神匠レベルの木工建築士 ~ケチな領主から、コストを理由に追放された。戻ってと言われたが、もう遅い。フリーダムに職人の王国を作り上げます~

まさな

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■第三章 大地の中に

第一話 炭鉱のウワサ

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 翌朝、レニアの所に行ってみると、看病していた子供はすっかり元気になっていた。

「ほら、領主様もお前を看病してくれたんだぞ。お礼を言いなさい」

 父親が娘に言う。

「ありがとう、ですー!」

 可愛らしい女の子が頭を下げる。

「いいよ、お礼なんて。僕は何もしてないし」

「ですが、薬を分けて頂きました」

「薬は病人のためのものです。当たり前のことですよ」

「おお、ありがたい。ですが、お返しできるお金も今はございません」

「それもいいですから」

「ですが……」

 父親は気が済まない様子で、それならこう言ってやったほうがいいだろう。

「春には狩りか畑仕事をやってもらって、それで返して下さい」

「分かりました。必ず」

 そして誰もが待ちわびていた春が訪れた。と言っても雪がまだあちこちに残り、春らしさはない。雪が降らなくなった、というだけだ。
 
「なるほど、これはノースオーシャンも大変だなぁ」

 作物を植えるのも遅く、収穫は逆に早い。そうなればなかなか育てにくく、税収だって上がるはずもない。
 
「だが、王都では採れぬものも多い。税を納めるなら、毛皮や魔石がいいかもしれん」

 村長のバドが言う。
 
「そうですね。しばらくは魔石が中心になるかな」

 冬の間、ムーンベアの襲撃は何度もあった。その度にウッドゴーレムの『一式』を出動させ、柵で仕留めたムーンベアの魔石を回収している。毛皮も山ほど溜まった。
 
 ただし、それでは王都まで行かないと、こちらも必要なものが手に入らない。
 できれば自給自足がいい。
 そのためには――
 
「じゃ、最初は高炉を造ろう」

「おう、待ってました! まったく、冬の間はヒマでヒマで仕方なかったぜ」

 鍛冶職人のアイゼンさんが腕を回しながら言う。だが、彼も冬の間は囲炉裏で細工物をたくさん造っていた。職人はヒマさえあれば何かを生み出しているのだ。

「その高炉というのは何だ?」

 バドが興味を持ってくれたようで聞いてくる。最初に会った時は「帰れ」と言われてしまったが、今では領主として少しは認めてくれたのだろう。

「高炉というのは鉄鉱石を溶かして鉄を造る炉ですね」

「ああ、鉄を溶かすなら、高温でないとダメそうだな」

「ええ」

「何か手伝えることがあるか?」

「そうですね、バドさんたちは木を切り倒して下さい。本当は炭鉱があればいいのですが、今は雪が積もっていて探しようもないですし」

「ふむ……炭鉱か。実は十年くらい前、北のサースティフッドの近くで炭鉱を発見したという報告があったのだが、詳しい調査の前に雪が降り始め、それきり連絡が途絶えた」

「あるんですか、炭鉱!」

 僕は良い報せに興奮してしまった。

「場所は分からんぞ。サースティフッドの村の者はおそらくもう生きてはいまい。今となっては、場所を知る者はいないのだ」

 だが、ここから北のサースティフッドに行けば、炭鉱が見つかるかもしれない。

「アッシュ、別に焦ることはねえぞ。薪の木でも叩いて鉄を曲げるくらいはできるからな」

 アイゼンさんが言う。

「でも良い鉄の品を造るには、石炭のほうがいいですよね?」

「そりゃあ、まあな」

「じゃ、急ぎましょう。この地方の夏は短い。探すなら早いほうが良いです」

「分かった。じゃ、オレにウッドゴーレムを貸してくれ。アイツがいれば、一人でもなんとかなりそうだ」

 アイゼンさんが一人で行こうとするが。

「いえ、一人では探すのに大変ですから、僕も付いていきます」

 何かあったときにもウッドゴーレムだけで対処できないかもしれない。

「では、護衛として私もお供しますね」

「アタシも行く!」

 ギルとレニアも名乗りを上げた。

「なら、オレも付いていくとしよう。お前達では、サースティフッドの場所も分かるまい」

「お願いします、バドさん」

「なに、領主の頼みだ、そうかしこまらずとも聞くさ」

「そのわりには、口の利き方が領主みたいよねえ、ふふっ」

「むむっ、これは失礼した」

「いえ、今まで通りでいいですよ。僕も領主っぽい話し方には慣れていないですし、うちの領地は、気軽に領主が威張らずにやっていきたいのです。少なくとも、すぐに相談ができる領主にしたい」

「ふむ、確かに、上と報告や相談がなかなかしにくいようでは、領地の運営にも良いことにはならんな」

「ええ」

 僕もうなずく。
 
「では、日が昇っているうちに急ごう。と言っても野宿で片道八日はかかるぞ」

「「「 そんなに! 」」」」

 ノースオーシャンの広さはまるで国ひとつのようだ。ひょっとするとトルキニア王国より広いかも。
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