婚約破棄された聖女がモフモフな相棒と辺境地で自堕落生活! ~いまさら国に戻れと言われても遅いのです~

銀灰

文字の大きさ
8 / 13

【八】

しおりを挟む
 襲撃一回目。
 彼等は三倍の数の兵士を引き連れて、私の誇る辺境地へとやってきたのでした。

「えいやっ!」
「あぁぁあああァアッーーーー!」

 彼等は渦巻く土地の力により立つことも困難となり、敗走。
 てんで方向違いの向きに投げ付けた槍も、悉くミハクの手により叩き落されました。
 残念、初回と同じ有り様です。
 次のご来訪を――お待ちしておりません。来ないで。

 しかし心からの願い出も通じず、彼等は削がれぬ威勢をもってこの地へご来訪し、二回目の襲撃が起こりました。
 今回はなんと、三百を超える大隊でお越しくださいました。

「えいやっ!」
「ぎゃあぁぁあああァアッーーーー!」

 ……ですから、数で押しても駄目なんですって。
 何の進歩もないじゃないですか。

 三度目は、王宮の為政者がお見えのなりました。

「聖女ルールゥ、今国へ戻れば、相応の立場を其方に約束する。即刻戻られ――」
「嫌ですッ」

 思わず強めに力を揺さぶって、お帰りを願いました。
 盛大に吐瀉物を吐き散らかすお偉いさんというのは、見ていて不思議と胸のすくような気分になる、悪くない光景でしたね。

 四度目。
 お偉いの為政者さんが三人足を運んできました。
 ……だからなんで、とりあえず失敗を再演しておこうとでもいうような繰り返しを試みるのですか。
 兵はともかく、そこを増やしても変わらんでしょうに。

「聖女ルールゥ、お前が国に戻れば聖女としての立場が用意してあり、それは確約されているのだ。だから――」

 しかも文言すら一緒でした。
 前回と同じ方法でお帰り願いました。歳のいった男性が吐く図は、二度目だとただ不快なものにしか感じず、嫌だったです。しかも前回の三倍。

 そして五度目。
 なんと――国が差し向けてきたのは……。

 私に婚約破棄を言い渡した、あの皇子でした。

「…………」
「ルールゥ、あのときは済まなかった、全面的に撤回させてくれ! 君がいなくなってから、君という存在の大きさに気付かされた! 君に戻ってきてほしい――これは本心だっ!」
「おりゃあッ!」
「ぎゃあああああああああああァアッッ!」

 思わず、地から炎を立ち昇らせてしまいました。
 心底の怒りを感じたのもありますが――文言のセンスがなさすぎて、あんなのが伴侶になっていたかもしれない現実に悲しい思いを抱いてしまったのです。騙すにしても酷すぎる稚拙でした。
 お国の側が前もって演説文を用意しておくとか、無かったのでしょうか……。
 男の価値の底を見たような気分になりました……。

 六回目。
 七回目。
 八回目。

 そして、破れかぶれで差し向けられた一連隊を完膚なきまでに撃退すると――それを境に、彼等の干渉はぴたりと止みました。

「……諦めたかな?」
「まあ、彼等も暇ではないでしょう。六回目以降は、私たちの前にすら辿り着けませんでしたしね。これ以上の干渉は無いものと思っても、よいかと」
「そっか――」

 私は身を起こし、青々とよく晴れた空を見上げました。

 吐息を長く吐き出すと、体の中に清潔な風が流れ込んでくるような心地を感じました。

 過去の楔が吹っ切れたような、この空のように晴れ晴れとした気分。
 ――本当は、無意識の心の片隅で。
 私はこのような機会を、ずっと待っていたのかもしれません。
 そのようにも思える、久々に空を覗いたような清々しい気分でした。

「――これで、本当に自由だ」
「これから先、どうするおつもりで?」
「とりあえず」

 私は表情を弛緩させ、安らかな声で、言いました。

「しばらくと言わず、ゆっくり生きてゆきます」
「――まあ、それもいいでしょう。付いていきますよ」

 ミハクの応えに、私は顔一杯でニッコリと微笑みました。

 傍に、心を許せる誰かがいる。
 そして、心身が死に向かうことのない、心安らかが望める環境がある。
 これ以上、何を望むのでしょう?

 モフモフな相棒と、辺境地で過ごす自堕落生活。素敵でしょう?
 これが私の、運命の選択。
 誰に決められたわけでもない、私の生き様でした。

「働くなんて、クソくらえー」
「……それはどうかと思いますよ?」

 ミハクのお小言に耳栓して、私はだらりと木の幹に寄りかかって、目を瞑りました。
 鳥の声、木々のさざめき、幹を通る水の音に、色を感じます。
 よく晴れた日の空気の匂いに、不思議な感慨が脳裏に駆け巡りました。

 嗚呼――幸せですー……。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお
ファンタジー
聖女見習いとして教会に仕えていた少女は、 「役立たず」と嘲笑され、ある日突然、追放された。 理由は単純。 彼女が召喚できるのは――タンスやぬいぐるみなどの非生物だけだったから。 森へ放り出され、夜を前に途方に暮れる中、 彼女は必死に召喚を行う。 呼び出されたのは、一体の熊のぬいぐるみ。 だがその瞬間、彼女のスキルは覚醒する。 【付喪神】――非生物に魂を宿らせる能力。 喋らないが最強の熊、 空を飛び無限引き出し爆撃を行うタンス、 敬語で語る伝説級聖剣、 そして四本足で歩き、すべてを自動化する“マイホーム”。 彼女自身は戦わない。 努力もしない。 頑張らない。 ただ「止まる場所が欲しかった」だけなのに、 気づけば魔物の軍勢は消え、 王城と大聖堂は跡形もなく吹き飛び、 ――しかし人々は、なぜか生きていた。 英雄になることを拒み、 責任を背負うこともせず、 彼女は再び森へ帰る。 自動調理、自動防衛、完璧な保存環境。 便利すぎる家と、喋らない仲間たちに囲まれた、 頑張らないスローライフが、今日も続いていく。 これは、 「世界を救ってしまったのに、何もしない」 追放聖女の物語。 -

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

平民令嬢、異世界で追放されたけど、妖精契約で元貴族を見返します

タマ マコト
ファンタジー
平民令嬢セリア・アルノートは、聖女召喚の儀式に巻き込まれ異世界へと呼ばれる。 しかし魔力ゼロと判定された彼女は、元婚約者にも見捨てられ、理由も告げられぬまま夜の森へ追放された。 行き場を失った境界の森で、セリアは妖精ルゥシェと出会い、「生きたいか」という問いに答えた瞬間、対等な妖精契約を結ぶ。 人間に捨てられた少女は、妖精に選ばれたことで、世界の均衡を揺るがす存在となっていく。

「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。 しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。 永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。 追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。 「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」 その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。 実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。 一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。 これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。 彼女が最後に選択する《最適解》とは――。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...