神匠レベルの木工建築士 ~ケチな領主から、コストを理由に追放された。戻ってと言われたが、もう遅い。フリーダムに職人の王国を作り上げます~

まさな

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■第一章 時代の荒波

第三話 現れぬ騎士

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「どういうことよ? ギルってアッシュの部下になる人なんでしょ?」

 話を聞いたレニアが言うが僕に聞かれてもよく分からない。
 
「そうだと聞いてはいるんだけどね……セバスさん、どうですか」

 僕は詳しい事情を知っているはずの老執事に聞く。

「ええ、配属は私も宰相閣下から直々に確認いたしましたし、この通り、アッシュ様の任命書にもギルの名が書かれております」

 巻物の羊皮紙を開いてセバスが見せてくれたが、僕がノースオーシャンの領主に任命されたことに加え、二人の部下、執事セバスチャン、騎士ギルの両名が配下となったことがそこに記されていた。国王のハンコと署名つきだ。間違いは無いだろう。
 
 となると、遅刻か急病かな?

「新しい領主のもとへ遅れてやってくるなんて、使えない騎士様ね。たるんでいるわ!」

「いえ、ギル殿は若いながらも悪竜フールババを倒した英雄でございますぞ。名家のお生まれで騎士の仕事ぶりも評判が良いとか。ただ……」

「ただ?」

「今回、新しく領主となられたアッシュ様は、もともと平民の御方。職人としては有名でございますが、世間一般にはあまり知られてはおりませぬ。そこにいささか、わだかまりがあるのではと推察いたします」

「ああ……」

「でも、王様が決めたことなんだから文句を言っても仕方ないでしょ」

 レニアは口を尖らせてそう言うが、ギルの気持ちも分からなくはない。僕だって新しい親方が専門外の素人だと聞いたら、ちょっとやる気が出ないかも。
 
「ですが、本人と会って話を聞いてみるのが一番かと」

「そうよ、うだうだ言うならケツを引っぱたいてでも連れて行くわよ!」

「お、おいおいレニア……」

 威勢はいいけど、相手は竜を倒すほどの腕前だ。それに暴力は良くないよ。
 
「ま、なら王都にまだギルはいるんだろ? とにかくこっちから迎えに行ってみようや」

 アイゼンさんが言うが、そうだな、まずは迎えに行ってみよう。
 
 馬車で王都に立ち寄った僕らは、ギルの家を訪ねてみた。

「立派な家だな」

 見れば分かる。
 門の頑丈そうな造り、そして配置が考え抜かれた庭。
 特に、右側には厩舎があった。
 普通は厩舎を正門から見えない裏庭などに配置する。しかしこの庭は、いざというときにはすぐにでも馬を走らせ、駆けつけようとする意思が垣間見える。武家の哲学が家の配置にまで現れているわけだ。家というものは、使う人間のために存在し、その住人の顔や生き方まで見せてくれるものなのだ。
 
「うーん、そう? 広い家だけど、花壇か何かもっと飾ると良いと思うけど」

 レニアが言うが、見栄えを気にするならそうだろう。僕は微笑み、中に入る事にした。
 門は開かれている。
 
 玄関の前まで向かい、ライオンを象った鉄輪ノッカーでドアを叩く。
 
「誰だ?」

 ぬっと中から顔を現したのは白銀の鎧を装備した大男だった。彼の頬には大きな傷跡がある。
 これがギルかな?

「初めまして。私は新しくノースオーシャンの領主を拝命したアッシュ=フォン=ウルマヤードと言います」

 貴族となったので、フォンという言葉が入り、名前が少し長くなった。

「おお、お前が成り上がりの新貴族か。フッ、見た目はただの大工だな」

 ニヤついた大男は蔑むように鼻で笑った。

「ええまあ、ついこの間までは普通の木工職人でしたので」

 服もそのままだったが、これはちょっとミスったな。

「あのね、アッシュはこれからあなたが仕える主人になるってのに、もう少し気を遣いなさいよ」

 レニアがそうたしなめると、大男が目を見開いて激怒した。

「なんだと! 誰に向かって口を利いている。オレは親衛隊長のサーマス=アルフレッドだ! お前らに仕えるのはオレじゃなくて弟のギルだろうが」

 弟、ということは、こっちは兄か。人違いのようだ。

「申し訳ございません、サーマス殿、名を聞く前とは言え、失礼を致しました。お許し下さい」

 横からセバスさんが頭を下げると、サーマスも居心地悪そうに姿勢を正した。
 
「む、いや、名乗りを返さなかった俺も悪かったようだ。気にしなくて良い。弟のギルは中にいる。会いたければ勝手に入れ。奴は今、動けぬからな」

「それは?」

「ではな。食あたりとはとんだ恥さらしだ」

 兄サーマスが厩舎のほうへ去っていったが、どうやらギルは食中毒で寝込んでいるらしい。
 
「ま、騎士様がお腹を壊してたら、ちょっと格好が付かないわよねえ」

「まあまあ、レニア、誰だってお腹を壊すことくらいはあるよ。とにかく、わざと会いに来なかったわけじゃなさそうだし、ギルはきっと僕らの味方になってくれると思う」

 僕は自信を持って言った。

「だといいけど」
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