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僕の気持ち
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あの後のことは記憶になかった。
蒼さんが帰った後、お母さんが教えてくれた。
棗家と一城家の顔合わせは次の土曜日。
場所は新幹線で1時間半、更に駅から車で20分ほどかかる、隣県の避暑地の山の上にある老舗のホテル。
時間は15時。
あれ、確かこの辺りってアカリちゃんの発情期予定じゃ…。
と、すると、顔合わせの後はたぶんーー
そういうことなんだ……。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
今日も家を出て、隣の家の前で閉まったままのカーテンを眺めて学校へ向かう。
途中、マサキとトーマが待ってくれていた。
いつもと変わらない2人に僕は上手く笑えなかった。
「七月くん、おはよう」
昇降口で名指しで挨拶してきたのは一城先輩だ。
「3年は自由登校ですよね。毎日毎日、先輩、暇人ですか?」
「この校舎を覚えていたくてね。まあそれも今日で終わりだけどね」
トーマが投げる皮肉に、先輩は爽やかな笑みで返した言葉と眼差しに僕の肩が小さく跳ねた。
その反応を見た先輩は「ああそうだ」と楽しそうに続ける。
「今週末に一城家と棗家の顔合わせが決まったと報告に、と思ったけど……。ふっ、その様子だとやはり聞いているようだね」
その言葉に僕の肩はビクリと跳ね、顔が強張る。
思わず俯いた僕をマサキとトーマが前に立ち一城先輩から隠した。
「話はそれだけですか?」
「ああ、七月くんが知らないかと思ったから待ってたんだけど、……その必要はなかったね」
「クソむかく」
「呼び止めてごめんね」と去っていく一城先輩の背中にトーマが悪態を吐く。
「今の話…」
「うん」
マサキの問いに顔を上げることができない。
今僕の顔はめちゃくちゃ酷いと思う。
見られたくない。
「よしーーヒロ、サボるぞ」
「ちょっと待て、俺もサボる」
「……ぇ……ええーーっ」
訳がわからないまま、僕はマサキとトーマに手を引かれ校門を出た。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
制服のままだと目立つからと、マサキの家に寄って制服のジャケットを脱ぎ、パーカーを借りてシャツの上から着た。
財布とスマホだけポケットに入れ、電車で3駅移動した先にある繁華街へ向かった。
そこでアクション映画を観て、コンビニで買った骨無しチキンにかぶりつきながらブラブラする。
「ゲーセン入ると金無くなんだよなー」
「ヒロ、どっか行きたいとこない?」
「特にこれといってーーぁ……」
「何?」
マサキは小さく声を上げた僕の視線の先を追う。
「ピアス?」
「ヒロ、ピアス持ってんの?」
雑貨屋の店先にあるピアスを見て振り返った2人は「意外」と言わんばかりの顔をし、頷く僕に更に驚く。
「アカリちゃんに誕生日プレゼントで貰ったんだ。まだ穴は開けてないんだけど……」
「イッガーイ」
「それって1個?2個?」
「えっ?あっ、1個」
マサキは少し考えると、ピアスの横に陳列してあったピアッサーを一つ手に取り店の中に入って行った。
1分後。テープを貼られたそれを持ってマサキは出てきた。
「うちに帰るぞ」
「おうっ」
「えっ…ええーーっ」
僕はまた訳がわからないまま、2人にひきづられマサキの家に戻った。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
ガシャンと耳元で大きな音が響く。
マサキの部屋に着いて早々、僕の左耳朶をピアッサーが貫いた。
あまりの衝撃に、言葉を発することができず固まった。
しかも、ビックリしすぎて体が少し跳ねた。
「ヒロ、痛むか?」
「えっ、あっ、ちょっとジンジンするけど大丈夫」
マサキは消毒からピアスホールを開けるまで手際良くあっという間にやった。
トーマは少し離れたところで、耳を塞いで薄目を開けてその様子を見ていた。
痛いと思っていたピアスホール開けは、痛みよりも音の衝撃の方が強かった。
僕はジンジンする耳朶に刺さったピアスに手を伸ばすと、「まだ触んな」とトーマに手を掴まれ止められる。
「ヒロの意思を聞かずにごめん。穴が定着するまでの時間考えると全然遅いけど、今開けるべきだと思ったんだ」
マサキは頭を下げ謝罪の言葉を述べた。
こんなに強引なマサキは初めてだ。
いつも僕たちの気持ちを優先して、文句を言いつつも世話を焼いてくれる。
そんなマサキが学校サボって、今は僕の意思を聞かずにピアスホールを開けた。
「こんなのキッカケにしかならないけど……」
「……うん……?」
「ヒロ、自分の気持ちに真っ直ぐに向き合え」
「……っ…」
「棗のこと。自分の気持ちに目を背けるな。自分の中の本当の気持ちにちゃんと向き合え」
マサキの言葉に声が出ない。
あの日から、僕は考えることをずっと避けていた。
もう取り戻せないから、と決めつけて…。
『僕の本当の気持ち』
上手く息ができなくて胸を押さえて震える僕をトーマが腕を回して肩を組むとポンポンと叩く。
「大丈夫だ。俺たちがいるだろ」
「ヒロ、今頭ん中にあるマイナスの考えを全部取っ払え。その上で考えろ」
「.………っ、でも……」
「アルファとかオメガとか。アカリの番いが誰かとか……。そういうことを全部取っ払って、ヒロにとってあいつがどういうものなのか、どう思っているのかをちゃんと考えるんだ」
マサキの真っ直ぐな眼と、僕の肩に乗るトーマの体温に、鼻の奥がツンと痛くなって言葉が出ない。
トンっと額にマサキの肩が当たり、僕はマサキとトーマに包まれる。
「時間はまだある。ちゃんと考えろ。ちゃんと考えたら、ヒロの本当の気持ちがちゃんと見つかるから」
「ヒロが今一番にすべきことは、素直になることだ。そして、自分の気持ちを大事にするんだ」
2人の温かさに視界がボヤけて涙が溢れた。
嗚咽を堪え、必死に声を絞り出した。
「……ありがとう」
__________________
ピアスホール開けるシーンは私の実体験が基になっています。
看護師さんが開けてくれたのですが、「開けます」→「ガシャン」の間がほぼなくて、ビビったのを覚えてます。
蒼さんが帰った後、お母さんが教えてくれた。
棗家と一城家の顔合わせは次の土曜日。
場所は新幹線で1時間半、更に駅から車で20分ほどかかる、隣県の避暑地の山の上にある老舗のホテル。
時間は15時。
あれ、確かこの辺りってアカリちゃんの発情期予定じゃ…。
と、すると、顔合わせの後はたぶんーー
そういうことなんだ……。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
今日も家を出て、隣の家の前で閉まったままのカーテンを眺めて学校へ向かう。
途中、マサキとトーマが待ってくれていた。
いつもと変わらない2人に僕は上手く笑えなかった。
「七月くん、おはよう」
昇降口で名指しで挨拶してきたのは一城先輩だ。
「3年は自由登校ですよね。毎日毎日、先輩、暇人ですか?」
「この校舎を覚えていたくてね。まあそれも今日で終わりだけどね」
トーマが投げる皮肉に、先輩は爽やかな笑みで返した言葉と眼差しに僕の肩が小さく跳ねた。
その反応を見た先輩は「ああそうだ」と楽しそうに続ける。
「今週末に一城家と棗家の顔合わせが決まったと報告に、と思ったけど……。ふっ、その様子だとやはり聞いているようだね」
その言葉に僕の肩はビクリと跳ね、顔が強張る。
思わず俯いた僕をマサキとトーマが前に立ち一城先輩から隠した。
「話はそれだけですか?」
「ああ、七月くんが知らないかと思ったから待ってたんだけど、……その必要はなかったね」
「クソむかく」
「呼び止めてごめんね」と去っていく一城先輩の背中にトーマが悪態を吐く。
「今の話…」
「うん」
マサキの問いに顔を上げることができない。
今僕の顔はめちゃくちゃ酷いと思う。
見られたくない。
「よしーーヒロ、サボるぞ」
「ちょっと待て、俺もサボる」
「……ぇ……ええーーっ」
訳がわからないまま、僕はマサキとトーマに手を引かれ校門を出た。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
制服のままだと目立つからと、マサキの家に寄って制服のジャケットを脱ぎ、パーカーを借りてシャツの上から着た。
財布とスマホだけポケットに入れ、電車で3駅移動した先にある繁華街へ向かった。
そこでアクション映画を観て、コンビニで買った骨無しチキンにかぶりつきながらブラブラする。
「ゲーセン入ると金無くなんだよなー」
「ヒロ、どっか行きたいとこない?」
「特にこれといってーーぁ……」
「何?」
マサキは小さく声を上げた僕の視線の先を追う。
「ピアス?」
「ヒロ、ピアス持ってんの?」
雑貨屋の店先にあるピアスを見て振り返った2人は「意外」と言わんばかりの顔をし、頷く僕に更に驚く。
「アカリちゃんに誕生日プレゼントで貰ったんだ。まだ穴は開けてないんだけど……」
「イッガーイ」
「それって1個?2個?」
「えっ?あっ、1個」
マサキは少し考えると、ピアスの横に陳列してあったピアッサーを一つ手に取り店の中に入って行った。
1分後。テープを貼られたそれを持ってマサキは出てきた。
「うちに帰るぞ」
「おうっ」
「えっ…ええーーっ」
僕はまた訳がわからないまま、2人にひきづられマサキの家に戻った。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
ガシャンと耳元で大きな音が響く。
マサキの部屋に着いて早々、僕の左耳朶をピアッサーが貫いた。
あまりの衝撃に、言葉を発することができず固まった。
しかも、ビックリしすぎて体が少し跳ねた。
「ヒロ、痛むか?」
「えっ、あっ、ちょっとジンジンするけど大丈夫」
マサキは消毒からピアスホールを開けるまで手際良くあっという間にやった。
トーマは少し離れたところで、耳を塞いで薄目を開けてその様子を見ていた。
痛いと思っていたピアスホール開けは、痛みよりも音の衝撃の方が強かった。
僕はジンジンする耳朶に刺さったピアスに手を伸ばすと、「まだ触んな」とトーマに手を掴まれ止められる。
「ヒロの意思を聞かずにごめん。穴が定着するまでの時間考えると全然遅いけど、今開けるべきだと思ったんだ」
マサキは頭を下げ謝罪の言葉を述べた。
こんなに強引なマサキは初めてだ。
いつも僕たちの気持ちを優先して、文句を言いつつも世話を焼いてくれる。
そんなマサキが学校サボって、今は僕の意思を聞かずにピアスホールを開けた。
「こんなのキッカケにしかならないけど……」
「……うん……?」
「ヒロ、自分の気持ちに真っ直ぐに向き合え」
「……っ…」
「棗のこと。自分の気持ちに目を背けるな。自分の中の本当の気持ちにちゃんと向き合え」
マサキの言葉に声が出ない。
あの日から、僕は考えることをずっと避けていた。
もう取り戻せないから、と決めつけて…。
『僕の本当の気持ち』
上手く息ができなくて胸を押さえて震える僕をトーマが腕を回して肩を組むとポンポンと叩く。
「大丈夫だ。俺たちがいるだろ」
「ヒロ、今頭ん中にあるマイナスの考えを全部取っ払え。その上で考えろ」
「.………っ、でも……」
「アルファとかオメガとか。アカリの番いが誰かとか……。そういうことを全部取っ払って、ヒロにとってあいつがどういうものなのか、どう思っているのかをちゃんと考えるんだ」
マサキの真っ直ぐな眼と、僕の肩に乗るトーマの体温に、鼻の奥がツンと痛くなって言葉が出ない。
トンっと額にマサキの肩が当たり、僕はマサキとトーマに包まれる。
「時間はまだある。ちゃんと考えろ。ちゃんと考えたら、ヒロの本当の気持ちがちゃんと見つかるから」
「ヒロが今一番にすべきことは、素直になることだ。そして、自分の気持ちを大事にするんだ」
2人の温かさに視界がボヤけて涙が溢れた。
嗚咽を堪え、必死に声を絞り出した。
「……ありがとう」
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看護師さんが開けてくれたのですが、「開けます」→「ガシャン」の間がほぼなくて、ビビったのを覚えてます。
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