神匠レベルの木工建築士 ~ケチな領主から、コストを理由に追放された。戻ってと言われたが、もう遅い。フリーダムに職人の王国を作り上げます~

まさな

文字の大きさ
19 / 29
■第三章 大地の中に

第二話 雪上を疾走する

しおりを挟む
 僕らは炭鉱を探すため、北にあるというサースティフッドの村を目指して出発した。
 高炉で鉄を造るには良い石炭が必要なのだ。
 
 雲一つない空は、青みが深く、空気が綺麗に澄み切っている。地面はどこも真っ白だ。雪で覆われ、目印になるような物が無いから、自分がどの辺りを歩いているのかさえ分からなくなる。バドは森や山の形を頼りにしているのか、黙々と先頭を進んでいく。彼がいなかったらサースティフッドはまず見つけられなかったことだろう。ときどき吹く風は冷たく凍てついていて、わずかに太陽の光が頬を暖めてくれるだけだ。

「無理! 歩きにくい!」

 少し歩いたところで、レニアがすぐに音を上げてしまった。
 足に雪がまとわりつき、地面もきちんと踏めないので、これは慣れていないと歩くのは難しい。
 
「なら、お前は一人で戻れ」

 バドが振り向きもせずに言う。

「嫌よ!」

「ワガママな奴だ」

「アッシュは、何とかしてくれるわよね?」

 期待した目で無茶を言ってくれる。僕におんぶして歩けとでも? さすがにそれは僕だって無理。
 だけど……
 
「そうだね、これを八日間も歩くのは僕もキツいし、もっと早く、楽に移動する方法を今、思いついたよ」

「さっすがぁ! で、どうするの?」

「まず、そこの木を切り倒して、板を造ろう」

「分かったわ。ほら、なぎ払え! 『一式』」

「ソノ命令ハ、目的ニ照ラシテ、適切トハ思エマセン。切断ヲ実行シマス」

「もう、いまいちアタシの言うことを聞かないんだから、コイツは」

「賢いですね……本当に中に人間は入っていないのですか?」

 ギルが疑うが、中の人などいない。
 ウッドゴーレムの思考は、細かく刻んだ木に魔石の魔力を通す回路によって構成されているのだ。ただ、これを説明すると普通の人はちんぷんかんぷんだからなぁ。

「いないよ。代わりに大地の精霊を入れてるんだ」

 仕方ないのでいつもの『分かりやすい説明』にしておく。

「おお、なるほど」

 これでよし。
 『一式』が板にしたものを僕がさらにノコギリで加工し、『そり』を造ってみた。
 
「あっ、『そり』ね!」
「なるほどな」

 王都やラピュドーラ領にも雪が積もるときがあるので、みんな『そり』を知っている。
 それをロープで『一式』に引っ張ってもらった。
 
「わぁー、速い!」
「あ、アッシュ様、これは速すぎませんか?」

 雪の上を滑るようにスイスイ走る『そり』。ギルが安全性を気にしたようだ。

「大丈夫じゃないかな。障害物があれば『一式』が感知してくれるし」

「しかし、このスピードは――うわっ、跳ねた!」

「ギル、口は閉じておいたほうがいいぜ。舌を噛んじまう」

「やっぱり速すぎでしょうぅううううう――――!!!」

 ギルが絶叫するが、雪の上なら落ちて転んでもそれほど酷い怪我にはならないはずだ。僕もちょっぴり怖かったが、目的地には早く到着するほうがいい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!

黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ、平凡な人生を終えたはずのサラリーマン、ユウキ。彼が次に目覚めたのは、剣と魔法の異世界だった。 「あれ?なんか身体が軽いな」 その程度の認識で放った小石が岩を砕き、ただのジャンプが木々を越える。本人は自分の異常さに全く気づかないまま、ゴブリンを避けようとして一撃でなぎ倒し、怪我人を見つけて「血、止まらないかな」と願えば傷が癒える。 これは、自分の持つ規格外の力に一切気づかない男が、善意と天然で周囲の度肝を抜き、勘違いされながら意図せず英雄へと成り上がっていく、無自覚無双ファンタジー!

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...