うちは普通の居酒屋ですって!

蜂巣花貂天

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開店準備

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  勇者とその仲間が森の中で夜営をしている。

「本当にいいのですか?勇者様?」
「あぁ、もともとコースケとは自分の店を開店するまでの間だけ魔王討伐に協力してもらう約束だったからな」
「ですが、重大な戦力を失うとなると死活問題に……」
「たしかにそうだが。戦いたくない者を冒険に連れ出すのは俺の主義に反する」
「わかりました。そういうことなら諦めましょう」
「しかし、今晩から食事が味気ないものになってしまうのは辛いな」
「そうですね。できれば毎日でもコースケの店に通いたいですが……」
「物件が安いという理由だけで、魔王の領域に最も近い危険な街に店を開きやがったからな」
「私達のレベルでは気軽に近づけませんね」
「くそぅ、絶対に強くなってあのホロホロ肉のビーフピラフを食べに行ってやるからな」
「あー、よだれ鶏の棒々鶏が毎日食べれた頃が懐かしい」
  勇者一向はぶつぶつと呟きながら森の中に拠点を築いていった。

   一方その頃、最果ての街に一件の居酒屋が誕生していた。
    黒いバンダナを頭に巻いた20代前半の男は厨房設備のチェックを入念に行っていた。
「よし、だいたい揃ってきたな」
   男は中華包丁のようなものを背中に背負っており、いっけんすると山賊のような風体をしている。
   しかし、その表情はとても穏やかに見え、今から町を襲って一暴れしようとしているようには見えない。
「客席は8席か……少々物足りないが今はこれくらいが妥当か」
   もともとは何の施設だったのか不明だが、今ではすっかりお店に改装されていた。
「さて、仕込みは万全。内装も完璧。いつでもお客様を迎えられる訳だが……」
   異世界に来るまで男はただの学生だった。
  まかないがあるという理由だけで居酒屋のアルバイトとして日夜働き続けた結果、単位を落としまくって留年したのだった。
   男が異世界で居酒屋を開こうと思ったのはこの世界の料理の味が全く合わなかったからだ。
   料理といえば、焼くか煮るしか選択肢がないだけでなく、味も一辺倒、どの街の味も特徴がない。
   基本的には、素材の味に塩気を足したような料理といえない料理ばかりを口にするしかなかった。
   魔王を倒す事よりも日々の食生活を改善する事の方がはるかに重要な課題だったのだ。
   居酒屋「弖爾乎波」と記された巨大な布を男は感慨深そうに眺めた。
   男は入り口にのれんを掛け、新しい居酒屋の営業開始を高らかに宣言した。
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