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第42話

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「ひかり、そっちに3匹行ったぞ!」


俺の注意に、ひかりが面倒そうに返事する。


「それくらい分かっているよ!気配で分かるから、いちいち言わなくていいっていつも言ってるでしょ!

パパはあかりの方だけ気にしてあげればいいんだよ!」


「あかりも大丈夫だもーん!狼さんたちくらいなら、何も怖くないよー!」



ひかりに向かっていた狼の魔物たちは、あかりが放った風の魔法であっという間に切り刻まれていった。


「あー、あかり!ひかりの獲物を盗らないでよー!!」


「魔物は誰のでもないもーん!早い者勝ちだもん!!」


「分かった!じゃーあれはひかりが倒すもん!!」


そう言うと、俺が戦ってた狼の群れに向かって巨大な火の塊が次々に降り注いでいった。

これは火と土の混合魔法である【メテオ】で、ひかりが得意とする魔法の1つだ。この魔法は威力も範囲も申し分ないのだが致命的な弱点がある。


「ひかりー、またそんな派手な魔法で殲滅しちゃってー!!ママのネットスーパーで吸収できないでしょ?死体も殆ど燃えてボロボロじゃないの!もっとキレイに倒してよー。」


そう、威力があり過ぎて、死体の価値が殆ど無くなってしまうのだ。



「だってーあかりが早い者勝ちって…」


「手加減しても余裕で倒せるでしょ!ひかりはどうしてこんなに火力バカになったのかしら?」


「だってー「ボーン、バーン」って倒した方が気持ちいいんだもん!!」



俺と浩美はお互いの目を合わせ、ため息をつくのだった。




 この封印された森に閉じ込められて、はや3年の月日が流れていた。俺はとっくに40の大台を突破し、42歳となっていた。

だが見た目は以前よりもかえって若返ってるくらいかもしれない。ゴブリンの森からここでの生活のお陰で、結婚から幸せ太りで肥えていた体は再び引き締まり、若い頃のように筋肉質な体に戻っていた。



 ちなみにこの場所から出る方法はまだ見つかっていない。


ここには幸い川も流れ、外から魔物たちが次々に入って来る為に狩りをする獲物には困ることはなかった。入り口のあの光が魔物たちを引き寄せているのだろう。

もしかすると、ここは適当に魔物を間引きする役目も果たしてるのかもしれない。

だがお陰で食料や飲料水は浩美のネットスーパーで手に入り、それなりの生活水準は保てていた。


 さらにここに来てから俺たちは多くの魔法を習得して、生活をより便利なものへと変えていった。

例えば俺は土の魔法を使える。それを利用して、あっという間に土でできた簡易的な家を建てることができるようになった。これによりテントを持ち運ぶ必要が無くなっただけでなく、快適性も格段に上がった。

またこの土の魔法を利用することで、直ぐに食器も作れるようになり、今では持ち歩いていない。


さらにスキルもかなり成長しており、俺の玩具メーカーは現在レベル11まで上がっている。つまり直径110センチまでのオモチャなら作ることができるのだ。

なぜ貴重なスキルポイントを大量に消費してまでここまで上げたかというと、実験の結果、玩具メーカーで直接俺たちの衣服を作ろうとすると作れないが、土の魔法を使って俺たちと同じ体型の簡単な人形を作り、その人形の洋服を作ることは可能であった。

さらにそれを脱がして、俺たちが使用する分には何の問題もなかったのだ。


つまりはだ…今では、俺の玩具メーカーで洋服を作り放題であり、更にはその服を玩具収納に入れられるようになったのだ。

これにより手荷物は大幅に軽減され、動きやすくなったのは言うまでもない。元々持っていた服を同じようなデザインで作成し直し、玩具収納に全て入れ込んである。

汚れても洗濯する必要もない。新たに作り直す方が早いからだ…子供たちの成長に合わせて大きくしていくことも簡単でとても重宝している。


他にも同じ原理で、鉄鍋やフライパン、ヤカン、その他料理のグッズ各種まで、並べている人形用のリアルな玩具だと思って作ってしまえば作成&収納が可能となった。


今でも手荷物として持ち歩いてるのは、とっくに電源を入れることも出来なくなってしまっているスマホくらいだ。

そのスマホもこの3年の戦いの日々でかなりひび割れている。それでもこれだけは捨てる気にならないのだ。ひかりやあかりの生まれてからこれまでの思い出が詰まっているからだ!

他の思い出はゴブリンの森の家に残してきた。

もしいつか日本に戻ることができることならば、この思い出だけは何としても持ち帰りたいのだ!



 子供たちも成長し、ひかりは10歳になり、素直なだけでなく、ちょっと生意気を言うようになっていた。そして、なぜか先程のように高威力の魔法を好む火力バカっ子になっていた。

ひかりは俺と同じ土の魔法の他に火と光の魔法も使うことができる。


あかりはというと、まだ6歳にも関わらず、先程使っていたように風の魔法の他に、浩美と同じように聖属性、さらには氷の魔法までも使いこなす。


浩美は聖属性の魔法に加え、火と水の魔法も覚えた。


 家族みんな3属性使える中、俺だけは土の1属性のみだった。だがその分、器用に使いこなせるようで、同じ土の魔法を使えるひかりには俺のように様々なものを作り出すことはまだ難しいようだ。


家族全員揃うと大抵の属性が使えることとなり、今ではこんな場所でもかなり便利な生活を送っていた。

毎日湯船に浸かることもできている。

俺が土の魔法で湯船を作り、浩美が火と水を利用し、お湯を張る。慣れると簡単である。


つまりは、現在俺たちは衣食住+αまでを自力でどこでも確保できるのだ。


だから焦ってないというのもあるのかもしれないが、3年も経ってここを出る方法が見つけられていない。




 糸口はあるのだ。

この空間は気配関知で気配を探れる距離が本来よりかなり狭くなるのだ。さらに場所によってその距離に変動があり、中心に向かえば向かうほど気配を探れる距離が短くなっていくのだ。


ならば何故一番の中心を調査しないのかと思うだろう?
俺たちは何度も何度も繰り返し調査したのだ。

しかし、そこには古い遺跡の痕跡のようなものが僅かにあるだけで何も見つけられないのだ。何処かに隠れた入り口があるのではないかと調査をし続けているのだが、これまで何も発見できていない。




「おっ!まだ僅かに気配が残ってるぞ!!あのメテオの中でよく生き残ったな!」


「あっ!本当だ!!私のメテオを喰らって生きてるなんて生意気だな!ひかりがトドメを刺してやるもん。」



 そこにいたのは少し大きめの子犬だった。身体中が焼け焦げており、瀕死の重症のように見えるが、俺たちが近づくと、必死に威嚇してくる。


「ウゥー!!ウー!」


姿はボロボロなのだが、焼け焦げてない毛が綺麗な銀色に光っており、どこか月をイメージさせる子だった。



ひかりはその子を見ると、先程までの攻撃的な表情はすっかり消え失せ、目を輝かせ始めた。


「この子綺麗な色!それにとっても可愛いね!パパ、ママ、この子飼っていい?」


「あかりも飼いたいー!」



「ちゃんとみんなでお世話するのならママも飼いたいな!」



「パパはいいけど、懐いてくれるかな?その子かわいいけど、れっきとした魔物だよね?」



「ひかりのテレパシーで説得するーー!」



するとひかりは無防備にも、その子犬に近づくとそのまま手を伸ばした。

子犬はその差し出されたひかりの手を、殺気を込もったその鋭い牙をむいて噛みついた。

さらに肉を引き千切ろうと、からだ全体を素早く回転させてきたのだった。



「ひかりー!」




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