至高のオメガとガラスの靴

むー

文字の大きさ
40 / 53
番外編/後日談

後日談:大人たちの祝宴

しおりを挟む
「「かんぱーい」」

ガチンッと派手な音を立ててグラスをぶつけたが、幸いにも割れることはなかった。

「さすがに今回は心臓に悪かったな」
「何があったんだ?」
「まさかのヒロのお昼寝」
「うっそーホントにー?」
「この1週間ほとんど眠れてなかったみたい。そのツケが今日来たのよ。アレにはちょっと焦ったわ…」
「ふふふっ、でもなんとか間に合って良かったわ。ねっ、蒼くん」
「そうだね」

乾杯からビール、ワイン、日本酒、ウィスキーと各々の好きな酒を楽しむ4人は、やっと纏まった我が子たちに笑みが絶えない。

蒼はグラスに口をつけかけ、思い出したように問いかける。

「なあ透」
「何だ?」
「もし…もしも、アカリの発情期が終わってない状態で一城可那斗に噛まれてたらどうなってた?」
「うーん。どうだろう?たぶん、あの一回では番にはならないと思う。先にヒロが噛んでいたし。ただ、赤ん坊のヒロの噛み跡は仮契約くらいの効力しかないから次の発情期にもう一度噛まれたら判らない……ってとこかな。あくまで推測だが」
「ヒロくんがレア・アルファで良かったー。あんなくっさい息子ができると思ったらゾッとしちゃった」
「本当、大事なアカリちゃんが他の野郎に取られなくて良かったわー」

貴美と百合はカチンとまた乾杯する。

「一城可那斗の弟たちはどうしてる?」
「ウチのマンションで元気にしてるわよー。あの家から離して正解だったわ。未那斗くんも凪沙くんもよく笑うようになったの」

透の問いに百合が嬉しそうに答えた。

「アルファの僕はしばらく警戒されたけどね」

肩を竦ませながら蒼はワインを飲み干す。
ははははっと笑いながら透は手に取ったボトルの中身を蒼のグラスに注いだ。

「そういえば、百合ちゃんのお兄さんとこの結季ゆうきくん。あの子はどうしてるの?」
ゆうちゃんね。年始に会ったけど元気にしてたわ。受験生だからピリピリしてたけど、兄さんと楓くんが家庭教師してるのだから志望校には余裕で合格できるはずよ。……でもねぇ…」
「……でも?」
「フェロモンが少し出てたの……たぶん、結ちゃんのオメガが目覚め始めてる」
「彼の記憶は?」

透の問いに百合はフルフルと頭を横に振る。

「このまま思い出さない方が幸せなんだと思う……」
「でも、結季くんのオメガが完全に目覚めてしまったらあの一族に見つかるのも時間の問題だよね」
「だから、見つかる前に番を得ることができれば……なんだけど、結ちゃん、自分がベータだと思って育っちゃったから難しいのよねぇ」

百合はグラスに残っていた日本酒を飲み干す。
それに合わせて、貴美が空いたグラスに日本酒を注ぎ入れる。

「オメガとして覚醒したらどうするの?」
「様子見かな。でもフェロモンがあと少し強く出るようになったらすぐ転校になるかな。転校先はもう決めてて、すでに根回しは終わってるって兄さん言ってたし」
「なんか可哀想ね。志望校合格のために必死に勉強してるんでしょ」
「これだけは仕方がないかな。結ちゃんをあの家から守ることがお祖父様の意向だから」

そう言うと百合はグラスに並々と注がれた日本酒を一気に煽った。

「彼の項にも噛み跡があるんだよね?」
「うん、だいぶ薄くなってるけど」
「相手ってまだ分からないの?」
「結ちゃんの記憶が戻れば分かるのかもしれないけど…」
「なあ透。彼の項を噛んだのレア・アルファの可能性はないのかな?」
「ああ、それは俺も思った。可能性はゼロではない……が、断言はできない」
「知り合いに分かる人はいないの?」
「……いる…いるが、できればこの件には関わりたくない」
「それって……アメリカに留学中に出会ったって言ってた人?」
「ああ、たぶん、あの男はレア・アフルァだ。そして俺がレア・アルファであることに気がついてる………そう遠くない未来、ヒロにも接触してくるはずだ」

スラックスの上から膝を強く掴む透に貴美が手を伸ばすとその手を透が掴む。
一気に重苦しくなった空気に、誰も言葉が出てこない。

「番を得てレア・アルファとして完全に覚醒したヒロにとってはこれからの方が大変かもしれないけど……アカリという番を得たから、何が起きても大丈夫だよ」
「なにせウチの息子は一途で最強ですから~」

重苦しい空気を打ち破るように蒼と百合が言葉を発する。

「…透…」
「そうだな。今考えても仕方がない。なにせ今日は最高の日なんだから」

重苦しい空気にした張本人が続ける。

「もう一度、乾杯しよう」

「「「「乾杯」」」」

4人は静かにグラスを当てた。


__________________

ビール:貴美
ワイン:蒼
日本酒:百合
ウィスキー:透
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

処理中です...