約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

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5章 Side:愛梨

3話

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「ダメです」

 見つめ合うと少し熱が籠ったように訊ねられた。だが、きっぱりと即答する。

 良いわけがない。雪哉は恋人ではない。恋人以外とキスはしないし、する理由もない。その全ての意味を内包した『ダメです』だったのに、雪哉には『どうして?』と首を傾げられてしまった。

 どうしても、こうしても、ない。良い理由が0個に対して、ダメな理由が100個あるからだ。

「離れて、ユキ」

 転ばないように助けてくれたことは有難いが、そのお礼なら別の形で還元させて欲しい。とりあえず雪哉の要求を飲むことは出来ないと意思表示すると、ムッとした声で訊ねられる。

「彼氏とはキスしてるのに?」
「な、何言って…!」

 突然恥ずかしい確認をされて、思わず視線を逸らす。挙動不審になってしまった様子をじっと見つめられ、顔に火が付いたように熱が広がっていく気がした。

(それは、す、するでしょ……彼氏だもん)

 別に赤面症な訳ではないが、雪哉がいつも意味不明な事を言うので、つい顔に出てしまう。

 弘翔といてこんなに恥ずかしい気持ちになることはない。弘翔は揶揄うことはあるが、愛梨が困るようなことを聞いたりはしないから。

「彼氏とどこまでした?」
「そ、そんなの言わないよ」

 詰め寄る言葉は、更に剣呑さが増している。『ダメです』とちゃんと言ったのに、雪哉の長い指はいつの間にか愛梨の顎先に触れていた。

「それは、恋人同士の秘密でしょ」

 その手を退けて欲しくて咄嗟に振り払おうとするが、意外にも雪哉の腕は力強い。

 どこまで、なんて問われても言うはずがない。キスと同じ、恋人でもなんでもない雪哉に、全てを教える必要なんてないから。

「そういうのは他人に話す事じゃないから」
「……流石に、腹が立つな」

 早く納得して、早く気が済んで、と思っていたのに。耳に響いた声はまたしても低く不機嫌なものに変貌している。しかも今度は台詞まで、不機嫌というより怒りそのもの。

 敬語だったわけでも、名字で呼んだわけでもない。邪険にしたのは申し訳ないが、そこまで赤裸々に語る必要性も感じない。別に怒らなくても。

 そう思ったところまでだった。
 まともに思考が働いていられたのは。

「もう我慢出来ない。――愛梨に他人扱いされるのも、俺が眼中にないのも」
「ユキ…? ……ん、っ…!?」

 くい、と顎を持ち上げられ、強引に目線を合わせられた。眼前に整った雪哉の顔が迫り、驚いたのはその一瞬あと。抗議の声を上げようと僅かに開いた口は、近付いた雪哉の唇に無理矢理塞がれた。

「っ……!!」

 唇が重なった一瞬の後、距離が更に近付いて、下唇を噛まれた。さほど力は込められておらず、痛みは感じない。けれど触れ合った唇の柔らかさが、確かにキスをされているのだと教えてくれた。

 驚いて目を見開くと、薄く開けられていた黒い瞳とゼロ距離のまま視線が絡んだ。

「っふ、…」
「愛梨」

 目が合うと雪哉の唇が離れていったので、一度絶たれた思考を何とか再接続しようとした。けれど耳の奥に名を呼ぶ声が届いた直後、再び唇を重ねられてしまい結局修復は間に合わない。

「っん、ッ…」

 呼吸が出来ない事に焦って口を開くと、そこから雪哉の舌が侵入してきた。普段感じることのない温度に、びくっと身体が跳ねる。

 驚きでそのまま身体が硬直しても、侵攻は止まらない。最初に触れた唇は柔らかかったが、侵入してきた舌は暴力的ですらあった。熱い舌を絡められ、触れていない場所を全て埋めるように攻められ、徐々に身体の力が抜けていく。

 手にしていた資料が、ヒラリと舞い落ちた。数枚の紙が別の所に散らばって零れた気がしたが、どこに落ちたのかまで確認している心の余裕などない。

「ん、…っんぅ」

 舌の侵入に抵抗するため首を動かそうとしたが、顎に添えられていた雪哉の指先に強引に顔の角度を変えられ、更に深く口付けられる。くちゅ、と唾液が絡む水の音がして、そのまま舌を食べられてしまうのではないかと焦った。

 顎の下の指先が首筋を辿り、下へゆっくりと降りていく。ブラウスの上から鎖骨を撫でられると、もう1度身体がびくりと反応し、その直後に上半身にだけ力が戻って来た。

「っや! ……ユキ! やだっ!」

 力が戻った腕を動かし、雪哉と自分の身体の間に腕を織り込むと、その勢いのまま腕を伸ばして身体を引き離す。無理矢理引き離された雪哉はキスの余韻を残した細い目で、愛梨をじっと見つめてきた。

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