神なき島の物語

銭屋龍一

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3 わたしのすべきことと、その作戦

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 ナウと、言葉のやり取りを、苦労しながらも行なって、かなりの情報を得ることができた。
 税の話しでは、ここは、オカ、と呼ばれている地で、土地が肥沃なため、作物がよく獲れるらしい。それでここに住みたいという人間は、たびたび訪れてくるようだが、今のわたしの立場と同じく、このオカの役に立つ何かを持っていなければ、ここに住むことは許されないとのことだ。よって、この地に住むだけで、税を取られるという。その税は、いも、まめ、こるし、と獲れた作物で納めるものがひとつ、このオカでの作業に出ることが残りの税とのことだ。作業は、オカの回りを取り囲んでいる柵を直したり、オカの共同倉庫である、クラを直したり、王であるタワの大きな家を直したり、村の中の小道の維持整備をしたり、オカで使用する水を、山の小川から汲んできたり、だという。また、この作業の代わりに、得意なこと、料理をしたり、衣服の麻布を編んだり、と、そのようなことでも税となるらしい。
 家は、個人で所有できるとのことだ。ただし、個人所有をタワに申し出て、許可が下りれば、だという。その許可は年に2回、春分と秋分に、許可と更新が行なわれ、個人所有の家を持つ者は、その見返りに、タワへ、それに対する税を、別途、支払わなければならないとのことだ。作物を作っているのは、ハタ、と言い、これも個人所有が許されるとのことである。一見、このオカの共同農地のように見えるが、それぞれの範囲で個人が所有していて、家と同じ仕組みで税を納めることとなっているとのことだ。
 家も、ハタも、個人所有は行なわず、使用人のような立場にいる者もいるらしい。この者たちは、家や、ハタの、税は納めなくてよいが、作業をした分として、採れた作物が、働きに見合ったほど渡されるだけで、それだけでは生活は苦しいらしい。だから、出来るだけ、家もハタも個人所有したいという者のほうが多いらしく、実際、ほとんどの者が個人所有しているという。払う税負担は、けして小さくはないが、それでも肥沃な土地のお陰で、貯蔵に回せるほど作物は収穫できるとのことだ。ここまでであれば、税負担はあっても、それなりに幸せな暮らしができていたとのことだ。
 問題なのは、イズモが、作物を盗りに来ることにあるという。オカにとっても、魚や貝は欲しいものであり、そのため、イズモに見つからないようにして、海まで行って獲ることもするという。だがこの行為は、イズモにバレているとのことだ。だから、イズモも、オカにやって来て、作物を得るのは、当然の権利だと思っているところがあるらしい。
 それは確かにそうなるだろう。
 そのイズモに、作物を奪われないように、タワが戦うとのことだ。最初は、タワと10人程度の戦士がいれば、イズモを追い払えたという。イズモも、襲撃を工夫して、夜中に柵を破って忍び込むようなこともしたらしい。互いにその行為は、過激になっていき、イズモの人数も増えてきて、それに伴って、タワが集める戦士の数も増え続けているという。そのため、イズモに襲われる度に、タワは別途税を取るようになったというのだ。これはかなりの重い税負担となったと、ナウは言った。なぜなら襲撃の回数も増えてきて、貯蔵していた作物まで差し出さなければならないところにまできているからだという。
 だが、イズモの襲撃は止まらない。タワも戦いの準備に追われていて、さらなる税負担を求めてきているとのことだ。しかしもうナウたちには追加で税を払える余力がなくなりつつあり、八方ふさがりの状態であるらしい。
「イズモの襲撃を止めさせることができたならば、タワは、わたしを評価してくれるかな?」「イズモ、ここ、くる。イズモ、ここ、こない、ソキ、やる。タワ、ソキ、できる。ここ、すむ、タワ、よい」
「タワ、よい。ここ、よい。ソキ、ここ、よい」
 どうやら、それができたならば、タワは、わたしをここに住まわせてくれそうだ。
 どのように、それを行なうのかを、ナウに説明した。
 複雑な交渉ができるほど、わたしは、ここの言葉に慣れてない。大事なことだから、間違って伝わっては大変なことになる。それで、タワへの説明は、ナウに頼みたいのだ。
「よい。ナウ、いう、タワ。ソキ、ある、タワ、いう」
 ナウは、どうやら、わたしの作戦に賛同してくれたようだ。
 タワが、それにのってくれたら、わたしの、ここでの戦いが始まる。
 
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