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2章 Side:雪哉
5話
しおりを挟む昨日から本格的に株式会社SUI-LENでの仕事が始まったが、初日からトラブルが多発した。
通訳として勤務することになった雪哉を含む3人には『通訳室』なる部屋が与えられた。元々は小会議室として使っていた部屋らしく、やや手狭な空間には部屋の半分を使用するほどの大きな円卓が置かれていた。そこにメインとサブの2台のパソコン。それとは別に応接テーブルとソファ。
基本は各部署と連絡を取り合いながら通訳の仕事をメインに行うが、メールや書類の翻訳作業などはこの部屋を使って構わない、とのお達しだ。
その体制自体は別に構わないが、どうして出勤初日は随分前から決定しているのに、当日になってサーバーの接続が上手くいかないとか、社内システムへのアクセスアカウントを取得していないとか、初歩的なミスが起きているのかが全く理解できない。そのぐらい事前に確認しておいてほしい。
サーバーダウンの原因を突き止め、システムチェックを済ませてから改めて各部署へ挨拶にまわる。しかし当然ながら社員は既に活動を開始していて、営業部などはほとんど人がいない状態だった。これでは挨拶の意味がない。
こっそり愛梨の姿を探したが、その姿も発見できなかった。
緊張感と苛立ちで体力を消耗したので、せめて昼食ぐらいゆっくり食べたいと思い社員食堂へ向かうと、今度は初対面の女性社員に囲まれて質問攻めに遭った。仕事をするよりどっと疲れた。
だから2日目からは、コンビニで買ってきたものを与えられた通訳室で食べた方が気楽だと思い、気分転換も兼ねて外に出た。
近くのコンビニを探して視線を巡らせていると、会社のすぐ隣のカフェの窓際に、愛梨が座っているのが見えた。
吃驚した。
本当に会いたくて会いたくて仕方が無かった幼馴染みが、すぐ傍にいる事を急に実感する。昨日挨拶で各部署を巡った時には一切会えなかったので、エレベーターの中で見た愛梨は幻だったのではないかとさえ思っていたから。
どうせ昼食も摂らなければならないし、それならいっそ傍に座って愛梨に話しかけようと思い、カフェの中に入る。
雪哉の入店と同時に、愛梨の向かいに座っていた女性が席を立った。このまま2人が出て行ってしまうかと焦ったが、席を立ったのはその女性だけで、愛梨の目の前にはまだサンドイッチが1つ残されていた。
雪哉もブレンドコーヒーとクロックムッシュを注文すると、さり気なさを装って愛梨のいる席に近寄り、名前を呼ぶ。顔を上げた愛梨は、雪哉の顔を見ると明らかに驚いたように目を見開いた。
「……ユキ…」
「あぁ、やっぱり愛梨だ」
驚きつつも昔と同じように雪哉の名前を呟いた愛梨に、ほっと息を吐く。5年間探し続けた苦労が、たった2文字の呼び名で全て報われた気がした。
「この前名前呼んだのに反応なかったから、間違えたのかと思った」
愛梨と会話出来ていることさえ、内心ではすごく嬉しいと感じる。けれどそれを全面に出して喜べるほど無邪気な年齢ではないので、努めて平静を装う。
「久しぶりだな」
「あ……うん。…久しぶり…」
昔と同じく接しているつもりだったが、愛梨の表情からは小さな動揺を感じる。
もちろん、雪哉もそれなりに動揺はしている。けれど愛梨の姿を見つけ、メニューを注文し、ここに辿り着くまでの間にかなり心の準備をしたので、今の驚きの度合いで言えば、愛梨ほどではないと思う。
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