むしろ、両想いになったら和泉はすぐに死ぬのに…、毎回生まれ変わる度に柊に出会ってしまうのだ。そういう運命の星の元に生まれてきたのだと、思う。


 初めて彼と出会ったのは、和泉がまだ鳥だった時代。 

 ただの不如帰で彼は宮廷の役人だった。高い地位で広い屋敷に住み、優しい妻とやんちゃな子供もいて、幸せそうな家族であった。その時にたまたま迷い込んで怪我をしていた不如帰に彼は優しく接し手当てをした。そんな彼に懐いた不如帰はずっと毎日屋敷へ通ったのだ。

「君は…人懐っこいのだね。いつも来てくれて感謝するよ」

 そう、彼に言われて、嬉しくなった不如帰は彼の頬へ擦りよった。「いつか、彼と同じ人間になれて、彼と出会えたらいいと…」心に思いながら。

 ある日、やんちゃな彼の子供たちが蹴鞠をしている時、縁側にいた彼の奥様に蹴鞠が当たりそうになり、不如帰は奥さんを庇い自分から当たりにいき、不如帰の命はそこで尽きたのだ。


 不如帰は短い命だったが、あの人の家族が幸せなら…と思っていたのだが、何故か意識があった。目は開けられないが、不思議な声が頭に響いた。

 《あなたが助けたのは、重要な人物でした。なので、あなたの願いを1つ叶えましょう》

 ――急になに??自分はただの鳥だったはずなのに。

 《あなたは鳥であるのに自我がありました。そして、現世で得を積みました。これは神からの祝福です》

 ――そうなのですか…。なら神様…、私に…あの人と同じ人間に…してください。あわよくば、あの人と同じ時代に生きたい。

 《はい。しかとその願い、受けとりました。あなたに…祝福があらんことを》

 そういって、神様は消えた。

 そして不如帰だったものは、目を覚ますと大雨の中、人の姿で山の中に1人ポツンと立っていたのだ。
 ザーザーッ。と止みそうにもない雨が天から降り、不如帰だった彼を濡らしていく。

 それは、神様からの新しい生命の祝福のようで…。

「わぁ…本当に人間になっている…」

 彼は、自分の両手をみながら…嬉しくなったのだ。





「おい、こんな大雨のなか山の中で何してる!」

 声をかけられ振り替えると

 見知った黒髪の整った顔の人がいて…。

 あの人だ!!!!と全身が歓喜し、思わずその人に抱きついてしまった。

「わぁっ?!なんなんだ…?危ないだろ。しかも、子供じゃないか。私の家はすぐそこなのだ。大雨の中の山は危ない…おいで」

 戸惑いながらも、抱き止めてくれた。そして、手を差しのべてくれた。鳥だった時代にそうしてくれたように。

 それが嬉しくて嬉しくて。神様…ありがとうと呟いたのだ。

 あの人の今の名前は尚と言うらしい。そして、尚は鳥だったものにも和泉という名前をつけた。

 和泉は人間の名前!と、とても嬉しくなったのだ。


 数年がたち、和泉は彼に好きだと伝えたら、彼も好きだと言ってくれた。両想いだ!と2日たった今でも、るんるんで山の中を歩いていたら、急に雷が鳴り出し雨が降ってきた。急いで帰らなきゃ…!と思ったとたんに、落雷した木が頭上に落ちてきて、和泉は死んでしまったのだ。

 それからと言うものの、鎌倉、戦国、江戸、明治…と色々な時代に生まれ変わり、尚と出会い惹かれあって想いを告げたが、両想いになった3日以内には和泉は死ぬ運命にあった。

 一番。彼と長く過ごせたのは、戦国時代にに姫として生まれ変わった時に、政略結婚の相手が尚だった。子供まで身籠っていたが、口付けだけは一度もしていなかった。政略結婚だからか、お互いに想いを告げずにいたのが長続きした秘訣だったのかもしれない。

 まぁ、両想いになったら3日以内に死ぬ運命を打開したいとは思いつつも、両想いにさえならなければずっと彼と過ごせるなら…と。そんな生き方を送っていた。

 だが、今の時代は推し活と言うものが流行っていた。そう、何百年も和泉は死んでは、また生まれ変わり、それでも尚、彼に惹かれてつづけている筋金入りの彼の虜である。

 そんな和泉が今の令和に生まれ落ちてしまったら、必然と、柊尚の過激派オタクになるのも当然であった。

 ――僕は…、柊と結ばれない代わりに…一生、柊のファンをするんだっ!

 と覚悟…を決めていたはずなのに、告白をされてしまって、激しい焦りとあり得ないほどの息切れと動機が和泉を襲っている。

 こんなの…柊と出会う前に、似ているからと好きになったアイドルのコンサートの席番が、最高に良かった時並みの興奮状態だ。落ち着け…落ち着くのだ和泉!と深く深呼吸をしていた。

「和泉…?どうした…。体調悪いのか?」

 後ろから、突然声がかかり。落ち着いた…と思ったのも束の間また動揺し始めた。

「ひ、柊…なんで、」

「いや、和泉が戻ってくるの遅かったから…気になって」

 それより、階段の下に座ってどうした?と聞かれた。
 特に深い意味はなく、ただ柊と離れて落ち着きたかった和泉は返答に迷う。

 それをみた、柊は少し悲しそうな顔をして、微笑んだ。

「ごめん、さっき俺が伝えたことで、和泉を困らせたんだよな。あの話は忘れてくれ。君を困らせたい訳じゃないんだ。」

 彼は柊の言葉に「あ、うん…」と頷くしかなかった。
 内心ほっとしながらも、

 ――忘れてくれ…って何?気の迷いってこと?
 と、胸がズキンと痛むの感じた。

 その感情にもまた、何で勝手に傷ついているのだと、彼は自己嫌悪した。

 その後は、柊の部屋に戻り、上の空で課題を終わらせて、家に帰った。

 別れ際に柊は「これ、あげる。家着いたらみて」と言って一筆箋風のメモ紙を渡してきた。



 ◯2


「陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに」

 (河原左大臣・百人一首 14・『古今集』恋四 724)

 柊に帰り際に渡されたメモ紙にはそう、書かれていた。
 確か…、現代語訳は

 陸奥の「しのぶもじずり(乱れ模様の織物)」のように、私の心がこんなに乱れ始めたのは誰のせいだろう。私の意志ではないのに。


「誰のせいだろう…か。僕だって…。こんなにも惹かれ…恋い焦がれつづけているのは…誰のせいだって言いたいよ」

 ――だったら、僕は…。


「恋ひ恋ひて そなたに靡く煙あらば
 云ひし契の果てとながめよ」


 (恋し過ぎて、あなたの方へなびいていく煙があったら、あなたとの愛の約束に燃え尽きた私の命の果てだと思ってください)

   ( 式子内親王・前小斎院御百首85・『新後撰集』恋四 1113)


 とでも、返すべきなのだろうか。


 はぁ。と大きなため息をつきベッドの上にゴロンと倒れこむ。


 好きなのに…。伝えられないのは、苦しいものだ…。でも、今世で巡りあうのが最後だったら…?と考えると、中々想いを告げられないものだ。

 彼はスマホを開き柊のトーク画面にてを伸ばすが、数分考えたが、スマホの電源を落とし、気分転換にと浴室へ向かった。



 ◆


 いつもの日常。学校へ行って、授業を受けて帰宅する。そのルーティーンの中で、柊の存在が和泉をおかしくする。

 昼休み、柊といつも一緒にお昼をとってるが、購買でパンを買って教室に戻ると、柊は女子達に囲まれていた。

 楽しそうに話しているのを目撃して、心の中で女子たちにどろどろとしたジェラシーを沸き始める。

 ――僕のこと、好きって言ったくせに…!女子たちにデレデレして!え!?もしかして僕が柊のこと断ったら柊が、誰かと付き合う所をずっと見守らないといけないってこと?!そんなの…絶対ムリ!

 そんなことを考えていると、つい無意識に身体に力が入っていた。横を通りかかった、クラスメイトに「和泉、パン潰れてるぞ?」といわれるまで、彼は気がつかなかった。

 そう。彼は、自分が先に死んでしまうから、柊が誰かと交際するという場面を見たことがないのである。初めて、想いを告げないと、柊が誰かに取られるということに気がついたのだ。

 ――絶対、柊が誰かと付き合うところなんて、耐えられない!!3日以内に死ぬがなんだ!死ぬなら柊としたいこと全部してから死んでやるっ!

 と、意気込んで、柊の席に群がる女子たちに割って入っていった。

「僕の柊、とらないでくれる…!?」

 そう言いながら、柊の腕を引っ張り抱きつくと、周りにいたクラスメイトはきょとんとした顔をした。

 その後、直ぐにニヤニヤした顔で「お邪魔したね~」と、去っていく。彼は、何だったんだ?と腕に抱きついたまま、ポケッと立っていた。

 その様子を隣で見ていた柊は、空いてる片手でニヤけた顔を覆いながら「かわいい…」と呟いたのだ。




 授業が終わり、柊と一緒の帰り道。

 和泉は覚悟を決めていた。絶対に告白すると!

 一つ、深呼吸をした。そして、前を歩く柊の手に指を絡め、控えめにぎゅっと握る。

 不思議に思った柊が足を止め、後ろを振り向いた。下を向いたままの和泉が、指を絡めたまま立ち止まっていた。柊が声をかけようとすると、その前に和泉が口を開いた。

「この前の!返事、撤回してもい…?」

 そう言って、彼は柊の顔を上目遣いで見上げる。

「撤回って?」

「うん。答えをやり直しする」

「無理しなくていいんだよ。今のままでも、俺は…。心地がよい…」

 彼は柊に一歩近づき、そのまま背中から抱きついた。

「僕が嫌なの!柊の隣に…僕以外がいるのが…」

「それって、期待していいってこと?」

 前に回ってきた彼の腕に、柊自身の腕を重ねて。そう訪ねる。

 彼が背中越しに頷くと、前に回っていた手を恋人繋ぎにされ、引っ張られた。そして、ポスッと前から抱き止められる。

 夕陽の逆光をうけ、暗がりの柊の顔を見上げた。あまり表情が読み取れなかったが、頬を柊の大きな手で撫でられる。それに優しさを感じホッとする。

「そんなこと言って。もう…、逃がさないよ?」

 声がいつもより低くて。本気だってわかった。

「いいの、僕も逃げないから…」

 彼は、自分よりも10cmも背が高い柊のネクタイを引っ張る。元々前屈みになって油断していた柊は、彼の思惑のままにバランスを少し崩す。

 そして…。

 ちゅっ。というリップ音を立てて、唇が重なった。


「へへ。奪っちゃった…」


 と、首をかしげながら照れながら笑う和泉に、頭を抱える柊がいた。

 その2人の間に風がぶわぁ~!と、音をたてながら通り抜ける。

 和泉が髪を抑えながら空を見上げると、1羽の鳥がバタバタと飛んでいったようにみえた。

 そして、

 ――てっぺんかけたか――

 と鳴いていた様に聞こえた。



 ◯3


 柊と正式にお付き合いをすることになり、恋人となった。これで、柊に群がる男女共に堂々とマウント取れるぞ!と息巻いていたが、お付き合いを始めた初日なのに、柊よ彼氏ブームがすごくて、メロってしまっていた和泉だった。

 こと、あるごとに「和泉」と読んでくれるし、手を繋いでくれるし、頭も撫でてくれる。そして、朝も家まで迎えにきてくれた。家は反対方向なのに…!!いつも、学校からの最寄り駅までしか一緒にいられなくてメソメソしてた和泉の事を全てお見通しのような行動に…、更に柊への好感度が爆上がりしたいた。好き好きメーターが限界突破しそうな程に。

 こんな、幸せでいいのか!とデレデレしていたが、彼は3日もこの生活が持たないと言うことを思い出す。そして、

 ――絶対死にたくない…!

 と、幸せを感じる度に心に誓うのだった。




 2日目の夜。特に予兆もなく、彼は平和な2日間を過ごした。もし、死ぬとしたら明日だと、思いながら。

 落ち着かないようで、彼の推してるアイドルのコンサート映像をみながら、叫びながらペンラを振っている。

 一通り満足したら、今度は推しのポスターに向かって手を合わせ、祈り始めた。

「明日…死にませんように…!そして、絶対に明日は…柊と同衾する!!家族に夜まで帰ってかないでって伝えたから!!」

 と、意気込みを叫んでいた。 

 死が控えている人間の意思は強かった。



 ◆



 和泉の部屋、ベッド上に2つの人影が重なっていた。

「和泉…?」

「柊…。お願い、きいてくれる?」

 和泉は柊を押し倒して、そう問いかける。

 彼は、柊の腰を上に乗り、逃げないように抑えつけていた。それに反して、柊は、はたじろぎながら逃げようとしている。

「いや、俺らまだ早いというか…、和泉に負担かけたくないし。てかそこで動かないで…っ」

「僕がいいっていってるでしょ!!」

 先程からこの攻防が続いている。

「それとも、何?抱きたくないってこと…?」

「そんなこと、一言もいってないだろう」

 ムスッとした和泉は、尻の下で若干勃ち始めている、そこをスラックス越しに指でなぞる。その行動に驚いた柊が、色々耐えている赤くなった顔で彼を睨む。その表情にドキッとして、高揚した彼は柊をみながら意地悪な笑みを浮かべて、言い放つ。

「柊くんはぁ…、恋人が許可だしてるのになんにも出来ない、意気地無し、なんだね?」

 どういう反応をするか楽しみだと思っていたら、急に世界が反転して、目の前に覆い被っている柊がいた。

 ――あれ…。もしかして…押し倒されてる…?

 彼が押し倒された事に気づいた頃には、柊は髪の毛を書き上げ、欲情した顔で和泉を見下ろしていた。

 その表情が、いままでひみていた、どの柊よりも雄みが強くて急にドキドキと鼓動が早くなり興奮する和泉であった。

 ――やばぃ…煽りすぎたかも。でも、柊が…かっこよすぎる。こんな表情みたことない。URスチル絵だ!推しアイドルのお気に入りブロマイドよりも好きすぎるっ!

「こんなに、煽ったんだから…。"嫌"と"やめて"は、絶対聞かないからな」

「ひゃい…」


 どんな時も、柊にメロメロな和泉であった。




 ◆
 

 ハッっ、と目を覚ました和泉は、直ぐに周りを見渡した。すぐ隣にはベッドに腰を掛けている柊の背中があった。彼はそっと手を伸ばし柊の広い背中に触れる。それに、気づいた柊がバッと振り返り「目覚めた?」と頭を撫でながら聞いてきた。その言葉に頷き、近くに寄ろうと起き上がるつもりが、腰に違和感があり、上手く力が入らないようだった。

「ごめん、無理させすぎた」

「いや、僕が…。お願いしたから」

 そう答えると柊はじっーと少し圧をかけるように彼の顔を見つめた。

「今日の和泉なんか、変だよ…。何を焦ってるの」

 その言葉を聞いた彼は、ピタッと動きを止めた。

 ――変だよ…って言われても。そんなの…、今日が柊と一緒に居られる最後かもしれないからなのに…。

 1人で…色々考えて沈んでいると。

「身体大丈夫そうか?一応綺麗には拭いたから問題ないとは思う。気を失うまで抱くつもりなくて…」

「だ、大丈夫だからっ!」

 彼は、今はそっとしておいて欲しいと思い、柊とは反対側の方へごろんと寝顔りをうった。

 それをみた柊は、しょうがないな。とでも言うように一息つき、また頭を撫でた。

「さっき、和泉の母さんが帰ってきたみたいだし、晩御飯の準備してるみたいだから落ち着いたら、リビングに降りてって、だってさ。俺は帰るね、また明日」

 "また明日" その言葉に心が揺れる。

 思わず、頭の撫でていた手を掴んだ。そして、起き上がり柊に抱きつく。

「好き…。柊、僕とまた出会ってくれてありがとう」

 もう、"明日"は来ないかもしれないと思ったら、涙が溢れてきた。この腕の中の温もりを忘れたくなくて、ぎゅっと力を込めて抱き締めた。

「何も、泣くことないだろ。また明日学校出会えるんだから」

 柊は笑いながら、額に口づけを落とした。

 その後、和泉が落ち着いた頃に柊は家に帰っていった。
 部屋から出るときに、「またね」と手を振ってきて、彼も振り返したが、ちゃんと笑えていたか不安だった。

「もう…、"明日"はないよ。ばーか…」

 和泉は1人、ベッドの上で息を殺しながら泣いていた。



 ◯4


 チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえ、意識が浮上する。

 あれだけ、死を覚悟していた和泉だったが、普通に生きていて無事に朝を迎えていた。

 自分の部屋にいるし、カーテンを開けると清々しい程の青空であった。ついでに、窓も開けみると初夏のムワッとする空気を感じた。

「え、…いきてる…?なんで??3日余裕でたったよね…?今でこんなことなかったのに…」

 ベッドの上に戻り、放心状態でいると、下から「きょうーー??起きてるのー!?」と母親の声が聞こえた。その声に、今日は普通に平日だ!学校の支度しないと!と正気に戻った和泉だった。

「起きてるよー!!今、下に行くから~!」

 そう答えながら、時計をみるといつも柊が迎えに来る時間になっていた。慌てて制服に着替えリュックを持ち下へ降りていった。

「ごめん、母さん。パン加えながら…。って柊…?なんで」

 リビングを覗いて、パンだけ貰おうとしていたら、既に柊が椅子に座って父さんたちと会話をしていた。

「あんたの為に、今日ちょっと早めにきてくれたのよ!柊くんいい子すぎるわ~!友達大事にしなさいよ…!」

 朝から情報量が多すぎて、適当に頷いていたら「はいお弁当」と渡され、弁当の上に朝食用のパンものせられた。母親にお礼をいい、リュックに詰めていると、柊が立ち上がった。

「俺たち、そろそろ登校しますね。お邪魔しました」

「あ、いってきます」

 柊の後について、リビングを出た。母と父の「行ってらっしゃい」の声を聞きながら。


 いつもの道、でも何故かキラキラしているように見えて不思議だった。隣を歩いている柊にも疑問が浮かぶ。

「なんで、今日早かったの?」

「昨日の和泉の様子が気になって…。早く会いたくなったんだ。迷惑だったか?」

「め、迷惑じゃない!嬉しい…」

 和泉は嬉しくなって、柊に抱きつこうとしたら、真横を鳥が通り抜けた。

 それは……。

 かつての自分だった鳥にそっくりで…。

 反射的にその鳥を追いかけた。後ろで柊が何か叫んでいたが、振り返る事なく、その鳥だけを追いかけて。



 ◆



 息を切らしながら、追いかけていたら、神社にたどり着いた。鳥は、見失ってしまったが神社の周りには木が生い茂っているし、多分ここにきたのだろうと思った。


 鳥居を潜り、長い階段を昇る。


 もう一度、鳥居を潜り敷地内に足を踏み入れた。


 見渡すが、朝だからか人は全くいない。綺麗に手入れされている社で、割りと大きな神社だと思った。でも、今までこの街にすんでいたのにこの神社の事何もしれなかった。名前を見ようと鳥居を見上げるが、古いのか名前の部分がよく見えなかった。

 とりあえず、本殿にお参りしようと考えた彼は歩き進めた。

 そして…、自分が好きな人と両想いになったら3日以内にしぬこと、でも今回死なずにすんでいること、理由がわからなくてとても不安なこと、を今の悩みも全て神様に打ち明けていた。

 ――ちょっと、喋り過ぎたかも。神様に面倒な人間と思われるのは…ちょっとな…。でも、こんなちっぽけな人間の話なんか、気にしないか。

 "悩みを打ち明け過ぎてごめんね"の気持ちも込めて、一礼をし、神社から去ろうとすると、不意に風が巻き起こる。

 ――てっぺんかけたか――

 と頭上の空で旋回をしながら鳴き始めた鳥がいた。

「ホトトギス…」

 その鳥を見上げていると、後ろに気配を感じた。
 暖かい優しい気配。彼は、その気配を知っているような気がした。

「人間の生活はどうですか?幸せでは、ないですか?」

 その凛とした声に、穏やかな気持ちになった。でも、絶対に振り向いてはダメだ。とも感じ取った。

「え、っと。人間になれて幸せです。でも、今までとは違って……3日経っても死なずにすんでいるんです。それが逆に怖くて。不安で」

「人はいつか、死ぬものです。そう、不安がらなくても。と思います」

「それと…これと…は」

 確かにその通りたけど、そういう意味じゃないな…なんて伝えるか戸惑っていると、クスクスと笑う声が聞こえた。

「ふふ。貴方たちの運命をずっと視てきました。とても、焦れったいと感じておりましたよ。人は、割りと単純な事に気がつかないと、いいますか」

「それってどういう…?」

「呪いはいつだって、運命の人との口付けで解ける、と言うことですよ。貴方に祝福があらんこと」

「えっ!まっッ!」

 振り返ろうとすると、さっきより強い風が巻き起こった。     

 そのつむじ風は、神様が天に登っていく様にも感じられた。

 1人境内に取り残された和泉はへなへなと口元を抑えながら、しゃがみこんでしまった。
 
 「もし、神様のいう通りなら、キスをしていたら、3日以内に死ぬことはなくて、こんなにも…、生まれ変わりしなくてもよかったってこと~?!?」

 衝撃の事実に、立ち直れなさそうになる和泉だった。

「そんな、単純な…簡単なこと…。神様もバカにするわ…。でも、生まれ変わる度に顔の良い、ちょっとビジュの違う柊を生で見てきてるから…転生も意味はある!令和で平和な世界でまた出会えたんだから…」

 そう、奮い立たせて和泉は立ち上がった。だが、やっぱりショックなものはショックで、ふらふらと鳥居へ向かうと、階段を登ってくる人影がみえた。

 ――僕以外にも、朝から参拝に来人がいるなんて

 ぼっーと、人影を眺めていた見覚えがあるシルエットで、数十分前に彼が置き去りにした柊だった。

「良かった。和泉ここにいた…。急に走り出すから」

 柊は駆け寄り、和泉を抱き締める。

「また、失うかとおもった…。お願いだから…もう、勝手に居なくならないで」

 少し震えた声でそう告げる柊初めてみて、戸惑う和泉。

「ひ、柊?」 

 ――今、またっていった??

「ここ、懐かしいね。俺と君が初めてあった場所」

「いや、今世では…」

 いや、なんとなく、配置に見覚えがある気がする和泉だった。一番最初の…僕がまだ不如帰だった頃、柊が住んでいた屋敷に、と。

「もしかして、記憶…ある?」

  その言葉に柊は首を振る。

「残念ながら、ただ…。夢では、何千回、何万回も君と出会っているんだよ、そして、何万回も君に恋をしてるんだ和泉」

 そう、手を差し伸べ和泉の頬に触れる。

 その言葉に今までの人生が全部救われた気がしたのだ。

「なんだ…。生まれ変わった意味、沢山あるじゃないか…。」

 頬に添えた手を、両手で握りなおす。そして、柊の指に軽く口付けを落とした。

「大好き。柊のこの暖かく差し出してくれる手が。ずっと、この手に触れたくて、掴みたかったんだ。だから、人間になったの」

「あぁ。知ってる。人間になってくれて…、俺を好きになってくれてありがとう。絶対にもう、手を離さないから…」

 柊はそういって手を握りかえしてきた。

 それが嬉しくってたまらない和泉はデレデレとした笑みを浮かべる。そして、柊に抱きつくのだ。

「学校遅刻しちゃうね。サボっちゃう?」

「ダメだよ。今は人間なんだから」

 2人は顔を見合わせて笑うのだった。


 その2人を眺めていた、不如帰はまた

 ――てっぺんかけたか――

 と鳴き、社へ消えていった。


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