10 / 13
【物語の始まり】・2
しおりを挟む
罠……?
私は一瞬そう思いましたが――その顔色が蒼白に染まった幼子は、私たちの視界に入ってすぐに、ふらりとよろめき、力無く倒れてしまいました。
「私が行きますッ! ルールゥは引き続き警戒を!」
「わ、分かった……!」
といっても、周囲に他の人の気配など一つもなく――。
幸いなことに、それは卑劣な罠などではなく、ミハクは無事その幼子を背に乗せて、私の元へ帰ってきました。
幼子――その年端も行かぬ少女は、ミハクの背から慎重に降ろされ横たわったまま、ぴくりとも動かなくなってしまいました。
「ちょ、ちょっと……! この子、過労とか栄養失調とか、そんな段階を超えてる……! 限界なんてとうに――」
「ルールゥ、治療を」
「うん。――ミハクは一応、周囲を警戒しておいてくれる?」
「分かりました」
深呼吸して、少女の胸に手を当てる。
土地の力を利用して、この子の中に気の流れを――。
「あんまりやりすぎてしまうと、器から力が溢れて悪化してしまいますよ」
「うん。慎重に……慎重に」
もう遠い昔に思える過去――村へ出向き、傷付いた民に癒しを与えていたあの頃の記憶、感覚を、必死で思い出します。
あまり思い出したい記憶ではないですが……四の五の言っていられません。
「――ていうかあそこまでしておいて、普通裏切りますかね!?」
「集中ッ!」
改めて思い返すと溢れてくる怒りを抑えながら、少女を手当てしました。
その甲斐あって――やがて、少女の胸が静かに、上下し始めました。
顔色も、まあ……先程よりかは、幾分良いように見えます。
「ふう……。あとは時間をかけて、かな」
「お疲れ様です」
「ありがとう。……でも、この子、一体何者だろう……?」
「ふむ。あるいは……何者でもないかもしれませんね」
「…………?」
私は首を傾げましたが――しかし、そのミハクの予想は当たっていたのでした。
それからは言った通り、時間をかけて少女の傷を癒しました。
「まだ目を覚まさない……。……土地の力だけで、生命を維持できるものなのかな……?」
「物を口にできるほど回復してはいませんから……仕方ありません、できることをしましょう」
最初は駄目かと思いましたが……。
「お、え、あ――! ミ、ミハクっ! この子今――ちょっと動いたッ!」
「――おお。女神の命運に、愛されましたか――」
次第に少女は、生命の証を多く見せるようになり――。
「液体の食事ならとれるようになったね……!」
「あまり一度に多くを含ませないようにお願いします。――ふむ、顔色も良くなってきましたね」
――順調に、活力を取り戻してゆきました。
そして――。
「う……う、うぁ…………」
「ん……? ――――ぎゃあああああああああミハクううううううう! この子が目を覚ましたあああああああああああ!」
「なんて声を上げているんですか、ルールゥ。さて、本当ですか? ――おお……」
ついに、目を覚ますまでに快復しました。
「う、うぅ…………」
少女は薄目を開けて、私とミハクを見上げました。
――私、今どんな表情を浮かべていますかね……?
「ミ、ミハクどうしよう……?」
「落ち着きなさい。――私が話しかけては、悪戯に驚きを与えてしまうかもしれません。ルールゥ」
「う、うん。お、お嬢ちゃん……大丈夫?」
「…………あな、あ、あなたは……?」
少女は焦点の合わない瞳で宙を見つめ、ぼんやりと呟いて――。
そして。
その瞳の焦点が合った瞬間、目を見開いて私の顔を凝視しました――。
「せ――聖女、様……?」
――ずきりと。
胸の内に、鈍い痛みが走りました。
その呼び名を、他者の口から耳にした途端に――。
胸の痛みを堪え、できるだけ優しく聞こえるよう祈る声で、少女に語りかけました。
「……あなたのお名前は?」
「…………セラ」
「セラ……そう、良いお名前です。セラ……あなたはどこから来たの?」
「…………私は」
そして少女セラが口にした場所は。
果たして、あのお国の名でした。
「…………」
それきりセラはまた目を瞑り、眠り込んでしまいました。
私は彼女の寝顔を見つめながら、しみじみと、呟きました。
「あのお国の人間かぁ……」
「ルールゥ、どうするのです?」
「……どうしようか」
――などと悩み、決めあぐね、決断を先延ばしにしているうちに。
少女はついに、起き上がれるまでに快復したのでした――。
「どーしよ……」
私は一瞬そう思いましたが――その顔色が蒼白に染まった幼子は、私たちの視界に入ってすぐに、ふらりとよろめき、力無く倒れてしまいました。
「私が行きますッ! ルールゥは引き続き警戒を!」
「わ、分かった……!」
といっても、周囲に他の人の気配など一つもなく――。
幸いなことに、それは卑劣な罠などではなく、ミハクは無事その幼子を背に乗せて、私の元へ帰ってきました。
幼子――その年端も行かぬ少女は、ミハクの背から慎重に降ろされ横たわったまま、ぴくりとも動かなくなってしまいました。
「ちょ、ちょっと……! この子、過労とか栄養失調とか、そんな段階を超えてる……! 限界なんてとうに――」
「ルールゥ、治療を」
「うん。――ミハクは一応、周囲を警戒しておいてくれる?」
「分かりました」
深呼吸して、少女の胸に手を当てる。
土地の力を利用して、この子の中に気の流れを――。
「あんまりやりすぎてしまうと、器から力が溢れて悪化してしまいますよ」
「うん。慎重に……慎重に」
もう遠い昔に思える過去――村へ出向き、傷付いた民に癒しを与えていたあの頃の記憶、感覚を、必死で思い出します。
あまり思い出したい記憶ではないですが……四の五の言っていられません。
「――ていうかあそこまでしておいて、普通裏切りますかね!?」
「集中ッ!」
改めて思い返すと溢れてくる怒りを抑えながら、少女を手当てしました。
その甲斐あって――やがて、少女の胸が静かに、上下し始めました。
顔色も、まあ……先程よりかは、幾分良いように見えます。
「ふう……。あとは時間をかけて、かな」
「お疲れ様です」
「ありがとう。……でも、この子、一体何者だろう……?」
「ふむ。あるいは……何者でもないかもしれませんね」
「…………?」
私は首を傾げましたが――しかし、そのミハクの予想は当たっていたのでした。
それからは言った通り、時間をかけて少女の傷を癒しました。
「まだ目を覚まさない……。……土地の力だけで、生命を維持できるものなのかな……?」
「物を口にできるほど回復してはいませんから……仕方ありません、できることをしましょう」
最初は駄目かと思いましたが……。
「お、え、あ――! ミ、ミハクっ! この子今――ちょっと動いたッ!」
「――おお。女神の命運に、愛されましたか――」
次第に少女は、生命の証を多く見せるようになり――。
「液体の食事ならとれるようになったね……!」
「あまり一度に多くを含ませないようにお願いします。――ふむ、顔色も良くなってきましたね」
――順調に、活力を取り戻してゆきました。
そして――。
「う……う、うぁ…………」
「ん……? ――――ぎゃあああああああああミハクううううううう! この子が目を覚ましたあああああああああああ!」
「なんて声を上げているんですか、ルールゥ。さて、本当ですか? ――おお……」
ついに、目を覚ますまでに快復しました。
「う、うぅ…………」
少女は薄目を開けて、私とミハクを見上げました。
――私、今どんな表情を浮かべていますかね……?
「ミ、ミハクどうしよう……?」
「落ち着きなさい。――私が話しかけては、悪戯に驚きを与えてしまうかもしれません。ルールゥ」
「う、うん。お、お嬢ちゃん……大丈夫?」
「…………あな、あ、あなたは……?」
少女は焦点の合わない瞳で宙を見つめ、ぼんやりと呟いて――。
そして。
その瞳の焦点が合った瞬間、目を見開いて私の顔を凝視しました――。
「せ――聖女、様……?」
――ずきりと。
胸の内に、鈍い痛みが走りました。
その呼び名を、他者の口から耳にした途端に――。
胸の痛みを堪え、できるだけ優しく聞こえるよう祈る声で、少女に語りかけました。
「……あなたのお名前は?」
「…………セラ」
「セラ……そう、良いお名前です。セラ……あなたはどこから来たの?」
「…………私は」
そして少女セラが口にした場所は。
果たして、あのお国の名でした。
「…………」
それきりセラはまた目を瞑り、眠り込んでしまいました。
私は彼女の寝顔を見つめながら、しみじみと、呟きました。
「あのお国の人間かぁ……」
「ルールゥ、どうするのです?」
「……どうしようか」
――などと悩み、決めあぐね、決断を先延ばしにしているうちに。
少女はついに、起き上がれるまでに快復したのでした――。
「どーしよ……」
11
あなたにおすすめの小説
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします
紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド
どこにでも居る普通の令嬢レージュ。
冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。
風魔法を使えば、山が吹っ飛び。
水魔法を使えば大洪水。
レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。
聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。
一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。
「その命。要らないなら俺にくれないか?」
彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。
もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!
ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。
レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。
一方、レージュを追放した帝国は……。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる