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後日談・番外編
番外編 2nd xxx 前編
しおりを挟む* 本編 最終章23話と24話の間のお話です。時間軸としては後日談「ヒョウとライオンの答え合わせ」より前のお話になります。
* R-18 閲覧の際はご注意を。
「そんなに緊張しなくても、
―――夜までは待つから」
雪哉の視線は、今日も黒ヒョウのよう。
雪哉が住んでいる家は、愛梨の家からも派遣先のSUI-LENからもかなり遠い場所にあった。ただそこは、雪哉が勤めている派遣会社の本社からは近い場所らしく『何かあったらすぐ呼び出されるから、あまりいい環境じゃない』と説明されて『そっか、そうだよね』と笑ってしまった。
そんな雪哉の家に最初に誘われたのは、付き合いはじめて4日後だった。場所を聞けば結構遠かったので平日は無理です、と断ったら、じゃあ週末は? と食い下がられた。
そこでようやく雪哉の意図を察する。言葉そのままの『遊びにおいで』という意味だけではなく、そういうイミが含まれていると気付き、一気にはじめての時のアレコレを思い出す。つい恥ずかしさが再燃して『今週は予定があるから…』と適当な理由をつけて、尻尾を巻いて逃げ出した。
翌週、出社時のエントランスホールで鉢合わせた雪哉に同じ言葉で誘われた。また適当な理由をつけて先延ばしにしようとしたところ、朝から通訳室に連れ込まれて、結構しっかりと怒られた。
雪哉は、愛梨が弘翔と付き合っていた頃に、一緒に帰ってそのまま食事に行っているところを何度か目にしている。
なのに自分が相手だと1週間の間にデートの1つもないなんて。俺と恋人同士だって、ちゃんと自覚してる? と嘆く雪哉にあっさり言い負けて、次の週末は一緒に過ごす事になった。
夜までは待つと言ったのに。雪哉の感覚では15時から『夜』らしい。愛梨の家にはない大きなソファの端っこに座っていると、隣に座った雪哉が鼻先を首筋にすり寄せてきた。
「やっ……ユキ……!」
身を捩って逃げようとしたのに、腕が腰に回され、反対の手が顎の下に添えられ、そのまま優しく口付けられてしまう。
「ちょ、っとぉ! ユキ!」
雪哉は簡単に嘘つくところを直した方がいいと思う。もちろんそれは愛梨を傷付けるような悪質な嘘ではないが、心臓に受けるダメージを考えていない……いたずらにしてはぜんぜん可愛くない嘘ばかりをつく。
「嫌? この前したの、気持ちよくなかった?」
せっかく意識しないようにしていたのに、雪哉が猫なで声で訊ねてくる。だが視線や言葉と裏腹に、その手は以前の快感を思い出させようと、服の上から愛梨の胸の上を辿っている。
「俺は気持ちよかったから、もっと愛梨としたい。もっと可愛がってあげたいし、気持ちよくなって欲しい。俺の身体も、愛梨に気に入って欲しい」
「~~っ…!」
そうやってまた、愛梨を罠の中に誘おうとする。雪哉の中にある恋慕の深淵には、もうはまってしまった。その甘さと深さから抜け出せなくなって戸惑っているうちに、今度は愉悦の奈落へ落とそうとする。
そのステップアップは、愛梨には早すぎると感じるわけで。
「はず、か、しいの」
じっと見つめる視線に耐えられなくなり、絞り出すように口にした言葉は、途切れ途切れになってしまった。
恥ずかしい。ひたすらに。
裸なんて、本来同性相手にしか見られないもの。その同性だって、母親か仲が良い友達と、公衆浴場や温泉に行ったときに見たり見られたりする程度で、1年に数えるほどしかない。異性に裸を見られたことがあるのは父親と弟ぐらいだが、それすらもう20年も前の話だ。
まして触られることなど同性ですらほぼ皆無に等しいのに、雪哉にはまったく遠慮がない。触る、なんて易しいものじゃない。撫でられる、掴まれる、揉まれる、摘まれる……更に舐められる。
恥ずかしい。世の中のカップルはみんなこうなのかと思うと、愛梨は知識とか経験とか言う前に、それを受け入れるためのキャパシティを拡大するところから始めなければいけないと思う。のに。
「そう、愛梨はまだそういう段階なんだ」
内心をすべて説明した訳ではないが、俯いて照れる愛梨の様子を見た雪哉が、興味深げに首を動かす。
「まぁ、嫌でもするけど」
「なんで!?」
待って、今、納得してくれてたよね?
歩み寄る空気で頷いてくれたよね?
「普通、そこは『嫌ならしない』って言わない!?」
普通なんて愛梨にはわからないけれども。でも雪哉は愛梨の事を『好き』と言ってくれて、その好きな相手が困ったり嫌がったりしたら、少しぐらい身を引くか態度を緩和してくれるんじゃないのだろうか。
顔を上げて雪哉の顔を見つめると、顎に添えていた指先がゆるゆると首と顎の境目を撫でる。
「本当に嫌なら、俺も我慢する。でも愛梨は『恥ずかしいから嫌』なだけで『気持ちよくないから嫌』なわけじゃない」
「……ッ…」
「大丈夫。恥ずかしいのは最初だけだから」
そう言って、今度は強引に唇を重ねられる。また舌を入れられるんじゃないかと思って身構えたが、本当に身構えなければいけないのはキスに対してではなく、身体の向きを変えられることに対してだった。
腕を引っ張られて雪哉の胸に抱き留められる。と思った瞬間、身体の位置が更にカクンと下がった。小さな衝撃に驚いて雪哉の胸から顔を上げると、愛梨が雪哉を押し倒すような形になっていた。
「わ、ごめん、ユキ! 重いよね…っ」
「いや、全然?」
完全に雪哉の身体に乗り上げている状態に驚く。焦って身体を離そうとするのに、雪哉は愛梨の腹の前にあった足の位置を変えて、愛梨の身体を逃さないように長い足で固定してしまう。
さらに腕を引っ張られて顔を近付けると、再び唇が重なった。油断していたせいか、今度こそ口の中に侵入してきた舌が愛梨の舌に絡まり、唾液と熱を交換し合う。ちゅ、と小さな音が鳴ったと思った直後に、じゅる、と激しい音がした。
わざとに激しい音を出されているのだと気付いてまた羞恥心を覚えるのに。
「早く『恥ずかしい』より『気持ちいい』って覚えて」
キスの合間に囁かれた官能的な言葉に、思わず目を見開く。また顔に羞恥心が表出しているかもしれないと思ったが、雪哉にはもっと恥ずかしい提案を重ねられてしまった。
「そんなに恥ずかしいなら、服着たままでいいよ。まだ外は明るいから―――全部脱がせるのは、夜まで待とうか」
自分で言って、自分でへし折った口約束を、自分で修正してくる。最初に言った『夜まで待つ』を形を変えて守るから結果的に嘘はついていない。なんてトンデモ理論を押し通す雪哉は、やはり腹黒いとしか形容しえない。
ブラウスの裾から両手を入れて、下着のホックを上手に外した雪哉と視線が合った。見つめ合ったまま背中の中心を辿っていく微かな指遣いに、身体がぴく、ぴくんと小刻みに反応してしまう。
「背中も感じる?」
「ちが、…くすぐ、ったい……ふ、ぁ…」
「愛梨が背中弱いのは、昔から知ってた」
「え、なん…? …んゃ、ぁっ、あッ」
昔っていつ?
問いかけようにも、ぞわぞわとくすぐったい感覚に邪魔されて、言葉にならない。腹の上に体重をかければ雪哉も苦しいだろうと思って腰を浮かせる事に集中すると、雪哉の指遣いに対する意識がどうしても疎かになってしまう。
下からの視線に晒されながら、背中をいやらしく撫でられる。恥ずかしさとくすぐったさに身を捩ると、背中にあった片手が今度は前に回って来た。
後ろの留め具を外された事で浮いた下着と肌の隙間に、長い指が入り込む。そのままふにふにと胸を撫でたり掴まれたりされて、遠慮と困惑と羞恥心と快感が綯交ぜになってしまう。
「愛梨の胸は、言うほど小さくない」
雪哉が真面目な顔で呟く。前回愛梨が言った言葉を今更になって否定してきた雪哉に、何と言っていいのかと困惑する。けれど背中をスルスルと撫で、胸をふわふわと掴む同時刺激に、つい思考が持っていかれてしまう。
「柔らかくてすべすべしてて、触ってるだけで気持ちいい」
「あっ、や、…ゃんっ」
「って俺が気持ちよくなって、愛梨が恥ずかしくなったらダメか」
くすくすと笑った雪哉が身体を起こすので、もしかしたらこれで終わるかも……と淡い期待をした。
そんなわけ、なかった。
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