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その日、今年の初雪が降った。
「な、なんで……?」
「柊、探してた。ずっとずっとーー」
「そう…し、様…」
「やっと見つけた。……私の柊」
僕の体は創士様の腕の中にすっぽりと収まった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「創士さんがね……ずっと柊を探していたそうよ」
「………」
「柊を傷付けてしまって、逃げられてしまったんですって」
「えっ……」
茶碗蒸しを作りながらお祖母さんが教えてくれた。
僕は団扇を仰いで出汁を冷ましながら聞いた。
僕が手伝いで外出している間、創士様は何度も家に来て、お祖父さんとお祖母さんや周りの住人を説得したと。
「『柊が居ない人生は考えられない。柊に捨てられてしまったら俺の生きている意味がない』ですって、ちょっと大袈裟よねぇ」
「僕に捨てられる……?」
「そう、あんな大きな形で良いものを纏った人が捨てられるって、可笑しいわね。ふふっ」
捨てられたのは僕じゃないの?
何故、僕が創士様を捨てるの?
「柊、あとは蒸すだけだから、もういいわよ」
「えっ……」
「ほら、創士さんと話してこい」
その声に振り返るとお祖父さんが僕の頭に手を乗せて撫でてくれた。
僕は立ち上がって、創士様の元に走った。
「ここは良いところだな」
「創士様……」
「そんな格好で外に出たら風邪を引いてしまうよ」
創士様は着ているコートを脱いで僕の肩に掛けた。
「それでは創士様が風邪を引いてしまいます」
「大丈夫だよ。柊と話す間くらい平気だよ」
創士様は僕の手を引いて川辺に降りた。
「柊を買ったのはほんの気紛れだったんだ。自分は働きもせず、幼い柊の体を売るあの男に腹が立ったんだ。だから、1億で買った……ただそれだけだった」
「………」
「でも柊の成長を見守っているうちに、もう一つの感情が生まれた。抱いてはいけない想いが……」
「創士、様……」
「だから、柊の大学進学を機に家から出そうとした。……なのに、まさかこんな遠くまで出て行かれるとは……ははっ、やられたよ」
僕の指を転がすように弄りながら創士様は小さく笑った。
「僕は……僕は創士様に捨てられたのではないのですか?」
「捨てる?……そんなことをするわけがない。何故、そんな風に思ったんだい?」
「だって、生まれてから創士様に引き取られるまで僕は3度捨てられた。それにこの体は汚れてる。だから……」
思わず俯く僕の顔を創士様は覗き込む。
「だから?」
「もう、煩わしくなったんだと思いました」
「そっ、そんなわけないだろう!」
耳元で大声で言われて肩がビクッと跳ねた。
「あ、ごめん」
「い、いえ…」
足元を向いた視界がジワジワと歪んでいく。
嗚咽が零れないよう息を吐いて声を出す。
「だから、あの時、最後に創士様に抱かれたいと望みました」
「……そうか」
「はい……」
僕の手を握る創士様の冷たくなった手がギュッと力が入った。
もう一方の手も握られた。
「なあ、柊。俺たちは一番大事なことを伝え合ってなかったんだな」
「一番大事な、こと……?」
「そうだ、一番大事なこと」
僕の額に創士様の額が重なる。
「俺は柊を愛している。一生俺の傍にいて欲しい」
「ぇ……」
「柊は?俺のことどう思ってる?」
頭を動かせず視線だけを上げると、創士様と目が合い、ふっと笑みが溢れた。
その笑みが、堰き止めていた僕の気持ちを決壊させた。
「ぼ、僕も、創士様を愛しております。ずっと……ずっと貴方のお傍においてください」
「その言葉が聞きたかった」
僕の手を離した創士様の手は僕の背中に回り、僕の体をキツく抱きしめた。
「な、なんで……?」
「柊、探してた。ずっとずっとーー」
「そう…し、様…」
「やっと見つけた。……私の柊」
僕の体は創士様の腕の中にすっぽりと収まった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「創士さんがね……ずっと柊を探していたそうよ」
「………」
「柊を傷付けてしまって、逃げられてしまったんですって」
「えっ……」
茶碗蒸しを作りながらお祖母さんが教えてくれた。
僕は団扇を仰いで出汁を冷ましながら聞いた。
僕が手伝いで外出している間、創士様は何度も家に来て、お祖父さんとお祖母さんや周りの住人を説得したと。
「『柊が居ない人生は考えられない。柊に捨てられてしまったら俺の生きている意味がない』ですって、ちょっと大袈裟よねぇ」
「僕に捨てられる……?」
「そう、あんな大きな形で良いものを纏った人が捨てられるって、可笑しいわね。ふふっ」
捨てられたのは僕じゃないの?
何故、僕が創士様を捨てるの?
「柊、あとは蒸すだけだから、もういいわよ」
「えっ……」
「ほら、創士さんと話してこい」
その声に振り返るとお祖父さんが僕の頭に手を乗せて撫でてくれた。
僕は立ち上がって、創士様の元に走った。
「ここは良いところだな」
「創士様……」
「そんな格好で外に出たら風邪を引いてしまうよ」
創士様は着ているコートを脱いで僕の肩に掛けた。
「それでは創士様が風邪を引いてしまいます」
「大丈夫だよ。柊と話す間くらい平気だよ」
創士様は僕の手を引いて川辺に降りた。
「柊を買ったのはほんの気紛れだったんだ。自分は働きもせず、幼い柊の体を売るあの男に腹が立ったんだ。だから、1億で買った……ただそれだけだった」
「………」
「でも柊の成長を見守っているうちに、もう一つの感情が生まれた。抱いてはいけない想いが……」
「創士、様……」
「だから、柊の大学進学を機に家から出そうとした。……なのに、まさかこんな遠くまで出て行かれるとは……ははっ、やられたよ」
僕の指を転がすように弄りながら創士様は小さく笑った。
「僕は……僕は創士様に捨てられたのではないのですか?」
「捨てる?……そんなことをするわけがない。何故、そんな風に思ったんだい?」
「だって、生まれてから創士様に引き取られるまで僕は3度捨てられた。それにこの体は汚れてる。だから……」
思わず俯く僕の顔を創士様は覗き込む。
「だから?」
「もう、煩わしくなったんだと思いました」
「そっ、そんなわけないだろう!」
耳元で大声で言われて肩がビクッと跳ねた。
「あ、ごめん」
「い、いえ…」
足元を向いた視界がジワジワと歪んでいく。
嗚咽が零れないよう息を吐いて声を出す。
「だから、あの時、最後に創士様に抱かれたいと望みました」
「……そうか」
「はい……」
僕の手を握る創士様の冷たくなった手がギュッと力が入った。
もう一方の手も握られた。
「なあ、柊。俺たちは一番大事なことを伝え合ってなかったんだな」
「一番大事な、こと……?」
「そうだ、一番大事なこと」
僕の額に創士様の額が重なる。
「俺は柊を愛している。一生俺の傍にいて欲しい」
「ぇ……」
「柊は?俺のことどう思ってる?」
頭を動かせず視線だけを上げると、創士様と目が合い、ふっと笑みが溢れた。
その笑みが、堰き止めていた僕の気持ちを決壊させた。
「ぼ、僕も、創士様を愛しております。ずっと……ずっと貴方のお傍においてください」
「その言葉が聞きたかった」
僕の手を離した創士様の手は僕の背中に回り、僕の体をキツく抱きしめた。
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