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マラソン大会当日
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マラソン大会当日。
Tシャツ、短パン、生足のアカリちゃんにみんなが目を奪われる。
「やっだー、ヒロ見過ぎー」
「あ、ご、ごめっ」
「なーんてね。えへへっ」
見てるの僕だけじゃないよ、アカリちゃん。
マラソン大会は男子は25キロ、女子は15キロ走る。
男子は開始早々、アカリちゃんとトーマのデッドヒートとなった。
みんな置いてけぼり。
僕は途中までマサキと一緒に走ってたけど今は一人だ。
マサキは15キロ過ぎたところで「そろそろ先に行くな。頑張れよ」と僕の肩をポンと叩いてスピードを上げて行った。
20キロ走った頃には、僕の前を走る人が見えなくなった。
後ろは勿論誰もいない。
僕がビリだから。
いつもはまばらだけど走っている人がいる川沿いのランニングコースなのに、今日に限って人がいない。
視線を感じてゾクっと背筋が寒くなった。
周りを見渡してもやっぱり誰もいない。
なのに、背中に感じる視線に何度も振り返ってしまう。
その不気味な視線に思い出したくない過去が蘇り、頭を振って振り払う。
大丈夫、あれは昔のことだ。
今はアカリちゃんと一緒じゃないし、アルファらしくない今の僕に気付く人はいないはず。
だから大丈夫。
それでも早くここから抜け出したくてスピードを上げた途端、足が縺れて派手に転んだ。
受け身がちゃんと取れなかったため、打ちつけた体と、擦りむいた膝が痛い。
「くっ…」
歯を食いしばってなんとか起き上がるけど、そこからすぐ立ち上がることができない。
「あれ…な、んで…?」
やっとの思いで立ち上がって一歩を踏み出すけど、また視線を感じたけど振り向けなかった。
「大丈夫だから…僕は大丈夫だから…」
声に出してみるものの、波のように押し寄せる不安に、踏ん張っていた足の力が抜けカクンと転んでしまった。
もう一度起き上がって「大丈夫、大丈夫」と声に出して自分に言い聞かせているのにそれ以上動けなかった。
「な…んでぇ…」
なんで僕はこんなに弱いの?
なんで僕はーー
「ヒーロー」
僕を呼ぶ声が聞こえてノロリと頭を上げると、遠くから駆け寄ってくる人影が見えた。
それは救急箱を抱えたアカリちゃんと、すぐ後ろを追いかけるトーマだった。
アカリちゃんは救急箱をトーマに投げると一気に加速して僕の目の前に到着した。
「あか…」
名を呼びきる前にガバリと抱きしめられた。
「大丈夫だよ、ヒロ。ボクは大丈夫だし、ヒロも大丈夫だよ」
ポンポンと優しく叩いてくれる温かさで、僕は自分が震えていたことに気付いた。
「あか…り…ちゃん…」
「うん」
「アカリちゃん」
「うん」
「ふっっ…良かった…」
「うん、ありがと、ヒロ」
アカリちゃんの温かさで僕の身体に血液が巡り震えは止まった。
「そろそろいーかー?」
トーマの声にハッと我に返った。
「あ、トーマ居たんだ」
「ハイハイ居ましたよ。5分前からね」
トーマは僕が落ち着くまで待ってくれていた。
「あっ、トーマごめん」
「いーから、ほれ、早く手当てして走ろうぜ」
アカリちゃんはトーマから救急箱を受け取り、手際良く処置をしてくれて、残り5キロのコースを走った。
トーマは救急箱を抱えて。
アカリちゃんは僕の手を握って。
ゴール付近には既に生徒は居らず、先生1人とマサキが待っていてくれた。
「お疲れ」とマサキは言うと肩を貸してくれた。
打ちつけた体はあちこち痛かったけど、3人のおかげで僕は無事完走した。
__________________
次回は0時更新予定です。
Tシャツ、短パン、生足のアカリちゃんにみんなが目を奪われる。
「やっだー、ヒロ見過ぎー」
「あ、ご、ごめっ」
「なーんてね。えへへっ」
見てるの僕だけじゃないよ、アカリちゃん。
マラソン大会は男子は25キロ、女子は15キロ走る。
男子は開始早々、アカリちゃんとトーマのデッドヒートとなった。
みんな置いてけぼり。
僕は途中までマサキと一緒に走ってたけど今は一人だ。
マサキは15キロ過ぎたところで「そろそろ先に行くな。頑張れよ」と僕の肩をポンと叩いてスピードを上げて行った。
20キロ走った頃には、僕の前を走る人が見えなくなった。
後ろは勿論誰もいない。
僕がビリだから。
いつもはまばらだけど走っている人がいる川沿いのランニングコースなのに、今日に限って人がいない。
視線を感じてゾクっと背筋が寒くなった。
周りを見渡してもやっぱり誰もいない。
なのに、背中に感じる視線に何度も振り返ってしまう。
その不気味な視線に思い出したくない過去が蘇り、頭を振って振り払う。
大丈夫、あれは昔のことだ。
今はアカリちゃんと一緒じゃないし、アルファらしくない今の僕に気付く人はいないはず。
だから大丈夫。
それでも早くここから抜け出したくてスピードを上げた途端、足が縺れて派手に転んだ。
受け身がちゃんと取れなかったため、打ちつけた体と、擦りむいた膝が痛い。
「くっ…」
歯を食いしばってなんとか起き上がるけど、そこからすぐ立ち上がることができない。
「あれ…な、んで…?」
やっとの思いで立ち上がって一歩を踏み出すけど、また視線を感じたけど振り向けなかった。
「大丈夫だから…僕は大丈夫だから…」
声に出してみるものの、波のように押し寄せる不安に、踏ん張っていた足の力が抜けカクンと転んでしまった。
もう一度起き上がって「大丈夫、大丈夫」と声に出して自分に言い聞かせているのにそれ以上動けなかった。
「な…んでぇ…」
なんで僕はこんなに弱いの?
なんで僕はーー
「ヒーロー」
僕を呼ぶ声が聞こえてノロリと頭を上げると、遠くから駆け寄ってくる人影が見えた。
それは救急箱を抱えたアカリちゃんと、すぐ後ろを追いかけるトーマだった。
アカリちゃんは救急箱をトーマに投げると一気に加速して僕の目の前に到着した。
「あか…」
名を呼びきる前にガバリと抱きしめられた。
「大丈夫だよ、ヒロ。ボクは大丈夫だし、ヒロも大丈夫だよ」
ポンポンと優しく叩いてくれる温かさで、僕は自分が震えていたことに気付いた。
「あか…り…ちゃん…」
「うん」
「アカリちゃん」
「うん」
「ふっっ…良かった…」
「うん、ありがと、ヒロ」
アカリちゃんの温かさで僕の身体に血液が巡り震えは止まった。
「そろそろいーかー?」
トーマの声にハッと我に返った。
「あ、トーマ居たんだ」
「ハイハイ居ましたよ。5分前からね」
トーマは僕が落ち着くまで待ってくれていた。
「あっ、トーマごめん」
「いーから、ほれ、早く手当てして走ろうぜ」
アカリちゃんはトーマから救急箱を受け取り、手際良く処置をしてくれて、残り5キロのコースを走った。
トーマは救急箱を抱えて。
アカリちゃんは僕の手を握って。
ゴール付近には既に生徒は居らず、先生1人とマサキが待っていてくれた。
「お疲れ」とマサキは言うと肩を貸してくれた。
打ちつけた体はあちこち痛かったけど、3人のおかげで僕は無事完走した。
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次回は0時更新予定です。
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