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■第一章 時代の荒波
第四話 英雄ギル
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家の人に部屋の場所を聞いていくと、ギルがベッドの上で休んでいた。兄に似てゴツいのかと思ったら、ギルは優しげな目をした金髪の少年だった。
「やあ、ギル、調子はどうですか」
歳も変わらないようだし、親しみを込めて僕は話しかけた。
「こ、これは神匠アッシュ様」
「いや、別に様をつけなくてもいいんだけど。ああ、そのままでいいよ」
「そうはいきません、これから私の主となる御方、うっ」
「あら、本当にお腹を壊してたんだ。何か悪いモノでも食べたの?」
「それが、おととい、誰かが家の前に就任祝いのカードとともに肉を置いていってくれたのですが、どうもそれが古かったようで」
「あらら」
「事情は分かったよ。それならお腹の調子を整える薬草を煎じてあげよう」
「そんな、そこまで領主様にしていただいては……」
「いいのいいの。領民には元気でいて欲しいからね」
朝に花を咲かせるヘブンリー・ブルーという花の種を道具屋で買いに行き、それをすり鉢で粉末にして煎じた。これは強力な下剤になるのだ。
「ヘブンリー・ブルーの種ですか。薬草にも精通しておられるとは、さすがは神匠ですな」
セバスさんが感心してくれた。
「いえ、子供の頃にちょっと体が弱くて、色々調べただけなので、精通というほどでも」
「アッシュって本当に物知りなのよ。木は全部知ってるし」
レニアが自慢そうに言う。
「そりゃあ木は色々と試してみたいからね。じゃ、ギル、これを飲んでみてくれ」
「はい」
顔をしかめたギルは味が苦かったようだが、武人として育てられた彼は弱音を言わず一気に飲み干した。
「どう?」
「はい、少し楽になったような……ウッ!」
慌てて飛び起きたギルがトイレへ直行する。効果は抜群だな。
「ああ、ああああー、ぬおー! おおぅ……はぅー」
トイレから彼の辛そうな悲鳴が上がる。耐えろ、ギル。君ならできる。
「うわぁ、大変そう……」
レニアも同情した様子で肩をすくめる。
しばらくしてゲッソリした顔のギルが顔を見せた。だが、足取りはしっかりとしているし、落ち着いた表情だ。
「じゃ、もう大丈夫そうだね、ギル。水はしっかり飲んでおいたほうがいいよ」
「ええ、お手数をかけました」
少し休ませてやりたいところだが、ギルは自分から馬に乗り、出発を促した。
「さ、行きましょう! 皆さん」
すっかり元気になったようで、晴れやかな笑顔だ。これなら旅も大丈夫だろう。
僕らの一行が一頭の馬と三台の馬車を連ね、王都を北に向かって一日目。
だんだんと訪れる街の規模が小さくなっていく。それも先へ行くほど急激に。
道も細くなり、馬車の轍も見えなくなった。
人の往来が少ない証拠だ。
「ねえ、アッシュ、せっかく領主になれたのにこんなことを言うのは気が引けるのだけど、ノースオーシャンって凄く田舎みたいね。下手をしたらうちの街よりも小さいんじゃない?」
レニアが僕を気遣ってか、少し言いにくそうな表情で言う。
「まあ、そうかもね。新しい開拓地だから仕方ないよ。でも、良いこともあるよ」
「えっ、それはなあに?」
「領民が少ないなら、みんなの顔を覚えやすい」
僕はニッコリと微笑んで言う。
「ああ、それはそうね。ふふ」
「おう、そいつはありがてえな。アッシュが領主なら、文句だって言いやすいしな、ガハハ」
アイゼンさんが景気よく笑うが、そうだな、領主と領民が気兼ねなく相談できるような、そんな領地が良い。少なくとも相手が何をするか分からないような、びっくり箱のようなやり方では、事前の準備ができないし、みんなが混乱してしまうから。
僕らが和気藹々としていると、突然、先頭を行くギルが緊張した声で叫んだ。
「ムーンベアですッ! 皆さん、今すぐ馬車を止めて下さい!」
一同が真剣な表情で顔を見合わせる。
どうやら、とても厄介なモンスターが現れたようだ。
「やあ、ギル、調子はどうですか」
歳も変わらないようだし、親しみを込めて僕は話しかけた。
「こ、これは神匠アッシュ様」
「いや、別に様をつけなくてもいいんだけど。ああ、そのままでいいよ」
「そうはいきません、これから私の主となる御方、うっ」
「あら、本当にお腹を壊してたんだ。何か悪いモノでも食べたの?」
「それが、おととい、誰かが家の前に就任祝いのカードとともに肉を置いていってくれたのですが、どうもそれが古かったようで」
「あらら」
「事情は分かったよ。それならお腹の調子を整える薬草を煎じてあげよう」
「そんな、そこまで領主様にしていただいては……」
「いいのいいの。領民には元気でいて欲しいからね」
朝に花を咲かせるヘブンリー・ブルーという花の種を道具屋で買いに行き、それをすり鉢で粉末にして煎じた。これは強力な下剤になるのだ。
「ヘブンリー・ブルーの種ですか。薬草にも精通しておられるとは、さすがは神匠ですな」
セバスさんが感心してくれた。
「いえ、子供の頃にちょっと体が弱くて、色々調べただけなので、精通というほどでも」
「アッシュって本当に物知りなのよ。木は全部知ってるし」
レニアが自慢そうに言う。
「そりゃあ木は色々と試してみたいからね。じゃ、ギル、これを飲んでみてくれ」
「はい」
顔をしかめたギルは味が苦かったようだが、武人として育てられた彼は弱音を言わず一気に飲み干した。
「どう?」
「はい、少し楽になったような……ウッ!」
慌てて飛び起きたギルがトイレへ直行する。効果は抜群だな。
「ああ、ああああー、ぬおー! おおぅ……はぅー」
トイレから彼の辛そうな悲鳴が上がる。耐えろ、ギル。君ならできる。
「うわぁ、大変そう……」
レニアも同情した様子で肩をすくめる。
しばらくしてゲッソリした顔のギルが顔を見せた。だが、足取りはしっかりとしているし、落ち着いた表情だ。
「じゃ、もう大丈夫そうだね、ギル。水はしっかり飲んでおいたほうがいいよ」
「ええ、お手数をかけました」
少し休ませてやりたいところだが、ギルは自分から馬に乗り、出発を促した。
「さ、行きましょう! 皆さん」
すっかり元気になったようで、晴れやかな笑顔だ。これなら旅も大丈夫だろう。
僕らの一行が一頭の馬と三台の馬車を連ね、王都を北に向かって一日目。
だんだんと訪れる街の規模が小さくなっていく。それも先へ行くほど急激に。
道も細くなり、馬車の轍も見えなくなった。
人の往来が少ない証拠だ。
「ねえ、アッシュ、せっかく領主になれたのにこんなことを言うのは気が引けるのだけど、ノースオーシャンって凄く田舎みたいね。下手をしたらうちの街よりも小さいんじゃない?」
レニアが僕を気遣ってか、少し言いにくそうな表情で言う。
「まあ、そうかもね。新しい開拓地だから仕方ないよ。でも、良いこともあるよ」
「えっ、それはなあに?」
「領民が少ないなら、みんなの顔を覚えやすい」
僕はニッコリと微笑んで言う。
「ああ、それはそうね。ふふ」
「おう、そいつはありがてえな。アッシュが領主なら、文句だって言いやすいしな、ガハハ」
アイゼンさんが景気よく笑うが、そうだな、領主と領民が気兼ねなく相談できるような、そんな領地が良い。少なくとも相手が何をするか分からないような、びっくり箱のようなやり方では、事前の準備ができないし、みんなが混乱してしまうから。
僕らが和気藹々としていると、突然、先頭を行くギルが緊張した声で叫んだ。
「ムーンベアですッ! 皆さん、今すぐ馬車を止めて下さい!」
一同が真剣な表情で顔を見合わせる。
どうやら、とても厄介なモンスターが現れたようだ。
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