後宮の絵師〜皇妃?いいえ、私は虹の神になりたいのです〜

まさな

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■第四章 泣きやまぬ雨

第二話 陰陽寮

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 陰陽寮とは、吉凶を占う機関であると同時に、様々な国事や政の日程を決定する機関だそうだ。当然、後宮の外にあり、私は宦官に付き添われ牛車に乗ってそこへ向かった。
 ちなみに牛車は見た目みやびな感じだったけれど、やっぱり歩くのと同じくらいトロいので、結構時間がかかった。

「では、玲鈴、相手は正四位の高貴な御方、くれぐれも粗相のないように」

「はぁ」

 苦手なんだよね、高級官吏って。ちょっとでも下手をすると私の首が文字通り飛びかねないし。陽翔と同じ階位なら、貴族の可能性が高い。
 とはいえ、ここまで来てすっぽかすわけにもいかないか。

「よし!」

 私は自分に気合いを入れ、大きな門をくぐった。

「広いなー」

 門の向こうは中庭がずっと広がっており、石畳の通路が真っ直ぐ建物に向かって伸びていた。
 どことなく神社に雰囲気が似ている。
 人の往来はなく、ちょっと重い傘を持った私は、トボトボと歩く。
 
 そのとき――唐突に上から大きな獣が飛び降りてきた。

「うわっ!」

 人よりも大きな犬、いや、これは狼?
 純白の狼が私の前にいる。その冷酷そうな瞳は金色に光り、鋭い牙と大きな爪は私の首など簡単に引きちぎってしまいそうだ。

 え? なにこれ。私、ここでゲームオーバー?

「ふん、『竜門の鯉』が聞いてあきれるではないか。胆力の欠片も無い小娘か」

「しゃ、喋った!」

 狼が喋りだしたので私はさらにビックリしてしまったが、そんなことよりも逃げないと。
 ここには助けてくれそうな陽翔もいないのだ。

「くっ、ひゃっ」

 回れ右をして走り出そうとしたら、慌てすぎたようでつまづいて体勢が崩れた。

「おい!」

 素早く回り込んだ狼が私の体の下に入り込んで、あれ? これって……助けてくれた?

「まったく、何も無いところで転ぶな。ヒヤリとしたぞ」

「はあ、すみません。ちなみに、あなたは? ひょっとして天文博士様で?」

「バカを言うな。お前は人間と獣の区別もつかんのか。我は式神、主である天文博士がつかわした案内役にして、お前の護衛だ」

「ええ? 護衛……?」

 頼んでないし、それ以前に、こっちを怖がらせるって護衛としてどうなのか。まあ、怪我はしてないんだけども。

「とにかく風邪を引かれても面倒だ、早く傘を持て、玲鈴」

 器用に傘をくわえた狼から受け取り、私も気を取り直す。

「こちらだ。付いてこい」

「どうも」

 建物に上がり、廊下を奥へ奥へと進むと、ようやくここの職員らしき官吏とすれ違った。彼らもこの狼はちょっと怖いようで、顔を引きつらせ、すぐに道を譲ってくれる。

「狼さん、ここの人達にも怖がられてますね」

「当然だ、主の権威を見せつけるべく、常に威圧して脅してやるからな」

「はぁ、そうですか……」

 そんな主なんて、会わずに帰りたい。

「ここだ」

 狼が案内したそこは、神殿を思わせる広間になっており、壁には至る所にびっしりと護符が貼り付けられ、燭台が等間隔に並べられていた。
 その一番奥には、縄で結界のように囲いを作り、その中央であぐらを掻いて座り、ブツブツと何かを唱えている白装束の男がいた。

 帰りてえ……

「主よ、連れて参ったぞ」

「ご苦労様です」

 静かにそう言って立ち上がった天文博士は、思ったよりずっと若い男性だった。陽翔と同じく、二十代前半だろう。声を聞かなければ女性と間違えそうな柔らかな顔つきをしており、美形だ。艶のある長い黒髪。彼はなぜか目を閉じたまま、私を見た。

「濡れていては風邪を引くかもしれません。白狼はくろう、布を彼女に」

「承知した」

 台座に備えられていた布をくわえて白狼が私に布を渡してくれた。白狼さんの唾液でベトベトになっていたら嫌だなぁと思ったが、そんなこともなく綺麗に乾いている。私は安心して髪を拭かせてもらった。
 
「どうも。あの、それで私に何を?」

「ふむ……これが次代の器ですか。いささか、心許ない」

 器?

「胆力も欠けておるぞ、主よ」

「まさか試したのですか? ふう、分をわきまえなさい、白狼」

「む、申し訳ない」

 もっと叱ってやって下さいよ、と思ったけれど、あとで白狼さんが根に持っても困るので、私は黙っておく。

「私の式神が失礼をしてしまったようです。お許しを」

「ああ、いえ、別に」

 この人って私よりずっと地位が上だよね? やけに下手の態度だ。

「玲鈴、あなたには一つ、試練……いえ、頼まれごとをしていただきます」

水蓮すいれん、そんな奴に遠慮はいらないぞ」

 聞き覚えのある声がして、後ろから銀髪の男、陽翔が入ってきた。
 嫌な予感がしたけれど、この二人、知り合いかぁ。
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