ボッチ英雄譚

3匹の子猫

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第25話

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 これまでの人生で経験のないほど至近距離にあるニコルさんの顔を見ながら僕は頭がボーッとしていました。


柔らかくて温かい…それに何ていい匂いなんだ!


初めての女の子の唇は想像以上に気持ちのいいものでした…



「これで予約しましたよ。ロンさんに抱いてもらえるのを待ってますからね!!」


 僕は離れていくニコルさんの体をただただボーッと眺めてしまいました。


綺麗だな…触ってみたいな…
…って僕は何を考えてるんだ!


「ロンさん、そんなに私が服を着ているところを凝視しないで下さい。抱いてもらえないのにそんなに裸を見つめられると恥ずかしくなってきます。」


「あっ!ごめんなさい…!つい綺麗だったので見とれてしまいました!」


「綺麗だと思ってもらえるのは凄く嬉しいです!それでもやっぱり恥ずかしいですのでちょっとだけ後ろを向いていて下さい。」


「そ、そうですよね…すいません。」


 僕はようやくニコルさんの体から目を逸らすことができました。女性の肌って目を離せない魅力があるんですね…これまでみんなどうして女性の体にそんなに執着するのか理解できませんでしたが、ようやく僕も理解できました。

これまでバカにしててごめんね、キース。



 それから僕たちは宿の食堂で朝食を食べました。

あんなことがあった直後だったので凄く照れちゃいましたが、できるだけ平静を装いました。


「えっ?ロンさん、もう異空間収納を覚えたんですか?」


「はい。お陰で使えるようになりました。」


「早すぎですよ!私はコツを掴むのに時間が掛かって、スキルを覚えるのに3日も掛かったんですよ。」


「ニコルさんの教え方が上手だったんですよ!」


「一応異空間収納について教えておきますね。個人差はありますが、レベル1で1メートル四方くらいの空間を倉庫として利用できます。

それからはレベルが上がるごとに広さが爆発的に大きくなってきます。これも個人差はありますが、私は今レベル3で20メートル四方くらいの広さにはなっています。

 異空間収納を使おうと思うと何となく自分の倉庫の様子が感覚で分かります。その中からこれをここに出そうと考えると、自分の周りの指定した場所にそれを取り出すことができます。

逆にしまう場合は先程の袋にしまったように、上手に収納していけばより多くの物を収納することができるようになります。ポーターとしての実力は異空間収納の広さだけではなく、その収納のうまさにもかなり影響されますのでやりがいがあるんです!

 最後にレベルが7になると異空間収納の存在が大きく変わってきます。レベルが6までは異空間収納の中でも変わらずに時間が経過するのですが、レベルが7になると異空間収納の中の時間が経過しなくなります。

つまりは作りたての食べ物を入れたらいつ取り出しても出来立ての食べ物を食べることができるようになりますし、肉や野菜のような食材を入れたらいつまでも新鮮なまま保つことができるようになります。


 ここまで来ると冒険者のポーターの仕事よりも、商人の契約ポーターになる方が断然安全で大金を稼げるようになります。ポーターの憧れのレベルがこのレベルセブンなんです!


一気に説明しちゃいましたが、質問はありませんか?」


「ニコルさんもそのレベルセブンを目指してるんですか?やっぱりいずれ商人の専属ポーターを目指してるんですか?」


「ロンさん!もしかしてスキルのことよりも私のことが気になるのですか?嬉しいです。

私の場合は商家の出なので、レベルセブンになったら自分で商売を始める予定でした。

 でももうそれもどうだっていいんです。私はロンさんのお手伝いをできればそれだけで満足です!!ロンさんがこれから成そうとすることを陰ながら全力でお手伝いするつもりです!」



えっ?今の質問からどうしてそんな話に?


「僕はまだ冒険者になったばかりのFランク冒険者です。正直お金に余裕があるわけでもないし、目の前のことをこなしていくだけの毎日です。とても何かを成すなんて大きな目標を持てる状況ではありません。

ニコルさんの気持ちはとても嬉しいのですが、ニコルさんはニコルさんのしたいことを目指されたらいいと思います。」


「ロンさんならすぐに大成しますよ!

ロンさんのジョブの特性上、直接的な支援はできませんが、いくらパーティーを組めないにしろ、何でも1人だけでこなすことはできない筈です。裏方で助ける人がいてもいいと思うんです。

私のしたいことはそのような形でロンさんの役に立ちたいんです!!」


「そんな風に言ってもらえるのは僕も嬉しいです。でも…僕はニコルさんの人生を縛りたくて助けた訳じゃありません!

ニコルさんは僕に助けられたことに必要以上に恩を感じ過ぎていませんか?

せっかく助かった命なんです。僕のことは気にせず、ニコルさんはニコルさんのやりたいことを目指して下さい!」


「ロンさん…私は何も助けて頂いた恩を返す為だけにこんなこと言い出した訳じゃないんです!ロンさんが私を助けてくれた時、ロンさんは私の英雄になったんです!

私は街まで走る中、あの方を死なせてはいけない!あの方のこれからの成長を見たい!あの方の助けになりたい!あの方の傍にいたい!とずっと考えていたんです!

だから、本当に私がやりたいことをさせて欲しいだけなんです!!


 それに、それは私だけじゃありませんよ!昨日のロンさんの行動によって、門番長のガープさん、司祭のハインさん、王宮魔術師のフラムさんも同じようにロンさんに惚れ込んでしまったんです!!ロンさんのこれからの成長に関わりたいと考えたから、あのような提案をされたんだと思います!」


「そうだったんですか?なにやら面白がっていたからだと思っていました。」


「それもあるのかもしれませんが、それもロンさんのこれからの成長を想像し、期待できるから楽しんでるんですよ!

考えてもみてください。それぞれ仕事もあり、お二方に関しては家庭もお持ちなんです。そんな忙しい方たちが金銭も要求もせず、自らの技術を教えようとされてるんですよ!

余程ロンさんに期待をしてないとそんな提案をすることなんてあり得ませんよ!!」


「考えてみたらそうですね…それじゃー僕もみなさんの貴重な時間を割いてもらったことを後悔させないように全力で応えないとですね!もちろんニコルさんの期待にもです。」


「はい!分かってもらえて嬉しいです♪」



こうしてそれからの僕はガープさん、ハインさん、フラムさんの仕事のシフトに合わせた生活を送ることとなりました。


 ちなみにゴブリンの討伐隊は問題なくゴブリンたちを1匹も残さず討伐したそうです。予想通りゴブリンキングも存在したらしく、ゴブリンキングと高ランク冒険者の戦いを目の前で見ることができたことをキースを中心に3人から寝る直前まで聞かされ続けました。

カッシュたちもゴブリンの上位種も3人で討伐したらしく、先輩冒険者の方たちに褒められたそうです。

さすがカッシュたちですね!!四魂の誓いの名前が王都中に広まるのも時間の問題ではないでしょうか?今後の3人の活躍がとても楽しみです!

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