ボッチ英雄譚

3匹の子猫

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第61話

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「ここがロンさんの屋敷ですか?スゴすぎて何て言っていいのか言葉が出てきません。」


 ニコルを屋敷に案内した最初の反応はこれでした。


「ニコル、できればロンって呼んでもらいたいな。先日レナに言われた意味がよく分かったよ。さん付けされると距離を取られてる感じがして寂しくなっちゃうよ!

僕はニコルともっと近づきたい。だからロンって呼んでくれるかな?」


「ロン…」


「おお!もう1回お願い!」


「ロン。」


「もう1回!」


「ロン!」


「あー!いつまで続くのよ!!そういうのは2人きりになってからいくらでもすればいいわ!今はさっさと屋敷に入るわよ!!」


レナに怒られてしまいました。



 屋敷に入ってもニコルは屋敷の豪華さに終始興奮していました。レナは夕食の準備をしてくれているので、僕はニコルを屋敷中案内して回ったのです。



ニコルからこんなに喜んでもらえるなら、この屋敷を買ったかいがあったと思えるな!



「えっ?この屋敷には私たち以外にも住人がいるんですか?」


「うん。幽霊のヴェルドンさん!僕にここで鍛冶を教えてくれるんだよ。悪さはしないから心配はいらないよ。」


「儂がヴェルドンじゃ。お主がロンのいい人か?よろしく頼むぞ!」


「スゴい!本当に声が聞こえました。」


「そのうち成仏すると思うけどそれまでは一応仲良くして欲しいかな?」


「分かりました。」


「ところでその敬語もとれない?」


「これは元々こんなしゃべり方なので変えるのはすぐには難しいです。」


「そっか。分かったよ。ところでニコルは明日予定何か入ってる?」


「明日は遠征明けなので、1日丸々休みとなってます。」


「じゃー僕の用事が終わったらデートに行こう!」


「デートですか!行きたいです!!」


「多分午前中で用事は終わるから、お昼食べたら出かけよう。ニコルはどこか行きたいとこある?」


「私はどこでもいいですよ。ロンの行きたいとこで大丈夫です。」


「ダメだよ!僕も行きたいとこがあったら言うから、ニコルも言ってよ!」


「じゃー洋服屋さんを見てみたいです。いつも冒険者として、機能的な装備ばかりなんで、屋敷の中で着るようなかわいい洋服を何着か購入したいです。」


「それいいね!僕も同じように家用の服を購入しようかな!」


「あー!明日が楽しみになってきた。用事なんてなければよかったのに!!」


「何を言ってるのよ!王様の呼び出しを何だと思ってるのよ!!」


「レナ!?いつの間に!」


「夕食ができたわよ!食堂に来なさい!!」


ニコルとの幸せな時間に気配すら警戒するのを忘れてました。屋敷ではともかく外では気を付けるようにしないとです。


「王様の呼び出しですか?何があったんですか?」


「あー、旧王都跡地の時の褒美を明日くれるんだと思うよ。何がもらえるかは分からないけどね。ギルド長のバードさんが言ってたように大したものではないと思うよ。」


「あの時のですね。」



 夕食の後、風呂を済ませた僕たちは寝室に移動することになりました。


「あの…初めてなので優しくして下さい。」


「ニコル、僕はニコルのことを大事にしたいと思ってるんだ。だから付き合い始めたからといって、何も今夜からそういうことをしなくてもいいんだよ。

時間をかけてゆっくりと愛を育んでいければ僕はそれで幸せなんだ。」


「ロン、ありがとうございます。でも、女にとって好きな男性に抱いてもらえるのはこれ以上ない幸せなことなんです。

今夜私を抱いて下さい。お願いします。」


「わ、分かりました。僕も初めてなのでよろしくお願いします。」



 この日、僕は大人になりました。上手くできてたかは全然自信ないですが、必死にお互いを求め合いました。

ニコルの温もりが僕に溶け込んでいくことが本当に幸せで、行為の後も朝までニコルを離すことができませんでした。


「んんっ…ロン?」


 ニコルがとうとう目を覚ましてしまいました。僕はニコルの寝顔を眺めることを優先し、久しぶりにガープ師匠の朝の日課をサボってしまいました。


「おはよう、ニコル。」


「今私のこと見てませんでした?」


「うん。かわいい寝顔だったから、ずっと眺めてたんだ。」


「恥ずかしいからそれはダメですよ!」


ニコルは布団に潜り込んでしまいました。


「やっぱりニコルはかわいいよ!僕は世界一幸せな男だよ!!」


僕も布団に潜り込みニコルを抱き締めました。


「コンコン!」


この日ばかりは、そんな幸せな時間を邪魔をする扉のノックが怨めしかったです。


「2人ともいい加減に起きなさい!王様との謁見の時間に遅れるわけにはいかないでしょ?」


「ずっとこうしていたかったけど、仕方ない。起きようか?」


「はい。今日のデートも楽しみです。」


「うん。僕も楽しみにしてるからね!」



 朝からレナはいつもより豪華な朝食を用意してくれていました。


「あれ?今朝は何だかちょっと豪華だね?」


「そりゃー誰かさんが大人になったお祝いよ!」


「そんなこと祝うことなの?」


「まあ、場合によってはね!私の場合は半分祝いと半分からかってるだけだから気にしないでいいわよ!」


「うわー!なにそれ!?」


「本当はあんたたちがなかなか起きて来ないから、時間が余ったから沢山品数を作っただけよ!お幸せそうで何よりね!!」


「うん。幸せだよ。こんなに幸せな朝は生まれて初めてかもしれないよ。」


「うわっ!皮肉を言ったのに、さらにノロケてきやがったわ!朝チュン男はもう黙って飯を食え!!」


「何?朝チュン男って?」


「知らないわよ!王様にでも聞いてみたら?」


「それって王様に聞いていい内容なの?」


「いいわけないでしょ!!ホントに冗談が通じないわね?」


「レナさんとロンってすごく仲がいいのですね?」


ニコルが不安そうに聞いてきました。


「レナは口は悪いけどすごくフレンドリーなんだ!だからニコルともすぐに仲良くなると思うよ!

ニコルの心配するようなことは何もないから不安がらないで!僕が好きなのはニコルだけだから!!」


「はい!」


ニコルの機嫌もすっかり直りました。


確かにレナとはまだ出会ってたったの10日程度、しかも最初はいきなり殺されかけたにも関わらず、驚くくらい仲良くなったな…

レナの人柄だろうな…あの時、契約したことは間違いじゃなかった。これからもニコルやレナと仲良く暮らしていけたらいいな。


 この時僕はこんな幸せな生活がずっと続いていくことに何の疑いも持っていませんでした。

この先たったの1つの出来事がきっかけで、僕のこの幸せな時間が突然全て消え失せることとなるとは思いもしなかったです。

だがそれはまだかなり先の話です…今の僕はこの幸せを大切にしていくこと以外の選択肢はありませんでした。


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