87 / 95
最終章 Side:愛梨
24話
しおりを挟む
『おはよう、愛梨。今日なんか予定ある?』
朝早くに雪哉から入ったメッセージを、寝ぼけ眼で確認する。
仕事で昨日までの3日間福岡に行ってくると聞いていたから、てっきり今日はまだ疲れて寝ていると思った。なのに雪哉は、愛梨より早く起きているらしい。
ぼんやりする頭で予定はないと返答すると
『じゃあ出掛けよう。迎えに行くから』
と、すぐに返事が返って来た。眠たい頭で雪哉と会う時間を決めて、もぞもぞと身支度を開始する。元気な彼氏と異なり、愛梨は休日は昼まで眠っていたい派だ。
雪哉は愛梨と離れて15年の歳月を過ごすうちに、嘘をつくのが本当に上手になったようだ。
愛梨が雪哉と恋人になったあの日、副社長に呼び出されて事情を説明したので、週明けにはゴシップのネタにされるかもしれないと言われていた。だから愛梨は相当びくびくしながら出社したと言うのに、実際は誰かに問い詰められる事はなかった。
どういう事かと雪哉に聞くと、週明けには会社中の人が知ってる『かもしれない』とは言ったけど、絶対そうなるなんて言ってない、と悪気もなく笑われた。
といいつつ副社長に呼び出された所までは本当の話らしく、社内でたまたま遭遇したまだ若い副社長に『あ、もしかして君が雪哉くんの彼女? 大変だねえ、頑張ってねえ』とニコニコ笑われてしまった。
何が本当で何が嘘なのかわからなくなり、怒りのまま雪哉を殴ってやりたい気持ちになったが、雪哉を殴って玲子と友理香と崎本課長に恨まれるのは怖かった。仕方がないので、頭の中で雪哉を思い切り踏みつけるだけで愛梨のささやかな復讐は幕を閉じた。
弘翔にことの経緯と現在の状況を報告すると、弘翔は『よかったじゃん』『愛梨が幸せなら、俺はそれが1番だから』と笑ってくれて、少し胸が切なくなった。弘翔はやっぱり弘翔で、愛梨が安心できる存在である事はこれからもきっと変わらない。
弘翔のそんな笑顔にぼんやり見惚れていると、たまたま通りかかった雪哉に腕を掴まれ、そのまま通訳室に引きずって行かれた。
中学1年生の頃から、雪哉に対する周りの評価は『クール』『大人っぽい』といった声が多いが、実際はぜんぜんそんなことはない。雪哉はかなり嫉妬深くて、友理香や浩一郎がいないと通訳室に連れ込まれて説教をされることがあるので、油断がならない。付き合い出してからずっとこんな調子で、愛梨と雪哉の関係が社内で噂にならないのが逆に不思議なぐらいだ。
もしかして派遣の通訳は暇なのかな?と思ったが、実際は本当に暇らしい。というより、暇に『なってきた』ようだ。
プロジェクトの概要をインプットし、関連する既存資料の翻訳作業をおおよそ終え、ビジネス語学講座の運用が軌道に乗ると、クライアント先に毎日出社する必要はなくなる。外出や出張、大きな商談などで通訳を必要とする場合は来社するが、それ以外は雪哉も週に数回の勤務に変更になるため、社内で会う事が滅多になくなると聞かされた。
また嘘ついてるんじゃないのかなぁと疑心暗鬼になっていたところで、雪哉はやっぱり愛梨に嘘をついた。いや、今回は嘘というより、騙し討ちだった。
朝早くに雪哉から入ったメッセージを、寝ぼけ眼で確認する。
仕事で昨日までの3日間福岡に行ってくると聞いていたから、てっきり今日はまだ疲れて寝ていると思った。なのに雪哉は、愛梨より早く起きているらしい。
ぼんやりする頭で予定はないと返答すると
『じゃあ出掛けよう。迎えに行くから』
と、すぐに返事が返って来た。眠たい頭で雪哉と会う時間を決めて、もぞもぞと身支度を開始する。元気な彼氏と異なり、愛梨は休日は昼まで眠っていたい派だ。
雪哉は愛梨と離れて15年の歳月を過ごすうちに、嘘をつくのが本当に上手になったようだ。
愛梨が雪哉と恋人になったあの日、副社長に呼び出されて事情を説明したので、週明けにはゴシップのネタにされるかもしれないと言われていた。だから愛梨は相当びくびくしながら出社したと言うのに、実際は誰かに問い詰められる事はなかった。
どういう事かと雪哉に聞くと、週明けには会社中の人が知ってる『かもしれない』とは言ったけど、絶対そうなるなんて言ってない、と悪気もなく笑われた。
といいつつ副社長に呼び出された所までは本当の話らしく、社内でたまたま遭遇したまだ若い副社長に『あ、もしかして君が雪哉くんの彼女? 大変だねえ、頑張ってねえ』とニコニコ笑われてしまった。
何が本当で何が嘘なのかわからなくなり、怒りのまま雪哉を殴ってやりたい気持ちになったが、雪哉を殴って玲子と友理香と崎本課長に恨まれるのは怖かった。仕方がないので、頭の中で雪哉を思い切り踏みつけるだけで愛梨のささやかな復讐は幕を閉じた。
弘翔にことの経緯と現在の状況を報告すると、弘翔は『よかったじゃん』『愛梨が幸せなら、俺はそれが1番だから』と笑ってくれて、少し胸が切なくなった。弘翔はやっぱり弘翔で、愛梨が安心できる存在である事はこれからもきっと変わらない。
弘翔のそんな笑顔にぼんやり見惚れていると、たまたま通りかかった雪哉に腕を掴まれ、そのまま通訳室に引きずって行かれた。
中学1年生の頃から、雪哉に対する周りの評価は『クール』『大人っぽい』といった声が多いが、実際はぜんぜんそんなことはない。雪哉はかなり嫉妬深くて、友理香や浩一郎がいないと通訳室に連れ込まれて説教をされることがあるので、油断がならない。付き合い出してからずっとこんな調子で、愛梨と雪哉の関係が社内で噂にならないのが逆に不思議なぐらいだ。
もしかして派遣の通訳は暇なのかな?と思ったが、実際は本当に暇らしい。というより、暇に『なってきた』ようだ。
プロジェクトの概要をインプットし、関連する既存資料の翻訳作業をおおよそ終え、ビジネス語学講座の運用が軌道に乗ると、クライアント先に毎日出社する必要はなくなる。外出や出張、大きな商談などで通訳を必要とする場合は来社するが、それ以外は雪哉も週に数回の勤務に変更になるため、社内で会う事が滅多になくなると聞かされた。
また嘘ついてるんじゃないのかなぁと疑心暗鬼になっていたところで、雪哉はやっぱり愛梨に嘘をついた。いや、今回は嘘というより、騙し討ちだった。
11
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
社長の×××
恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。
ある日突然異動が命じられた。
異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。
不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。
そんな葵に課長は
「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」
と持ちかける。
決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。
果たして課長の不倫を止めることができるのか!?
*他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる