姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

文字の大きさ
24 / 42

第二十四話 鳥

しおりを挟む
 ようやく陽が登り始めた頃、船体後方部が開き、カリーナ達が帰ってきた。カリーナの声の抑揚とその足取りの軽さから、何か良い出来事があったのだとすぐに分かった。

「みんなー!良い知らせを持ってきたわよ」
 カリーナは大きな声で元気よくみんなに話しかける。

「はぁあ……待ちくたびれたぜ」
 ブルーは大きく背伸びをすると、そのまま大きなあくびをした。

「何だか、みんな疲れてそうね」

「朝方とはいえ、まだ陽が昇っていないからな。夜みたいなもんだ。良い子はまだ、ねんねの時間よ」

「そう、それなら良かったわ」

 カリーナはみんなを集合させると、王都であった出来事を居残り組に説明した。

「兵長が作った反乱軍か……」
 ブレイブはカリーナの説明を咀嚼する。

「というわけで、明日、私たちは反乱軍と一緒に王国を奪還するわよ」

「作戦は?」

「まず反乱軍が王都を攻めて、正規兵達の足止めを行ってもらう手筈になっているわ。私たちはその隙に王城に乗り込んで、敵を倒して王様と女王様を奪還!簡単でしょ?」

「確かにそれは簡単だ」
 朝食のパンを齧りながらブルーが答える。

「反乱軍に正規兵を抑えられるだけの人数がいるんだな」

「兵長の声かけのおかげで、元正規兵だった人達を大勢集める目処がたったからね」

「まだこの国を諦めていない奴が多いってわけか」
 ブレイブは手に握る蛇の胸章を指でなぞった。

「そうだ!カルも誘いましょう!味方は一人でも多い方がいいわ」
 カリーナの一言に空気が重くなる。

「何よ、急に黙っちゃって」

「ほらよ」
 ブレイブは蛇の胸章をカリーナに投げる。

「これは?」

「カルが死に際に掴んだ敵の正体だ」

「死に際って何よ……」

「カルは死んだ」

「死んだ!?」
 前のめりになったカリーナを静めながら、ブレイブがことの経緯を説明する。
 説明中、カリーナは怒りと悲しみで表情が定まっていなかった。

「その蛇の胸章が、敵の手掛かりだ……というより正体だな」
 ブレイブは一呼吸おくと見解を述べた。

「カリーナが説明してくれたクラリオって貴族と赤蛇をシンボルとした盗賊団、彼らが手を組んだってことだ……敵が明確になれば戦いやすくはなるか」

「ところでよ、カリーナ。明日は思い切り暴れていいんだろ?怒りでやきぐいが止まらなくてな」
 ブルーは、何個目かのパンを口に運ぶ。
 
「もちろん!思う存分暴れて結構よ!」
 カリーナは両頬をパチンと叩くと気合を入れる。

「ワクワクしてきたぜ」

「そうだ、ブルー」

「何だ?ブレイブ」

「やき食いじゃなくてやけ食い、な」

 ◆◇◆◇
 
 反乱軍の地下基地の一室で、レオンハートは項垂れていた。

「たった一日の間に、このようなことになるとは……」

 この日は、各地に散らばっていた元正規兵達が集う日であった。しかし、待ち合わせ場所に指定した丘に集まった同志の人数は、想定よりもずっと少なかったのである。

 先ほど届いた伝令によるところ、クラリオの手により元正規兵が住む村々は焼かれてしまったらしく、その生き残り、もしくは偶々その存在がバレていなかった元正規兵達しか集結することが叶わなかったのだ。
 作戦の決行日が明日に迫る中、起こった突然の出来事にレオンハートは苦悩していた。

 (先手を打たれたか)

 レオンハートは、ウロウロと部屋を右往左往している。
 このような事態を受けて、部下の一人がレオンハートに打診する。

「兵長!作戦決行日をズラした方が良いのでは?」

 最もな考えであったが、それをできない理由があった。

「奴らは、俺たちの存在を知った上でこのようなことを起こしたのだ。先手を取られていることは、この反乱軍の中に奴らの手に落ちた者がいても不思議ではない。決行日をズラせば、俺たちのスキになりかねない」

 (ここが攻められていないということは、こちらの全てを敵が掴んでいるわけではないということだが、この場所がバレるのも恐らく時間の問題だろう。残された時間は少ない)

「作戦決行日の変更はなしだ。明日、俺たちはこの国の日の出を見にいく」

 ◆◇◆◇

 王城の最上階に、クラリオとグルードの姿があった。

「反乱軍の存在を突き止めた優秀な私の部下達が、反乱分子になり得る元正規兵が住む村々を焼き尽くしましたよ」

「兵長は?」
 グルードのひと睨みにクラリオは表情を崩さずに答える。

「居場所は特定していますよ。しかしあえて泳がせているだけです」

「すぐに殺せ」

「まぁまぁ落ち着いて下さい。反乱軍は明日、この国を取り戻そうと、向こう側からノコノコとやってきますから」

「そうなる前に倒せばいいだろ」

「はぁ。相変わらず……つまらない男ですね。手に入れた新兵器、あれを使って民衆の前で兵長を血祭りにあげるのですよ。彼らの希望が目の前で無惨に打ち砕かれる……それにより国民の支配はよりしやすくなるでしょうから」

「なるほど、それなら結構だ」

「私も無策じゃないですよ。万が一、反乱軍が隣国に助けを乞いていた場合も想定しております。隣国の増援に備え、すでに貴方がた『赤蛇』を各地から呼び寄せていますよ。長期戦になっても万全です」
 俺に断れも入れず勝手に部下に指示を飛ばしやがってとグルードは一瞬思ったが、計算づくされたクラリオの策略とその不気味な表情に押し黙ったのだった。

「さぁ貴方たちの希望が打ち砕かれた時の表情が待ち遠しい!さぞ美しいことでしょう」
 クラリオは大声で宣言をし振り返る。
 手足と口を縛られ、牢に閉じ込められたこの国の王と王妃の歪んだ顔を見て口角を上げた。

 ◆◇◆◇
 
 『スターダッシュ号』の船内が寝静まった頃、プシューッという音を立て、後方のハッチが開く。アリスは一人、船外へと出ていった。

「ん……アリス?」
 機械音で目が覚めたカリーナは、寝ぼけた目をこすりながら、アリスが船外へ出ていくのを見つける。

 心配になったカリーナは、アリスの後を追って外へ出ていった。

 外に出ると、ホーホーと鳴く夜の鳥の鳴き声と微かな風音が耳に聞こえてくる。月明かりに照らされた船体近くの丸太にアリスは座っていた。
 夜空を見上げて、物思いにふけるアリスを見つけたカリーナは、ゆっくりとアリスに近づいた。

「どうしたの?眠れない?」

 アリスは、突然の人の声にビクッと体が小さく跳ねたが、カリーナの顔を見てホッと胸を撫で下ろした。

「びっくりしました。カリーナ様」

「ごめんね」
 そう言うとカリーナはアリスの隣に腰を下ろした。

「わたくし……戦いが怖くて……もし負けてしまったらと考えてしまって……とてもとても不安なのです」
 そう言って、ぎゅっと手に力を込めるアリスの小さな握り拳を、カリーナはそっと手で包む。

「そうね……私だって戦うのは勇気がいる。でも、戦って取り戻さないといけないなら戦うしかないの。そうなった時に、負ける心配をするんじゃなくて、どうやったら勝てるかを考える」
 カリーナはアリスの顔をじっと見つめる。

「どうやったら勝てるか……」

「後ろじゃなくて前を見ろ、負けじゃなくて勝ちを考えろ」

「カリーナ様って賢い言葉をお知りなのですね」

「これはね、ギャンブルで負けて落ち込んだ時にブレイブから教わったの」

「まぁブレイブ様が」

 カリーナは、そっとアリスを抱き寄せる。

「アリスは強い!本当に本当に強い!」
 カリーナはアリスの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「わたくし、みんなみたいに強くないです。全く戦えないですから」

「武力だけがその人の強さじゃないのよ、知力も心も立派なその人の強さよ」

「アリスが行動したから、今私たちは一緒にいる。心配しないで、貴女は強いから」

 カリーナはポンとアリスの胸を叩いた。

 ◆◇◆◇

 アリスとカリーナが外に出ていった頃、目を覚ましたブレイブはじっと考え事をしていた。
 
 やがて自分の中で答えが出ると目を開け、誰かに向けて手紙を書き、その手紙を小さな筒の中に入れた。

 ブレイブは船体後方の小窓を開けると、窓の縁に筒を置いた。しばらくすると、一羽の白い鳥がその筒を取りに来て、そして空高く飛び去っていった。

「誰に書いたんだ?ブレイブ」
 ブレイブの行動をずっと見ていたサラマンダーが尋ねる。

「腐れ縁だよ」
 ブレイブは鼻でフッと笑うと、操縦席に戻り、目を閉じた。

 ◆◇◆◇
 
「……鳥が空に」

 月明かりに照らされた白い鳥が空高く飛び立っていくのをアリスは指で追う。

「風邪ひくといけないし、そろそろ戻りましょうか」
 カリーナはアリスの手を引いて、一緒に船内へと戻っていった。
 
 
 
 

 

 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一
ファンタジー
高校生3年F組28人が全員、召喚魔法に捕まった! 放り出されたのは闘技場。武器は一人に一つだけ与えられた特殊スキルがあるのみ!何万人もの観衆が見つめる中、召喚した魔法使いにざまぁし、王都から大脱出! 3年F組は一年から同じメンバーで結束力は固い。中心は陰で「キングとプリンス」と呼ばれる二人の男子と、家業のスーパーを経営する計算高きJK姫野美姫。 逃げた深い森の中で見つけたエルフの廃墟。そこには太古の樹「菩提樹の精霊」が今にも枯れ果てそうになっていた。追いかけてくる魔法使いを退け、のんびりスローライフをするつもりが古代ローマを滅ぼした疫病「天然痘」が異世界でも流行りだした! 原住民「森の民」とともに立ち上がる28人。圧政の帝国を打ち破ることができるのか? ちょっぴり淡い恋愛と友情で切り開く、異世界冒険サバイバル群像劇、ここに開幕! ※カクヨムにも掲載あり

処理中です...