foundling

むー

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7.

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あれから1年半と少し。

この生活にもだいぶ慣れた。
お世話になっている老夫婦は、僕を孫のように優しくしてくれた。


創士様の家を出た僕は持ち合わせたお金で行けるとこまで北に向かった。

東北の農村地区にたどり着いた僕はそこで行き倒れて、今お世話になっている老夫婦に助けられた。

病院に行くことを拒んだ僕を、老夫婦は何も聞かずに看病してくれ、住むところとご飯を与えてくれた。

僕がたどり着いたこの土地の人たちは、僕が何者でも構わず一員として受け入れてくれた。

だから僕は、その恩に報いるためにできる限りお手伝いをした。

❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

1ヶ月ほど前に今年の米の収穫も終わり、少しずつ冬が近づいてきた。

「柊、晩ご飯何が食べたい?」
「あの、なーー」
「何でもいい、は一番難しいって言ったでしょ。もう。ふふっ」
「あ、ごめんなさい」

俯く僕に、お祖母さんは優しく笑わった。
お祖父さんもお祖母さんも、僕の過去について聞かないし、出て行けとも言わない。
そんな優しさについ甘えてしまう。
でも、もうそろそろ出て行かないと。
お手伝いの度に『お駄賃』として貰ったお金がだいぶ貯まった。

このお金でもう少し北を目指そう。

そこで住み込みで働けるところを探そう。

「あの、お祖母さん。僕、茶碗蒸しが食べたいです」
「じゃあ、明日の晩ご飯に作るわね。柊、手伝ってくれる?」
「はいっ」

もっともっと、遠くへ行こう……。
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