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3章 Side:愛梨
7話
しおりを挟む(ユキー!? お願いだから余計なこと言わないでー!!)
心の中で絶叫する。不思議そうに両親の顔を見て首を傾げる雪哉の横顔を凝視すると、雪哉がそっとこちらを向いた。
(私、まだ家族に彼氏が出来た事、言ってないの~~~!)
弘翔と付き合って、まだ2か月ほど。しかも初めての彼氏。気恥ずかしさから、こういう恋愛事情を親にどうやって報告していいのかわからず、現状では放置している状態だった。
雪哉には知られてしまったが、まだ親には知られたくない。弟にも。だからお願い、言わないで、と必死に目線で訴える。
けれど雪哉は愛梨の心情を綺麗に読み間違えたらしい。愛梨に微笑みを1つ送ると、両親に向かって子猫のように首を傾げた。
「俺が愛梨を貰っても、いいんですか?」
雪哉がさらりと言い放った問いかけに、ふとリビングの中の時空が捻じ曲がった。
「………………へ?」
先程、恥ずかしいとさえ思った親子の血の繋がりは、こういう時に綺麗にリンクするらしい。同じ平仮名で短いハーモニーを奏でた親子3人に、雪哉が惚れ惚れするような笑顔を作る。
「じゃあ愛梨に相応しい恋人になれるよう、俺も頑張らないと」
「!!??」
にこやかに言い放った雪哉に、思わず驚愕の視線を向ける。だが驚きのあまり、制止も否定も拒絶も出てこない。
「何言ってるんだ。頑張るのは雪哉くんじゃなくて、愛梨の方だぞ」
「そうよ。雪哉くんがいいなら、今すぐにでもお嫁に貰って欲しいぐらいよ」
両親が愛梨よりも早く現実世界に戻ってきた。そしてマトモなのかそうじゃないのか分からない回答を聞いているうちに、愛梨もようやく元の世界に戻ってこれた。両親に向かって、慌てて手を振る。
「いやいや、ちょっと待ってよ。私、ユキと付き合うとか結婚とか有り得な――」
「愛梨」
最後まで言い終わらないうちに、今度は雪哉の声が横から入り込んできた。鋭い声で制止されたので、思わず雪哉の顔を見る。
「顔、赤いよ? 少し休んだら?」
伸びてきた雪哉の人差し指が、するりと愛梨の頬を撫でる。付き合っているわけでも何でもないのに、両親の目の前でいとも簡単に肌に触れられ、思考が再度停止した。
え? と疑問に思う声も、声にならず。
「まあ…本当にかっこよくなっちゃって…」
母の感嘆が正面から聞こえて、ハッと我に返る。顔を見ると、母は雪哉の色を含んだ動作にうっとりと見惚れていた。
「お前も冗談を本気にするな。愛梨なんかが相手じゃ、雪哉くんが可哀そうだろ」
父は父で雪哉を擁護するようなセリフを呟いたが、娘を明確に女性扱いする存在の出現に驚いたように目を見開いてる。
「~~~っ! ユキ、卒業アルバム見るんでしょ!? 私の部屋こっちだから!」
「あ、うん」
自分の味方がいないこの空間にとうとう耐えられなくなり、慌ててダイニングから立ち上がった。母が小さな声で『片付けはやっておくから、そのままでいいわよ』と呟いたので、甘えさせてもらう。
「冗談だから気にしないでね」
「そうだぞ。雪哉くんは、他にもっと素敵な女性を見つけた方がいい」
泣きたい気持ちでリビングを出ようとしたところで、母と父が雪哉にそんな言葉を掛けた。愛梨が『当たり前でしょ!』と声を張り上げると、母も父もからからと笑っていた。
けれどリビングを出て愛梨の後をついてきた雪哉が少し困ったように
「他の女性なんて考えたこともないな」
と呟いた言葉が耳に届いた。
思わず振り返る。だが、雪哉はにこりと笑顔を作るだけで、それ以上は何も言ってくれなかった。
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