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■第四章 泣きやまぬ雨
第四話 破滅の二人
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石橋の上にいたのは、幽霊などではなかった。
二人とも、生きている人間だ。
その証拠に、二人は焦燥した声で相談しあっていた。
「もうやめましょう。女官達の間でも騒ぎになってしまって、これ以上会うのは危険よ」
「だから、一緒にここから逃げようと、先月に話しただろう!」
「そんなの、無理よ。見つかったら、どんな目に遭うか」
「くそっ、お前が、後宮の女官にさえならなければ……」
「ごめんなさい」
「いや、お前のせいじゃない。村の誰かが、美人だと推薦したからだろう。俺がもっと早く、結婚を申し込んでさえいれば……」
「あなたのせいじゃないわ。一人前の兵士になるって、それがあなたの夢だって子供の頃からいつも言ってたじゃない。でも、どうしてこんなことに……うう」
うーわー、辛いわぁ。
「俺は男を押さえる。玲鈴、お前は女を捕まえろ」
「あの、陽翔様、このまま見逃してやるというわけには……」
「ダメだ。すでに騒ぎが大きくなっているからな。ここでケリはつけねばならん。だが、やりようはいくらでもあるぞ。とにかく捕まえろ」
「分かりました」
何やら陽翔に考えがある様子なので、それを信じて動くことにする。
彼は根っからのサディストではあるし、嘘も平然と言ってのける男だが、ここで私に嘘を付くとは思えなかった。
「そこまでだ、二人とも観念しろ!」
「くっ、見つかった! 逃げろ!」
「逃げて!」
「待って! 陽翔様が上手く取り計らってくれるはずだから!」
私は橋の上に向かったが、あ、ダメだこれ、追いつけないパターンだわ。
まずい、ここで逃がしてしまうと、陽翔はお役目上、捜索隊を編成するしかないだろうし、そうなるとやりようがなくなるかも。
「任せろ」
横で白狼が大きくなると、女の影に飛びかかった。
「きゃっ」
「白狼! 怪我はさせちゃダメよ!」
「分かっている。これでいいな」
足で押さえつけてはいるが、爪も牙も使っていない。賢い狼で助かった。
◇
一週間後、黄晶《きしょう》宮の執務室で、陽翔からあの二人のその後が聞けた。
「二人とも職務怠慢で追放処分とした。給金は支払ってやったから、それで暮らして行けるだろう」
「良かった。でも、割と甘い処分でしたね。いつもこうなんですか?」
「馬鹿を言うなよ? これが表沙汰になれば、俺の首も飛びかねん。だからいいか、幽霊は俺のおかげで出なくなったし、この件と職務怠慢の件はまったくの無関係だ。そこは誤解するなよ」
「なるほど」
あの石橋の上に新月の度に密会していたのはあくまで幽霊であり、不審者ではなかったという筋書きらしい。
「でも、ちょっとほっとしたというか……私、陽翔様のことを誤解していました。出世のためには手段を選ばないサディストだとばかり」
「当然だ。出世のために手段を選んでいては上がれるものも上がれなくなる。今回、幽霊であったほうが俺の手柄が大きい、そう判断したまでだ」
「ううむ、なるほど……」
陽翔は陽翔のままだったか。ちょっと良い人かもと思ってしまった私はまだまだのようだ。
二人とも、生きている人間だ。
その証拠に、二人は焦燥した声で相談しあっていた。
「もうやめましょう。女官達の間でも騒ぎになってしまって、これ以上会うのは危険よ」
「だから、一緒にここから逃げようと、先月に話しただろう!」
「そんなの、無理よ。見つかったら、どんな目に遭うか」
「くそっ、お前が、後宮の女官にさえならなければ……」
「ごめんなさい」
「いや、お前のせいじゃない。村の誰かが、美人だと推薦したからだろう。俺がもっと早く、結婚を申し込んでさえいれば……」
「あなたのせいじゃないわ。一人前の兵士になるって、それがあなたの夢だって子供の頃からいつも言ってたじゃない。でも、どうしてこんなことに……うう」
うーわー、辛いわぁ。
「俺は男を押さえる。玲鈴、お前は女を捕まえろ」
「あの、陽翔様、このまま見逃してやるというわけには……」
「ダメだ。すでに騒ぎが大きくなっているからな。ここでケリはつけねばならん。だが、やりようはいくらでもあるぞ。とにかく捕まえろ」
「分かりました」
何やら陽翔に考えがある様子なので、それを信じて動くことにする。
彼は根っからのサディストではあるし、嘘も平然と言ってのける男だが、ここで私に嘘を付くとは思えなかった。
「そこまでだ、二人とも観念しろ!」
「くっ、見つかった! 逃げろ!」
「逃げて!」
「待って! 陽翔様が上手く取り計らってくれるはずだから!」
私は橋の上に向かったが、あ、ダメだこれ、追いつけないパターンだわ。
まずい、ここで逃がしてしまうと、陽翔はお役目上、捜索隊を編成するしかないだろうし、そうなるとやりようがなくなるかも。
「任せろ」
横で白狼が大きくなると、女の影に飛びかかった。
「きゃっ」
「白狼! 怪我はさせちゃダメよ!」
「分かっている。これでいいな」
足で押さえつけてはいるが、爪も牙も使っていない。賢い狼で助かった。
◇
一週間後、黄晶《きしょう》宮の執務室で、陽翔からあの二人のその後が聞けた。
「二人とも職務怠慢で追放処分とした。給金は支払ってやったから、それで暮らして行けるだろう」
「良かった。でも、割と甘い処分でしたね。いつもこうなんですか?」
「馬鹿を言うなよ? これが表沙汰になれば、俺の首も飛びかねん。だからいいか、幽霊は俺のおかげで出なくなったし、この件と職務怠慢の件はまったくの無関係だ。そこは誤解するなよ」
「なるほど」
あの石橋の上に新月の度に密会していたのはあくまで幽霊であり、不審者ではなかったという筋書きらしい。
「でも、ちょっとほっとしたというか……私、陽翔様のことを誤解していました。出世のためには手段を選ばないサディストだとばかり」
「当然だ。出世のために手段を選んでいては上がれるものも上がれなくなる。今回、幽霊であったほうが俺の手柄が大きい、そう判断したまでだ」
「ううむ、なるほど……」
陽翔は陽翔のままだったか。ちょっと良い人かもと思ってしまった私はまだまだのようだ。
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