約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

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3章 Side:愛梨

8話

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「ごめんね、お父さんもお母さんもテンション高くて…」
「いや、うちも似たような感じだよ」

 大学に入る前まで愛梨が使っていた部屋は、今もそのまま残されている。定期的に母が掃除機をかけてくれている絨毯の上に腰を下ろして謝罪すると、雪哉は先程のやり取りを思い出して笑ってくれた。

 勉強机の1番下の引き出しに入っていた小中高の卒業アルバムを取り出すと、2人で順番に開いていく。

 懐かしい小学校の卒業アルバムには幼い愛梨の姿も雪哉の姿も写っていた。改めて見てみると一緒の写真も多く、昔は本当に仲が良かった事を再認識する。

「全然、知ってる人いないな」
「そりゃそうでしょ。うちが引っ越したの、私が中2の秋だったんだから」

 けれど中学のアルバムからは、雪哉の姿がどこにもない。雪哉は中学1年で渡米し、愛梨もその1年後には別の中学校に転校してしまった。だから当然、中学のアルバムにも、高校のアルバムにも、雪哉の知っている人物は愛梨以外には写っていない。分かりきった事ではあったが、雪哉の横顔は少し寂しそうだ。

「あ、この写真、愛梨だ。あとこれも。すごい分かりやすい」

 けれど寂しそうな表情はすぐに消え、雪哉はページを捲るたびに愛梨の姿を楽しそうに探している。中学の時も高校の時も、愛梨と同じぐらいに髪が短かった女子生徒はほとんどおらず、こうして探すと簡単に見つかってしまう。

「愛梨はずっとこの髪型だったんだ?」

 不意に雪哉に問われ、心臓がドキリと跳ねる。突然喉元の急所に触れられた気がして、だんだんと声が小さくなった。

「う、うん…。まぁ…バレーやってたし」
「今もバレーやってるの? 社会人チームとか?」
「今はやってないよ」

 雪哉は愛梨がずっとショートヘアである理由を知らない。この髪形でいれば、雪哉が自分を見つけてくれるかもしれないとつい最近まで淡い期待を寄せていてた事は、知らない筈だ。

 知って欲しいとは思っていない。
 いや、むしろ今更知られたくない。

 何か別の話題を、と脳内をぐるりと周回する。だが動揺している所為で適切な話題が見つからない。頑張っても、思い出せるのはせいぜい先程の会話ぐらいだ。

「そ、そういえばユキ、恋人いないんだ…?」

 話題が見つからないので、軽いテイストで聞いたつもりだった。振り向いた雪哉に、じっと瞳を見つめられ、会話の選択をミスしたことに気付く。散々母に『プライベートに踏み込むようなことを聞かないで』と思っていた自分が、あっさり同じことを聞いてしまう遺伝子の濃さが怖い。

「いないよ」

 内心『失礼なことを聞いてごめんなさい』と思っていると、雪哉がポツリと呟いた。恋人がいるかどうかなど聞かれたくも言いたくもないだろうに、愛梨の質問にちゃんと答えてくれた。

 そして先程と同じ回答を聞くと、改めて意外に感じる。この見た目ならどんな女性も選び放題だろうなぁ、と思うのに。

「むしろ愛梨に彼氏がいる事に吃驚した」

 母のテンションを上げるほどの美男子に成長した顔を眺めていると、意外にも雪哉の方が話を掘り下げてきた。玲子や弘翔のように、雪哉まで自分を揶揄うつもりなのかと思うと自然に表情が崩れる。

「えー、私だって相変わらずサルっぽいけど、ちゃんと女の子なんだよー?」
「いや、そういう意味じゃなくて」

 けれど雪哉は、少し呆れたように溜息をつくだけ。揶揄われたと思ったから応じたのに、雪哉の眼差しは真剣そのものだった。そしてその眼差しで、再び瞳を覗き込まれる。

「なんで恋人いるの?」
「え、なんでって…? だってもう私、27歳だよ?」
「知ってる。俺も同じ年齢だよ」
「そうでしょ。27歳、恋人いても変な年齢じゃないでしょ」

 最近まで恋人などいた事もなかったが、さぞ経験豊富であろう雪哉に、自分の恋愛経験の浅さを晒したくないという変なプライドが見え隠れした。咄嗟に年齢を隠れ蓑にしてやり過ごそうと思ったが、雪哉は余計に怪訝な顔をするばかり。

「……なんか噛み合わないな。俺、もしかして日本語の使い方忘れてる?」

 微妙な顔のまま、雪哉が静かに首を傾げた。そして疑問の表情を消した雪哉が、見ていた高校のアルバムをパタンと閉じる。

「あのさ、愛梨。回りくどいの嫌だから単刀直入に言うけど」

 卒業アルバムを少し離れたところへぐっと押し退けた雪哉は、背もたれにしていたベッドに肘をつき、身体の正面を愛梨の方向へ向けてきた。並んで座っていたのに、急に雪哉との距離が縮まる。

「愛梨は、俺と結婚する約束したよね?」
「……!?」

 至近距離で雪哉に見つめられ、退路がないこんな状況で、突然投下された本日最大級の爆発物が目の前で弾ける。雪哉の問いかけに声が詰まり、喉の奥からは空気が細く漏れて出た。

 それと同時に、身体から思考が無理矢理引き剥がされたような胸の痛みを感じる。あるいは脳に冷水を浴びせらたような。

(覚えて、たんだ…)

 雪哉はとうの昔に忘れてしまったのだと思っていた。何せあれから15年もの時が流れている。

 愛梨は忘れた。忘れるよう努力した。
 忘れようと心に誓って、綺麗な装飾が施された小箱に『約束』を押し込んで、無理矢理鍵をかけた。いつか笑い話に出来るようになるまで、開かなくてもいいように。

 それと引き換えに弘翔の手を取った。だから雪哉が覚えていても、忘れていなくても、今更どうすることもできない。愛梨には、知らないふりをすることしか出来ない。

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