うちは普通の居酒屋ですって!

蜂巣花貂天

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石焼き料理と宝石商人

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「いらっしゃい」
   黒い布を頭に被った山賊風の男が奥から現れた。
   どうやら彼がここの店主らしい。
「あー、私はお客じゃないんだ」
   人のよさそうな店主も、開口一番でそう言われて、さすがにムッと表情をしかめた。
「営業ならお断りだ。用がないなら帰ってくれ」
「ちょっと待て、そう言わずに昨日仕入れた商品を見てくれないか」
「ふん、やっぱり物売りか」
「違いないが、私は宝石商だ」
「宝石商?うちは居酒屋だぞ!石ころなんて不味くて食べれん」
  少々強引に店主は男を追い出そうと詰め寄った。
「そういわず、話だけでも聞いてくれ」
「話すことは何もない。あんたが何か食べるか飲むかするんなら、その間くらいは耳を傾けてやってもいいがな」
   店主は背中に背負った巨大な中華包丁の柄に手をかけようとしていた。
「わかった、わかりましたよ。何かおすすめの品を作ってもらおうか」
   宝石商は降参の意味をこめて手を挙げて客席に腰かけた。
「よし、それなら旦那はお客様だ。腕によりをかけて料理を提供しよう」
  店主は注文も聞かずに厨房へと引っ込んでしまい、宝石商は仕方無く料理が運ばれてくるのを待つ事にした。
  厨房からは、野菜や肉を刻む音や、何かを熱しているのか白い蒸気が漏れていた。
「お待たせしました」
  そういって店主は男の目の前に巨大な石の塊を載せたトレーをどかっと置いた。
「これは焼いた石の塊じゃないか……皮肉のつもりか?」
「さぁ、召し上がってもらいましょう」
  店主は焼いた石の上部をスライドさせた。
「おぉ、これは珍妙な!」
 石の内部はお椀上にくり貫かれており熱々の肉や野菜をスパイスと一緒に炒めたものが詰められている。
  「わざと表面を焦がしたライスが香ばしい!うまいぞ」
「それはなにより。では、商談に入りましょうか」
  店主は隣りのテーブルに座り話を聴く態勢に入った。
「いやいや、本当に美味しい料理ですよ。これは繁盛間違いないな」
「実はまだオープンしたばかりで、知名度がないからな」
「それは勿体ない。行商する際に私が宣伝しておきましょう」
「なるほど、それはありがたい」
「こちらの商品を買って頂けたら、さらに熱心にアピールしたくなるんですが」
  宝石商は、ポケットからいかにも上品そうな布を取り出して宝石を机に広げた。
「まず、海遊石は装備すると水の威力が上がるので水道代の節約になります。焔鹿石は火力倍増で薪代の節約に……」
「まてまて、そんなに沢山言われても困る。あんたのイチオシはどれだよ」
「それもそうですね、昨日仕入れたとっておきがコチラ!」
  宝石商が取り出したのは、お世話にも美しいとはいえない濁った色の石だった。
「……これか?」
「まぁ、見た目はアレですが効果はすごいんですよ」
「うむ」
「この酔牢石は、なんと水をお酒に変える力があるんですよ」
「!?」
「例えば、このコップの水を酔牢石を持った手で触れると」
  宝石商がコップに手をかざす。
  石が禍々しい光を放ちコップの水が変化していく。
「まさか、これで酒に?」
「試しに舐めてみてください」
  店主は宝石商からコップを受け取り水を一口飲んでみる。
「こ、これは!酒の味」
「すごいでしょう」
「たしかに魅力的ではあるな……でも高いんだろう?」
「そうですねぇ……このレベルの宝石になると桁が一つ変わってきますから」
 「わかった。10000ゼニスでどうだ?」
「はっきりいって全然足りませんね」
「く……それ以上は出せないぞ」
「なら、10000ゼニスとさっきの石焼きの器でどうですか?」
「わかった。それでも俺は構わない」
「交渉成立ですね。この石はもう貴方の物です」
 店主は10000ゼニスと器を宝石商に手渡した。
「いい買いものができましたね」
「うむ」
「それでは、またどこかでお会いしましょう」
 宝石商は、急にそそくさと出口に向かい、走っていった。
「これで酒代がかなり浮くな」
 店主は、酔牢石を装備してお冷やの入ったポットを持ってみた。
  しかし、先程のように石が光を放つことは無かった。
  もちろん、水は水のまま何かに変化する訳はなかったのだ。
「騙された……」
  気づいた時には、宝石商は街を出ており捕まえる事はできそうにない。
「顔はしっかり覚えたぞ。今度見つけたら焼けた石を口に放りこんでやるからな」
  店主はブラックリストに、宝石商の情報を記しておく事にした。

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