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短編:高校3年生
望月さん? 前編
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高校最後の夏休み初日。
塾がない今日は僕とアカリちゃんは百合ちゃんに呼ばれて、"natsume"本社から車で10分ほど移動した先の高級ホテルに来た。
出迎えを受けた僕たちは、最上階のエグゼクティブスイートに案内された。
僕たちの前にはこのホテルの経営者の弥生社長と、その秘書の望月さんという人だけだった。
お茶を味を楽しむ百合ちゃんとケーキを楽しむアカリちゃんの隣で、僕は何が起きているのかわからずカチンコチンでソファに座った。
「あ、あの……今日って……?」
「えっ、アカリ、ヒロくんに説明してないの?」
「ふへっ?……あ、わふれてた……」
呑気にケーキを頬張るアカリちゃんに、僕と百合ちゃんはため息を吐く。
「今日は"natsume''のウェディングの提携と、ボクとヒロの結婚式の打ち合わせだよ」
「ええっ!」
聞いてない。
というか、結婚式って?
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
アカリちゃんとの結婚式の話は冗談だったけど、natsumeと弥生グループのウェディング事業の提携は本当だった。
僕とアカリちゃんが番になった頃から、百合ちゃんはウェディングドレスのデザインを描き始めていたそうだ。
ホテル業界ではトップを走る弥生グループはホテルウェディングでもトップだ。
今日は結婚式や披露宴での衣装レンタルのドレスをnatsumeがプロデュースする打ち合わせのための席らしい。
「でも、なんで僕たちも?」
「そ・れ・は、ボクたちがそのプロモーションのモデルをするからなんだよー!」
「ええーっ!」
「もうアカリったら、何も話してなかったのね…」
楽しそうに話すアカリちゃんと、驚きすぎてもう言葉が出ずパクパクする僕に、百合ちゃんは呆れ顔だ。
そんなアカリちゃんは口の端についたクリームをペロリと舐めて「テヘッ」と笑った。
か、可愛い……。
「改めて、ヒロくんとアカリにはプロモーションのモデルをお願いしたいの。元々、2人のために考えていた衣装だから」
「で、でも、アカリちゃん、男の子……」
「えー、ボク、タキシードもドレスも着るよー。おっぱいないから胸ボーンしてるドレスは着れないけど」
「その辺は抜かりないわよ。可愛いドレス作ってるから」
「やったー!」
僕をほっぽいてアカリちゃんと百合ちゃんは楽しそうに喋っていた。
そんな様子に「ははは、いいねぇ」と社長さんは笑っていた。
「うちにも3人息子がいてね。末の子はオメガだから、この機会にnatsumeさんの衣装を着せたかったんだけど、上の2人に猛反対されてね……」
「社長、お二人が反対しなかったとしても真琴様は受けませんよ」
「だよねぇ……」
社長の側で無表情で言葉を発する秘書の望月さんは、何か不思議な空気を纏っていた。
「アカリは化粧しても同じ学校の子にはすぐバレちゃうかもしれないけど、ヒロくんは前髪上げて眼鏡も取っちゃうから、たぶん気付かれないわ」
「でも……」
「大丈夫よ。貴美ちゃんと透くんの許可も取ってるから。超、かっこいい衣装、用意してるから、ね!」
親指を立ててウィンクする百合ちゃん。
それでも戸惑う僕の手をアカリちゃんが取った。
「モデルでも、ボクの隣に立つ人はヒロだけだよ。ヒロの隣に立つのもボクだけだから…ね」
「……うん」
なんだかんだで、2人に丸め込まれてしまった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「ひとつお聞きしてよろしいでしょうか?」
話が纏まった後、ずっと社長さんの後ろに控えていた望月さんが口を開いた。
僕を真っ直ぐ射抜くその瞳は黒曜石のように澄んでいて、綺麗なのに、なんとなく不思議な感じがする。
「な、なんでしょうか?」
フォークを握りしめたまま、なんとなく背筋を伸ばして僕は聞き返した。
「七月様は【レア・アルファ】ですね」
「ぇ……ええっ!」
僕はフォークに刺していた苺を落とした。
____________________
次回は21時の予定です。
塾がない今日は僕とアカリちゃんは百合ちゃんに呼ばれて、"natsume"本社から車で10分ほど移動した先の高級ホテルに来た。
出迎えを受けた僕たちは、最上階のエグゼクティブスイートに案内された。
僕たちの前にはこのホテルの経営者の弥生社長と、その秘書の望月さんという人だけだった。
お茶を味を楽しむ百合ちゃんとケーキを楽しむアカリちゃんの隣で、僕は何が起きているのかわからずカチンコチンでソファに座った。
「あ、あの……今日って……?」
「えっ、アカリ、ヒロくんに説明してないの?」
「ふへっ?……あ、わふれてた……」
呑気にケーキを頬張るアカリちゃんに、僕と百合ちゃんはため息を吐く。
「今日は"natsume''のウェディングの提携と、ボクとヒロの結婚式の打ち合わせだよ」
「ええっ!」
聞いてない。
というか、結婚式って?
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
アカリちゃんとの結婚式の話は冗談だったけど、natsumeと弥生グループのウェディング事業の提携は本当だった。
僕とアカリちゃんが番になった頃から、百合ちゃんはウェディングドレスのデザインを描き始めていたそうだ。
ホテル業界ではトップを走る弥生グループはホテルウェディングでもトップだ。
今日は結婚式や披露宴での衣装レンタルのドレスをnatsumeがプロデュースする打ち合わせのための席らしい。
「でも、なんで僕たちも?」
「そ・れ・は、ボクたちがそのプロモーションのモデルをするからなんだよー!」
「ええーっ!」
「もうアカリったら、何も話してなかったのね…」
楽しそうに話すアカリちゃんと、驚きすぎてもう言葉が出ずパクパクする僕に、百合ちゃんは呆れ顔だ。
そんなアカリちゃんは口の端についたクリームをペロリと舐めて「テヘッ」と笑った。
か、可愛い……。
「改めて、ヒロくんとアカリにはプロモーションのモデルをお願いしたいの。元々、2人のために考えていた衣装だから」
「で、でも、アカリちゃん、男の子……」
「えー、ボク、タキシードもドレスも着るよー。おっぱいないから胸ボーンしてるドレスは着れないけど」
「その辺は抜かりないわよ。可愛いドレス作ってるから」
「やったー!」
僕をほっぽいてアカリちゃんと百合ちゃんは楽しそうに喋っていた。
そんな様子に「ははは、いいねぇ」と社長さんは笑っていた。
「うちにも3人息子がいてね。末の子はオメガだから、この機会にnatsumeさんの衣装を着せたかったんだけど、上の2人に猛反対されてね……」
「社長、お二人が反対しなかったとしても真琴様は受けませんよ」
「だよねぇ……」
社長の側で無表情で言葉を発する秘書の望月さんは、何か不思議な空気を纏っていた。
「アカリは化粧しても同じ学校の子にはすぐバレちゃうかもしれないけど、ヒロくんは前髪上げて眼鏡も取っちゃうから、たぶん気付かれないわ」
「でも……」
「大丈夫よ。貴美ちゃんと透くんの許可も取ってるから。超、かっこいい衣装、用意してるから、ね!」
親指を立ててウィンクする百合ちゃん。
それでも戸惑う僕の手をアカリちゃんが取った。
「モデルでも、ボクの隣に立つ人はヒロだけだよ。ヒロの隣に立つのもボクだけだから…ね」
「……うん」
なんだかんだで、2人に丸め込まれてしまった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「ひとつお聞きしてよろしいでしょうか?」
話が纏まった後、ずっと社長さんの後ろに控えていた望月さんが口を開いた。
僕を真っ直ぐ射抜くその瞳は黒曜石のように澄んでいて、綺麗なのに、なんとなく不思議な感じがする。
「な、なんでしょうか?」
フォークを握りしめたまま、なんとなく背筋を伸ばして僕は聞き返した。
「七月様は【レア・アルファ】ですね」
「ぇ……ええっ!」
僕はフォークに刺していた苺を落とした。
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次回は21時の予定です。
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