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あれから数日、不撓不屈の精神で二人に接してきたが、俺の苦難は終わりを知らない。どんどん煩わしくなってきたのか、当初は魔法までも使用して俺をどうにか遠ざけようとしていたが、最近では無視に転じている。しかし、こんなことで諦めるほど俺は繊細ではない。接してきて気づいたことが、二人とも魔法の適性が高いことが。特に水属性。応用も効く上に日常生活においても便利だろう。ここまである程度自由に使用できるのであれば、勉強して魔導士を目指すのも悪くないのではないかと思う。勿論、そんなことを口に出して馬鹿みたいにキレられたのはご愛嬌だ。
さて、そんな俺だが流石にそろそろ打つ手がなくなってきた。例え驚きの図太さを持ち、無視されようが罵倒を浴びようが、冷たい眼差しを向けられようが気にしない俺でも、接触が難しいとなるとどうしようもない。
「仕方がないんだがなぁ……」
そうぼやきながらテーブルに突っ伏す。テーブルの冷たさが頬を辿ってじんわりと染み込んでくる。
「なーにレニエ、またレオンとキースから雑にあしらわれてんの?」
おしゃまナンシーはだらけきった俺の姿に溜息を吐きながら目の前にお茶を置いてくれた。
「んー……。どうしたらレオンとキースと仲良くすることができるんだろうか……」
お茶のお礼を伝え、俺はナンシーへと問いかける。
「そうねぇ……。あ! そしたら」
ナンシーは内緒話かのようにして俺の耳元であることを囁く。
翌日、俺はとある場所で身を潜めていた。ナンシーから教えてもらった、教会から街の方向へ少し歩いた先にある小さな森。その奥には澄んだ湖がある。湖の周辺は花の絨毯で溢れかえっており、どの季節に行ったとしても時間を忘れ、魅入ってしまうほどとてつもなく綺麗な場所らしい。そこがレオンのお気に入り。よく一人で寝転んで目を瞑っているとのことだったため、俺特製の花冠を作成して渡し、レオンに喜んでもらうというのが俺の作戦。
……幼稚だとか花冠が下手くそすぎて至る所から茎は飛び出し、花も一部くしゃくしゃになり、何とか形を保っている状態であることは言ってはいけない。俺は木陰からレオンが一人寝そべっているのを確認してそろりと近付く。足元の草がガサっと音を立てて揺れたことに気付いたレオンは俺に視線を向け、剣呑な目つきへと変える。無言で立ち去ろうとするレオンに急いで手に持っていたものを差し出す。
「レオン、これお前に」
「いらない」
俺の言葉に被せるようにして拒否の言葉を口にする。でも俺は諦めない。
「レオンのために作ったんだ。何も入ってなんかいやしないから、受け取ってくれないか」
「うざいんだよ!! ずっとずっと……! 何なんだよ、お前は!」
突如大声を上げ、俺の手を振り払ったレオンの瞳には怒りに満ちていた。
「お前が来てからシスターも他の奴らも……! 何で得体もしれない不気味な野郎を受け入れられる!! お前ら全員気持ち悪いんだよ!」
恐らく今までために溜め込んでいた鬱憤がレオンの中で爆発したのだろう。未だ声にならない叫びを上げ、怒りに満ちた顔を覆ったレオンの背後に巨大な影が急に現れる。大きな大きな水の球体。レオンの背後にある湖の水がレオンの制御不能となった魔力によって圧縮され、不安定に揺れている。
そう、この世界には魔法と呼ばれるものがある。火、水、風、土、光、闇の六属性が基礎にあり、それぞれから派生した属性を含めれば数えきれないほどの魔法の属性となる。この中でも光の属性を持つものの中には特に魔力量が多く、『聖女』と呼ばれる称号が与えられる者もいる。嫌なことを思い出しかけたが、今はそれどころではない。
レオンの魔法の適性は水。今のレオンは俺への怒りに夢中になり背後で蠢く影に気付くことはない。次第に大きくなった球体は遂に森の木々の背丈を超えた。流石にこのままではマズイと思った矢先、レオンは突如力が抜けたように地面へと倒れ込んだ。
「レオン!!」
急いで駆けつけた俺はレオンの息を確かめる。息は荒く、顔面蒼白だった。魔力欠乏の症状だ。俺は辺りを見渡し、誰もいないことを確認した上で自身の頬を叩く。決心を固めた俺は口元に手を持っていき、ゆっくりと息を吐き出す。魔力を乗せて吐き出された俺の吐息は黒い霧へと変貌し、巨大な球体へと意思を持って絡みつく。黒い霧は少しずつ少しずつ水の球体を『食べて』いき、完全にその姿を消し去った。吐き出された時と同じ大きさに戻った黒い霧は再度俺の口内へと戻ってくる。そのまま俺は黒い霧を飲み込み、膨大な魔力量に気持ちが悪くなりながら体内へと無理やり押し込む。その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「レニエ、さん……? それにレオンも……」
マリアさんが俺たちの背後に呆然としながら立っていた。あれだけ膨大な魔力で形成された巨大な水の球体だったのだ。周囲の人間が気付かないわけがない。教会の子どもたちを避難させた後、何事かと様子を見に来たのだろう。その時には既に俺が魔法を使用しているのが遠目からでも見られてしまった。
「レニエさん……もしかして、貴方の属性は闇、なの……?」
否定してくれ、そう言外に含ませて確認してきたマリアさんの顔は青かった。俺は観念したように小さく頷くと、マリアさんは更に震え始めて立っていることができなくなったのか、その場で座り込んでしまった。
「あぁ……っ」
何も言うことができなくなってしまったマリアさんを横目に俺は抱えていたレオンをゆっくりと花畑の上に寝かせる。背後から聞こえる大勢の人の声と足音に耳をすませながら——。
さて、そんな俺だが流石にそろそろ打つ手がなくなってきた。例え驚きの図太さを持ち、無視されようが罵倒を浴びようが、冷たい眼差しを向けられようが気にしない俺でも、接触が難しいとなるとどうしようもない。
「仕方がないんだがなぁ……」
そうぼやきながらテーブルに突っ伏す。テーブルの冷たさが頬を辿ってじんわりと染み込んでくる。
「なーにレニエ、またレオンとキースから雑にあしらわれてんの?」
おしゃまナンシーはだらけきった俺の姿に溜息を吐きながら目の前にお茶を置いてくれた。
「んー……。どうしたらレオンとキースと仲良くすることができるんだろうか……」
お茶のお礼を伝え、俺はナンシーへと問いかける。
「そうねぇ……。あ! そしたら」
ナンシーは内緒話かのようにして俺の耳元であることを囁く。
翌日、俺はとある場所で身を潜めていた。ナンシーから教えてもらった、教会から街の方向へ少し歩いた先にある小さな森。その奥には澄んだ湖がある。湖の周辺は花の絨毯で溢れかえっており、どの季節に行ったとしても時間を忘れ、魅入ってしまうほどとてつもなく綺麗な場所らしい。そこがレオンのお気に入り。よく一人で寝転んで目を瞑っているとのことだったため、俺特製の花冠を作成して渡し、レオンに喜んでもらうというのが俺の作戦。
……幼稚だとか花冠が下手くそすぎて至る所から茎は飛び出し、花も一部くしゃくしゃになり、何とか形を保っている状態であることは言ってはいけない。俺は木陰からレオンが一人寝そべっているのを確認してそろりと近付く。足元の草がガサっと音を立てて揺れたことに気付いたレオンは俺に視線を向け、剣呑な目つきへと変える。無言で立ち去ろうとするレオンに急いで手に持っていたものを差し出す。
「レオン、これお前に」
「いらない」
俺の言葉に被せるようにして拒否の言葉を口にする。でも俺は諦めない。
「レオンのために作ったんだ。何も入ってなんかいやしないから、受け取ってくれないか」
「うざいんだよ!! ずっとずっと……! 何なんだよ、お前は!」
突如大声を上げ、俺の手を振り払ったレオンの瞳には怒りに満ちていた。
「お前が来てからシスターも他の奴らも……! 何で得体もしれない不気味な野郎を受け入れられる!! お前ら全員気持ち悪いんだよ!」
恐らく今までために溜め込んでいた鬱憤がレオンの中で爆発したのだろう。未だ声にならない叫びを上げ、怒りに満ちた顔を覆ったレオンの背後に巨大な影が急に現れる。大きな大きな水の球体。レオンの背後にある湖の水がレオンの制御不能となった魔力によって圧縮され、不安定に揺れている。
そう、この世界には魔法と呼ばれるものがある。火、水、風、土、光、闇の六属性が基礎にあり、それぞれから派生した属性を含めれば数えきれないほどの魔法の属性となる。この中でも光の属性を持つものの中には特に魔力量が多く、『聖女』と呼ばれる称号が与えられる者もいる。嫌なことを思い出しかけたが、今はそれどころではない。
レオンの魔法の適性は水。今のレオンは俺への怒りに夢中になり背後で蠢く影に気付くことはない。次第に大きくなった球体は遂に森の木々の背丈を超えた。流石にこのままではマズイと思った矢先、レオンは突如力が抜けたように地面へと倒れ込んだ。
「レオン!!」
急いで駆けつけた俺はレオンの息を確かめる。息は荒く、顔面蒼白だった。魔力欠乏の症状だ。俺は辺りを見渡し、誰もいないことを確認した上で自身の頬を叩く。決心を固めた俺は口元に手を持っていき、ゆっくりと息を吐き出す。魔力を乗せて吐き出された俺の吐息は黒い霧へと変貌し、巨大な球体へと意思を持って絡みつく。黒い霧は少しずつ少しずつ水の球体を『食べて』いき、完全にその姿を消し去った。吐き出された時と同じ大きさに戻った黒い霧は再度俺の口内へと戻ってくる。そのまま俺は黒い霧を飲み込み、膨大な魔力量に気持ちが悪くなりながら体内へと無理やり押し込む。その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「レニエ、さん……? それにレオンも……」
マリアさんが俺たちの背後に呆然としながら立っていた。あれだけ膨大な魔力で形成された巨大な水の球体だったのだ。周囲の人間が気付かないわけがない。教会の子どもたちを避難させた後、何事かと様子を見に来たのだろう。その時には既に俺が魔法を使用しているのが遠目からでも見られてしまった。
「レニエさん……もしかして、貴方の属性は闇、なの……?」
否定してくれ、そう言外に含ませて確認してきたマリアさんの顔は青かった。俺は観念したように小さく頷くと、マリアさんは更に震え始めて立っていることができなくなったのか、その場で座り込んでしまった。
「あぁ……っ」
何も言うことができなくなってしまったマリアさんを横目に俺は抱えていたレオンをゆっくりと花畑の上に寝かせる。背後から聞こえる大勢の人の声と足音に耳をすませながら——。
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