2 / 4
【二】
しおりを挟む
「…………そうか」
久々に顔を合わせた晩の卓で。
お父様は私の事情を聞くと、俯けた顔に影を落として、深々とため息をつき、首肯しました。
「――いや、すまない。このため息はお前の事情に否を唱えるものではない。……そうか、セレスは変わらなんだか」
眉間に皺を寄せ、お父様はもう一つ、ため息を吐き出しました。
「……お前が行くことで変わることもあると信じていたが。そうか、分かった。……テルヴィア卿にはお世話になった。その恩を仇で返すようだが……セレスの性根は、変わらんか……」
――珍しく、他者への配慮を思う余裕の無いお父様の姿を見て……私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりました……。
「テリシア、思い違いをしてはいけない。お前は少しも悪くはないのだから。悪いのは……お前に悪戯な苦労をかけた私の方だ。許してくれ」
「そんな……」
私は思わず、口を引き結び、俯いてしまいました。
セレスの館に引き戻るとすぐに、青い表情を浮かべるセレスがバタバタと私の元へ駆け寄ってきました。
「テリシア! い、今しがた、何かの間違いを伝え聞いたんだ……! テ、テリシア、……婚約破棄など、ただの出まかせな噂であるよな……?」
ゼエゼエと荒い呼吸で私を問い詰めるセレスの様子に、彼に対する最後の情がぷつりと断ち切れました。
セレス、気付いていないの?
あなたが私を玄関まで出迎えたことなど今まで無く、これが初めてだということに――。
最後は、一言も交わしませんでした。
私は黙って顔を背け、今来たばかりの館に背を向けました。
「テ、テリシア! な、なぜ――」
追い縋ろうとするセレスの前に、私の家の執事が立ち塞がりました。
「――テリシア様は、彼女のお屋敷に戻られますので」
「なッ……! ――こ、こんなこと認められないッ! テリシア、戻ってきてくれ! 頼む、頼――」
拳を握りしめながら、館を後にしました。
扉の向こうに置いてきたセレスの懇願に、私はなんだか、自分までもが情けなく虚しい気分になり、ちょうど、暗がりの雲からしとしとと垂れてきた寒雨のような惨めを様々に対し感じながら、お屋敷へと戻りました――。
久々に顔を合わせた晩の卓で。
お父様は私の事情を聞くと、俯けた顔に影を落として、深々とため息をつき、首肯しました。
「――いや、すまない。このため息はお前の事情に否を唱えるものではない。……そうか、セレスは変わらなんだか」
眉間に皺を寄せ、お父様はもう一つ、ため息を吐き出しました。
「……お前が行くことで変わることもあると信じていたが。そうか、分かった。……テルヴィア卿にはお世話になった。その恩を仇で返すようだが……セレスの性根は、変わらんか……」
――珍しく、他者への配慮を思う余裕の無いお父様の姿を見て……私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりました……。
「テリシア、思い違いをしてはいけない。お前は少しも悪くはないのだから。悪いのは……お前に悪戯な苦労をかけた私の方だ。許してくれ」
「そんな……」
私は思わず、口を引き結び、俯いてしまいました。
セレスの館に引き戻るとすぐに、青い表情を浮かべるセレスがバタバタと私の元へ駆け寄ってきました。
「テリシア! い、今しがた、何かの間違いを伝え聞いたんだ……! テ、テリシア、……婚約破棄など、ただの出まかせな噂であるよな……?」
ゼエゼエと荒い呼吸で私を問い詰めるセレスの様子に、彼に対する最後の情がぷつりと断ち切れました。
セレス、気付いていないの?
あなたが私を玄関まで出迎えたことなど今まで無く、これが初めてだということに――。
最後は、一言も交わしませんでした。
私は黙って顔を背け、今来たばかりの館に背を向けました。
「テ、テリシア! な、なぜ――」
追い縋ろうとするセレスの前に、私の家の執事が立ち塞がりました。
「――テリシア様は、彼女のお屋敷に戻られますので」
「なッ……! ――こ、こんなこと認められないッ! テリシア、戻ってきてくれ! 頼む、頼――」
拳を握りしめながら、館を後にしました。
扉の向こうに置いてきたセレスの懇願に、私はなんだか、自分までもが情けなく虚しい気分になり、ちょうど、暗がりの雲からしとしとと垂れてきた寒雨のような惨めを様々に対し感じながら、お屋敷へと戻りました――。
1,311
あなたにおすすめの小説
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
「婚約破棄してやった!」と元婚約者が友人に自慢していましたが、最愛の人と結婚するので、今さら婚約破棄を解消してほしいなんてもう遅い
時雨
恋愛
とある伯爵家の長女、シーア・ルフェーブルは、元婚約者のリュカが「シーア嬢を婚約破棄にしてやった!」と友人に自慢げに話しているのを聞いてしまう。しかし、実際のところ、我儘だし気に入らないことがあればすぐに手が出る婚約者にシーアが愛想を尽かして、婚約破棄をするよう仕向けたのだった。
その後リュカは自分の我儘さと傲慢さに首を締められ、婚約破棄を解消して欲しいと迫ってきたが、シーアは本当に自分を愛してくれる人を見つけ、結婚していた。
だから今更もう一度婚約して欲しいなんて、もう遅いのですっ!
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
元婚約者は、ずっと努力してきた私よりも妹を選んだようです
法華
恋愛
貴族ライルは、婚約者アイーダに婚約破棄を宣告し、アイーダの妹であるメイと婚約する道を選ぶ。
だが、アイーダが彼のためにずっと努力してきたことをライルは知らず、没落の道をたどることに。
一方アイーダの元には、これまで手が出せずにいた他の貴族たちから、たくさんのアプローチが贈られるのであった。
※三話完結
完璧すぎる幼馴染に惚れ、私の元を去って行く婚約者ですが…何も知らず愚かですね─。
coco
恋愛
婚約者から、突然別れを告げられた私。
彼は、完璧すぎる私の幼馴染に惚れたのだと言う。
そして私の元から去って行く彼ですが…何も知らず、愚かですね─。
お姉様から婚約者を奪い取ってみたかったの♪そう言って妹は笑っているけれど笑っていられるのも今のうちです
山葵
恋愛
お父様から執務室に呼ばれた。
「ミシェル…ビルダー侯爵家からご子息の婚約者をミシェルからリシェルに換えたいと言ってきた」
「まぁそれは本当ですか?」
「すまないがミシェルではなくリシェルをビルダー侯爵家に嫁がせる」
「畏まりました」
部屋を出ると妹のリシェルが意地悪い笑顔をして待っていた。
「いつもチヤホヤされるお姉様から何かを奪ってみたかったの。だから婚約者のスタイン様を奪う事にしたのよ。スタイン様と結婚できなくて残念ね♪」
残念?いえいえスタイン様なんて熨斗付けてリシェルにあげるわ!
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる