後宮の絵師〜皇妃?いいえ、私は虹の神になりたいのです〜

まさな

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■第四章 泣きやまぬ雨

第三話 試練

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「陽翔、あまり不遜な態度でいると、いずれ後悔することになりますよ」

 やってきた陽翔に、天文博士は柔らかな表情のままで小言を言う。

「ふん、水蓮すいれんよ、お前の占いが当たる保証がどこにある」

「私の占いなどではなく、あなた自身が小夜啼鳥サヨナキドリのさえずりを聞いたのでしょう?」

「それはそうだが、こいつがそうだとは限らんぞ」

「『竜門の鯉』が他にいると?」

「さてな」

 前にも言ってたな、鯉だの鳥だの。どうも私に関わる占いのようだけれど……。

「あの、竜門の鯉とか、小夜啼鳥ってなんですか?」

「お前の知らなくて良いことだ」

「そうですね、知らないほうが良いでしょう。今はまだ」

 思わせぶりだなぁ。ケチ。

「じゃ、さっさと幽霊退治に行くとするか。黒曜宮の徳妃とくひにはさきほど許可を取った」

 陽翔が言うが、なるほど、黒曜宮の幽霊騒ぎに彼も担ぎ出されたようだ。それで私がアシスタント役としてご指名されたと。ようやく納得がいった。

「念のため、白狼も連れていってください」

「水蓮、式神を連れていくと、余計に騒ぎになると思うが?」

「では、白狼、もう少し目立たぬ姿に」

「これでよいか、主よ」

「おお、縮んだ。凄ーい」

 狼が子犬くらいの大きさになった。

「これしきのこと、造作も無いこと。我が姿は獣ならば自由自在よ」

「おおー、じゃ、あのあのあの、猫ちゃんでも?」

「この通りだ」

 子犬が白い子猫になった。

「あー、白猫可愛い~モフモフ~」

「お、おい、触るな」

 嫌がる白狼ちゃんだけども、可愛いとモフモフは正義だから。アゴの下を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らして白狼ちゃんもまんざらでもなさそうだ。

「ふむ、上手く式神を手懐てなづけましたか。これで問題ないでしょう」

「よかろう。では、行くぞ」

 再び牛車に乗った私と陽翔と白狼ちゃんは、そのまま南の黒曜宮に向かった。

「陽翔様、あの天文博士とは仲がいいのですか?」

 トロい牛車では退屈なので話を聞いてみる。

「別に仲が良いというほどではないが、そう水蓮すいれんとは幼馴染みでな。あいつは子供の頃から人に見えぬモノが見えると言って、周りからは気味悪がられていた。いつも目を閉じているのは、そうしていれば、余計なモノを見ずに済むからで、目が見えぬわけではない」

「なるほど、結構大変な生い立ちの人なんですね」

「そうかもしれないが、出世にあまり興味を持たぬ面白みの無い男だ」

 堅実そうで、何よりです。
 目的地に着いたので、私達は牛車を降り、黒曜宮の宦官に案内してもらった。

「ここが幽霊が出たという場所か」

「はい、陽翔様、そこの池の上の石橋によく現れるようでして……」

 宦官がおっかなびっくり答えるが、私も陽翔も目配せしてうなずき合う。
 これ、幽霊とかじゃなくて、普通に人間だと思うし。
 
「おかしな気配は無いな」

 白狼ちゃんも言う。
 
「顔を見た者はいないのか?」

「いいえ、新月の夜のことで、暗くて顔は見えませんから」

「そうか……指の印を探そうにも、石橋では難しいか」

 指紋が残っているかどうかを陽翔が考えたが。

「そうですね。この石のざらつき具合では、ちょっと無理でしょう。石橋に手を当てていたとも限りませんし」

 私も言う。

「今回は指の印も似顔絵も使えぬか。これは思っていたよりも難しいかもしれんな」

「陽翔様、そこをなんとか。女官達も怖がって仕事をしたがらず、我らもほとほと困っている次第でして」

「ふん、軟弱な奴らめ。まあいい。ちょうど今夜が新月だ。見張るとしよう」

「おお、ありがとうございます」

「ご武運を、陽翔様。では、私はこれで」

「おい、玲鈴、お前も見張るのだぞ」

「えぇ……? まあ、言われると思った」

 私が見張って意味があるのか疑問だが、陽翔様のヒマ潰し相手だろうなぁ。
 なぜこんな人に目を付けられたのか、ハァ……。

 夕食を済ませた後、雨の中、私達は茂みの中で傘を持ってひたすら待つ。
 陽翔は黒塗りの傘を用意していて、これなら夜は見つかりにくい。
 ただ、私と陽翔が相合い傘なので、ちょっと緊張する。

「どうした、玲鈴、やけに口数が少ないな。寒いのか?」

「いえいえ、全然、問題無いですから、あはは……」

 傘を持てと言われるかと思ったが、陽翔は文句も言わずにじっと石橋を見張っている。こういうところはさすがだね。まあ、自分の出世のために、頑張っているのだろうけど。

「でも……幽霊の正体を見つけたとして、男のほうはどうなるのでしょう」

 私は懸念を口にする。
 ここは後宮である。夜中に生きている・・・・・男が入り込んでいい場所ではないのだ。

「決まっている。死罪、それ以外にあり得ぬ」

「でしょうね……なんでまた、こんな所へ」

「他に会う手段がないのであろう。下級の女官は一度召し上げられたが最後、一定の年齢になるまでは外に出られぬ仕組みだからな」

 私はちょくちょく外へ出られている気がするが、特別扱いなのだろう。それに、付き添いの人もいたか。

「陽翔様には、幼馴染みの女性はいますか?」

 興味本位で聞いてみる。

「一人いるな。黄晶きしょう宮のはっぴんだ」

 『八賓』とは、『才女』の一つ上の位で、『妃』に次ぐ地位であり、それぞれの宮に二人しかいない女官だ。

「えっ、黄晶きしょう宮に? それなら、あの殺人事件の時も、私に話を聞かずとも、その人に聞けば……」

「そうはいかない。迂闊うかつに位の高い知り合い・・・・に会うと余計な誤解を招きかねん。ここが後宮だということを忘れたか」

「ああ……」

「それに、八賓ともなると、下級の女官のことには疎いだろうからな。接点があまりないだろう」

「そうですね」

 私は特別扱いで賢妃様とよくお茶会をさせてもらっているが、本来は才女や八賓だけがご相伴にあずかれるのだ。前は春菊に生意気だとやっかみを言われた事もあったし。
 
「ちなみに、その方はどういう感じの……」

「黙れ」

 ひょっとして地雷を踏んじゃったかと一瞬焦ったが、そうではなかった。

「――見ろ、来たぞ」

「うわ」

 闇夜の橋の上、二人の人影が動いているのが微かに見えた。
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