約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

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後日談・番外編

後日談 台風とハリケーンと答え合わせ

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*本編・エピローグ後のお話
 ネタ要素強めです。笑




 最初はこの『両家の顔合わせ』って本当に必要なのかな? と思った。顔合わせも何も、上田うえだ家の面々と河上かわかみ家の面々は元々知り合いなんだから。

 でも実際に顔を合わせるのはかなり久しぶりだと思う。父さんも母さんも日本に来たいって言ってるから丁度いいんじゃない? と言う雪哉と話し合って、簡単な食事の席を設けることにした。

和花奈わかな~!久しぶりねぇ!」
「いやぁん、愛子あいこちゃぁん! 久しぶり~!」

 案の定、予約した店の個室の入り口で、再会した愛梨の母・愛子と雪哉の母・和花奈が手を取り合ってやや興奮気味に喜ぶ。こんなに喜んで貰えるならやっぱりちゃんとセッティングしてよかったね。なんて雪哉と視線を合わせて頷き合うも束の間。

「2年ぶりかしらー?」
「そうね~! この前のクラス会以来だから、もう2年になるわねっ!」

 キャッキャと笑い合う母達の言葉に、一瞬、出遅れる。

「???」
「母さん? おばさん??」
「え……ちょっと待って。お母さんたち、そんな最近会ってるの?」

 聞き間違いじゃなければ、ふたりは今『2年ぶり』と言った。

 2年? 15年……いや、もう16年近くなるはずなのに、いくらなんでも計算間違えすぎじゃないだろうか?

 目が点になった娘と息子の顔を見比べて、今日も元気な母2人がにこにこと同じ表情をする。

「5年に1回、春に高校の時のクラス会があって。その度に日本に戻ってきてるのよ」

 しれっと言い放った母の言葉に、普段愛梨を振り回してばかりの雪哉でさえ『ん?』を3回、『は?』を2回交互に繰り返した。愛梨に至っては声すら出せそうにない。

「いや、待って母さん。2年前の春に日本に来たっけ?」
「来たわよ。雪にはお父さんの画材の買い足しだって言ったかしら。もちろんクラス会にも参加したけど」
「聞いてない……。……え、5年に1回って、その前は……?」
「雪、友達と旅行に行くって言ってたじゃない。なんだっけ、マイケル君? がガールフレンドにフラれた傷心旅行だとか言って」

 誰なの、マイケル君。
 たぶん雪哉の友達なのだろう。

 顔を上げると、雪哉の眉が寄っているのを確認できる。どうやら身に覚えがあるようだ。ふと視線が合った雪哉に

「愛梨、知ってたの?」

 と訊ねられるけれど。

「知ってるわけないでしょ! 私、その頃もう大学で家出てるし!」

 無論、知っているわけがない。7年前と言えば、大学4年の頃だ。その頃には2つ年下の弟、響平きょうへいも家を出ている頃だし、子2人の実質的な子育てから解放されて自由に出歩くようになった母の行動範囲など逐一知る訳もない。

「ちなみにその前はディベート大会だったわね。でもその時はちゃんとお父さん残してあげたでしょ」
「知ってたらそんな行事なんて放棄して、俺も日本に戻って来たかった……」
「そう言うと思ったから黙ってたのよ」

 更に5年前と言えば、16歳の頃だ。以前雪哉から聞いた話だと、英語の読み書きや会話に慣れ、ようやく勉強の面でも成果が見られるようになってきた頃だろう。母としては息子の勤勉さと向上心に水を差したくなかったのかもしれない。

 でもクラス会で会っていたことぐらい、教えてくれればよかったのに!

「どっちかに恋人が出来たら報告しましょうね、って昔から話してたんだけどね~~」
「結局、愛梨にも雪哉くんにも恋人は出来なかったわね~~」
「……」
「……」

 実は恋人いました、って言ってもいいのだろうか。いや、ダメなんだろうな。多分。
 ……分からない。難しすぎるこの母たち。

 口を結んで俯くと、隣にいた雪哉が口元を押さえながら笑いを堪えていた。でも笑い事じゃない。自分の親だけれど、いつもテンションが高すぎて娘の愛梨でさえついて行けないのだから。


 気まずい思いをしながら席に腰を落ち着けると、挨拶もそこそこに台風とハリケーンの会話が再度始まってしまう。

「雪はね、最初の2年ぐらいはずーっと愛梨愛梨って言ってたわよ。もう耳にタコが出来るんじゃないかってぐらい朝から晩まで愛梨ばっかり」
「ユキ……」

 なんなのそれ。聞いてるだけでこっちが恥ずかしいんだけど。

「でも17歳? 18歳ぐらいの時かな? 雪、年頃なんだしガールフレンドの1人ぐらい作ったら? って言ったらその後から一切愛梨ちゃんのこと言わなくなったわよね」
「いや、親に反対されるって、思春期には結構ショックだから」

 雪哉がビールのグラスを口に運びながら真顔で言う。この人、親の前でも一切自分の感情隠さないんだな、と思うと愛梨の方が恥ずかしくなってきてしまう。

「別に反対してたわけじゃないわよ。ただ、我が息子ながらコイツちょっとヤバイかもしれないとは思ってたわね」
「お、おばさん……」
「昔から愛梨ちゃん大好きだなぁ、とは思ってたけど。まさか連絡先も知らないのに日本に戻るって言い出すなんて思わないじゃない。けど昔は携帯も持ってなかったし、今思えば当り前よね~」

 あはは、と悪びれもせず言う母に雪哉が口を噤む。これ以上は何を言っても意味が無いと判断したのだろう。

 目線が合うと苦笑した雪哉を見て、なるほど、と納得する。17歳の雪哉は親に自分の恋を反対されたと思って、愛梨の事を話すのを止めてしまったのだろう。その頃には1度出したという手紙も戻ってきた後だったはずだし、雪哉も愛梨と同じように、心の中に自分の感情を封印したのかもしれない。

 日本に戻って来るときに、連絡先も聞いたら普通に教えてくれたのだと思う。けれど自分の手紙が戻って来た経緯から、当然親同士の接点も無くなってしまったと思い込んでいた。更に過去に反対された経緯があると認識していたことで、余計に言い出せなくなってしまった。自力で見つけるからいい、と密かに決意した雪哉の心情は何となく察する。

「愛梨は全然、雪哉くんの事言わなかったけどね」
「やだ、完全に雪の片思いじゃない。それ面白いわね」
「それがね、和花奈。そうでもないのよ」

 口元に手を当てて笑顔を作る自分の母に嫌な予感を覚える。箸を持ったままじっと母の横顔を睨むが、

「この子、寝言でたまーに『ユキ』って言うの。夜寝てる時よりも、居間とか車の中でうたた寝してる時の方が多かったかしら」
「ちょ、お母さんやめてえぇ!!」

 思った通り余計なことを言う。眠っている自分がどんな事を口走っているのかなんて知る筈もなく、当り前のように恥ずかしい過去を暴露した母親の言葉を、愛梨は慌てて遮るしかない。だが愛梨の制止など気にもせず、母2人はほう、と感嘆する。

「鳴かぬ蛍が身を焦がすって感じ? いやーん、ロマンチックねぇ」
「和花奈、昔からそういうの好きよね」
「愛子ちゃんだって好きでしょ~~」

 ちょっともう、ホントに止めて。ロマンチックだのドラマチックだの言ってるけど、それ自分の娘と息子だよ? いいの、それで!?

「だから雪哉君をうちに連れてきたときは『ついに来たかぁ』って思ったわよ~。雪哉君、ほんとに愛梨なんかでいいのかなー? って思ってたわ」

 そう思っていたのは、わかっていた。母の顔に『雪哉君かっこいい』と書いてたのは、愛梨もちゃんと認識していた。だが、もはや突っ込む気力すら起こらない。

「2人が帰ったあと、お父さん動転しちゃって大変だったんだから。マンションの自動ドアに挟まれるわ、急に水風呂に入りたいとか言い出すわ、教育テレビの子供番組見て泣き出すわで。自分から『嫁にもらってやってくれ』なんて言ったのにねぇ」
「うるさいぞ、母さん」
「お父さん……」

 それは動揺しすぎ。

 2人の話を要約すると、雪哉の母・和花奈も愛梨の母・愛子も、雪哉が日本に戻ってきた直後の5年前から、既に2人が付き合っていると思っていたらしい。雪哉が愛梨の連絡先も知らずに日本に戻ったとは、両親4人とも思ってもいなかった。

 だから愛梨の母に「彼女いないの?」とカマをかけられた雪哉が「いない」と答えたのは、両親の前で照れる愛梨を庇うためだと解釈したらしく、その後の雪哉の顔を見ていて「全然隠しきれてないわよ~」と思っていたとのこと。確かに雪哉は最初から隠す気持ちすらなかっただろうけれど。遊びすぎちゃったかしらね、と母が朗らかに笑う。

 前回のクラス会の時に『いつ報告してくるのかしらねー』なんて2人の間でキャッキャと現状を確認し合ったらしいが、その頃の愛梨は雪哉と付き合うどころか、雪哉が日本に帰ってきていることすら知らなかった。


 そうして6人で状況を確認したのに、あきれた事に愛子台風和花奈ハリケーンから返って来た言葉は、

「結婚式楽しみねぇ」
「ねー!」

 だけだった。

 いや、もっと他に言う事あるでしょ!?

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