31 / 95
3章 Side:愛梨
6話
しおりを挟む母が二つ返事で了承したせいで、雪哉を連れて実家を訪ねることが決定してしまった。
乗り継ぎの時に寄った大きな駅の構内を探索して、最近話題になっている洋菓子を手土産に購入する。それから電車に揺られること、およそ30分。
道中、話したいことや聞きたいことは沢山あったが、笑顔の雪哉に『晴れてよかったね』とか『朝は何食べたの?』とかどうでもいい質問をされて、それに答えているうちにあっという間に実家に到着してしまった。
「こんにちは。お久しぶりです」
「あらぁ! 雪哉くん、すっかり男前になっちゃって…!」
玄関先で雪哉に笑顔を向けられ、母が感動したように再会を喜んだ。テレビ番組で取り上げられた最旬スイーツを雪哉の手から受け取ると、母のテンションは更に急上昇する。
「上がって上がって、散らかってるけど~。お昼食べてないのよね?」
大したものじゃないけど用意してあるから、と言いながら母が小躍り気味にリビングに消えて行く。
「ごめん…お母さんうるさくて…」
「ううん。変わってなくて安心した」
2か月ぶりに顔を見せ、しかも来客を伴い、さらにその連絡を数時間前にしたのなら、普通は怒られてもおかしくないと思う。けれど雪哉の成長を目の当たりにした母は、怖いぐらいにご機嫌だ。
妙に浮かれる母と遺伝子が半分同じなのかと思うと途端に恥ずかしさを覚えたが、雪哉はクスクスと笑うだけだった。
「おお、雪哉くん、久しぶりだな」
「ご無沙汰しています。おじさんもお元気そうで何よりです」
リビングから、今度は父が顔を覗かせる。雪哉に挨拶をした後で愛梨に向き直った父に『来るならもっと早く連絡しなさい』と言われてしまう。生返事をする反面、父の方が母の数倍マトモな感性に思えた。
洗面所で手を洗ってリビングに入ると、そのまま揃って食卓に着く。ダイニングテーブルの上に並ぶのは、愛梨と弟の響平が帰ってきたときにはあり得ない程の豪華な昼食だ。運動会の時のように、唐揚げや卵焼きといった定番のおかずや手の込んだ中華総菜が大皿に乗せられている。そしてお寿司……出前まで取ったのだろうか。
ご馳走を用意した方がいいと言ったのは、そうめんや残り物のカレーは止めて欲しいという意味で、オードブルや出前を用意して欲しいという意味ではなかったのに。
けれどテンションの高い母の様子を見て、その説明は引っ込めた。
豪華な昼食を口に運びながら、両親と雪哉の会話に耳を傾ける。内容のほとんどは以前カフェで聞いた事と同じ、雪哉がアメリカに行ってからの事。それから愛梨も知らなかった、日本に戻ってきてから通訳の仕事をするまでの経緯。
「でもびっくりしたわぁ。まさか愛梨と同じ会社なんて」
豪勢な昼食をおおよそ堪能し終わった頃、母が感心したように頷いた。
「俺も驚きました。でも俺は派遣なので、正社員の愛梨とは身分が違いますけど」
「まぁ、謙遜ね。通訳なんてすごいじゃない」
「そうだぞ。愛梨なんて、日本語すら怪しいもんな」
「ちょっと、お父さん?」
雪哉の語学力は確かに素晴らしいが、それで愛梨が見下げられるのは納得がいかない。頬を膨らませると、父にはアハハと笑って誤魔化される。
「雪哉くん、彼女はいないの?」
「ちょ、ちょっと、おかーさん!?」
父に気を取られて油断していた隙を突いて、母が雪哉にとんでもない事を聞いていた。慌てて制止しようとしたが、雪哉が答える方が早かった。
「残念ながら、いないですね」
「あらぁ、こんなモデルさんみたいに格好いいのに、もったいないわねぇ」
母の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。いくら昔馴染みだからと言って、プライベートな事においそれと突っ込んでいくなんて失礼にも程がある。雪哉が母の攻撃を適当にあしらってくれて良かったと思うのも束の間。
「そうだ、雪哉くん。もしこの先ずっと日本にいるなら、愛梨を嫁にもらってやってくれ」
「おとーーさーーん!!?」
母の数倍の問題発言を零した父に、思わず目を見開いてしまう。
なんて事を言い出すの!
変なこと言うのホントにやめて!
「やだ、お父さんったら。別にアメリカに連れて行っちゃってもいいわよ?」
「おかあぁさあぁん!?!?」
父の発言に母が乗っかる。母の発言を咎めようとしたら、ダイニングセットとお揃いの椅子がガタガタッと激しく動いた。
「この子ったら27歳にもなって、未だに彼氏の1人も連れてこないんだから。もうちょっと女の子らしくしてくれないと、いつまで経っても孫の顔なんて見れないわよ」
母が冗談の中に本気の文句を織り交ぜて愛梨を見つめる。だが、孫の顔を見たい母の願望など今はどうでも良い。
愛梨は爆発物処理班ではない。次から次へと危険な発言ばかり投下されても、処理が追い付かない。
もうほんと勘弁して。
泣きそうな気分でそう思った矢先。
「え? だって愛梨…」
爆弾魔が、さらっと1人増員した。
11
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
癒やしの小児科医と秘密の契約
あさの紅茶
恋愛
大好きな佐々木先生がお見合いをするって言うから、ショックすぎて……。
酔った勢いで思わず告白してしまった。
「絶対先生を振り向かせてみせます!」
そう宣言したものの、どうしたらいいかわからずひたすら「好き」と告白する毎日。
「仕事中だよ」
告白するたび、とても冷静に叱られています。
川島心和(25)
小児科の看護師
×
佐々木俊介(30)
小児科医
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる