神匠レベルの木工建築士 ~ケチな領主から、コストを理由に追放された。戻ってと言われたが、もう遅い。フリーダムに職人の王国を作り上げます~

まさな

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■第三章 大地の中に

第三話 ホワイトウルフ

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「警告! 五十メートル先ニ、複数ノ熱源ヲ感知シマシタ。モンスターノ恐レ有リ。停止シマス」

 景気よく進んでいた僕らの『そり』だったが、前を引っ張るウッドゴーレムの『一式』が警告を発した。

「おい、オレ達の出番だぞ、ギル」

「はいっ!」

 さきほどまで悲鳴を上げていたギルだが、『そり』が止まる前に飛び降り、剣をバドとともに構えた。

「いたわ! あそこ! 白い犬?」

「いや、あれは『ホワイトウルフ』だ。仲間を呼ぶから、さっさと片付けるぞ!」

 バドがそう言って斧を持って突進する。
 ギルも並んで『ホワイトウルフ』の群れに向かう。
 『一式』はその場に停止したまま、僕らの護衛だ。

「ガウ! キャイン!」

 飛びかかろうとした『ホワイトウルフ』がバドの一撃によって逆に吹っ飛ばされた。宙に弧を描いて落ちると地面の雪を赤く染める。

「邪魔はさせないッ!」

 ギルも負けじと剣を振り下ろし、『ホワイトウルフ』を連続で倒した。

「よしっ、いけいけー!」

 レニアが余裕の表情で応援しているが、今のところは『一式』を援護に行かせなくても大丈夫のようだ。二人とも動きは『ホワイトウルフ』よりも俊敏で強い。負ける気がしないな。
 
「ん? あれは」

 僕は群れから離れた『ホワイトウルフ』の一匹が立ち止まって空を見上げた動作が気になった。
 こんなときに、何をしているのだろう?

「いかんっ、仲間を呼ぶぞ、早く倒せ!」

「くっ、遠い!」

 バドとギルは群れに囲まれており、すぐにはあの一匹を倒せる位置にいない。
 それなら――

「『一式』、【ノイズキャンセラー】だ!」

「了解、【ノイズキャンセラー】発動シマス」

 『ホワイトウルフ』が遠吠えの動作をしたが、音は聞こえなかった。

「むむっ、今のは、何だ?」

「それより、早く! はぁっ!」

 ギルが駆け込み、遠吠えをしている『ホワイトウルフ』を倒す。
 残りもバドが片付け、戦闘が終わった。

 二人がどういう仕組みだと問う顔でこちらを見るので、僕も説明を試みる。

「音は空気を震わせる波なんだけど、これとそっくりな波を反対からぶつけてやると、音が消えるんだ」

「なるほど、分からん」
「うーん……」

 二人の目つきがうろんになったので僕は微笑む。

「まあ、『一式』が音を消せるって覚えていてくれたらいいよ。魔石だけ取って先に進もう」

「承知した」「了解!」



 その後も順調に『そり』は走り続け、どうやら目的地に到達したようだ。

「止まれ! ここがサースティフッドの村の跡地だ」

 バドがそりから降りると、垂直に突き出ている雪の棒に近づく。
 彼はそれを手で優しく払いはじめた。すると、そこには錆びた剣の柄が現れた。剣が地面に突き刺さって雪に埋もれていたのだ。
 剣がたった一本だけ。

「やはり、全滅か……」

 その下を確認したバドが口を真一文字にしたまま、黙り込む。
 おそらく、ここにいたのは彼の部下達だったのだろう。

「バドさん……」

「すまん、時間を取らせたな。炭鉱は東の山にあると聞いている。まずはその山を探してみよう」

「分かりました」

 再び『そり』に乗った僕らは、注意深く地形を見ながら進む。

「あっ、あそこ、盛り上がってるわ。山じゃない?」

 一時間ほど『そり』を東に走らせた僕らは、それらしき山を見つけた。

「ですが、これでは、そこに炭鉱があったとしても、雪で埋もれていて探しようが……」

「大丈夫よ、ギル。どんな不可能に見えることだってアッシュならやってのけるんだから、ね!」

 レニアがニッコリとウインクしてくれたが、僕だってそうなんでもできるわけではない。
 ただ、ここで試してみたいことは思いついていた。

「『一式』、非破壊センサーモード」

「了解、炭素ヲ、サーチシマス」

 僕が命じるとウッドゴーレムは首をゆっくりと回し、炭の塊を探し始める。

「ピピッ! 前方百メートル付近ニ、膨大ナ、炭素ノ波長集合体スペクトルヲ発見」

「よしっ、見つけた。行こう」
「レッツゴー!」

「な、なんですか、そのゴーレムは……」
「なるほど、分からん!」

 二人があきれているが、まぁ、すぐに慣れるだろう。見えない光の反射云々の解説は省いておく。

 山の中腹には崖があり、黒い地層がそのまま見えていた。

「やった、石炭だ! それもこんなにたくさん!」

「なんだか綺麗ねえ」

 レニアが見とれたが、光沢を帯びた石炭の地層は、まるで黒い宝石のように光り輝いている。

「よーし、これだけありゃあ、何年でも高炉が動かせるぞ。鉄を作り放題だ!」

 アイゼンさんも気合いが入ったようで腕を回す。

「ちょっと待って、その鉄はどこから持ってくるの?」

 レニアが疑問を抱くのも当然だ。
 
「なぁに、川の曲がり角の砂を磁石で探せば、すぐ見つかるぜ」

 アイゼンが何でもないというふうに答えた。

「へぇ。あ、砂鉄ね」

「そういうこった」

 さあ、次は鉄造りだ。
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