神なき島の物語

銭屋龍一

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5 世界の姿を少し知る

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 オカの門を出る。
 少し歩くと、すぐに腰ほどの高さの草が生繁っているばかりとなる。その先は、もう森だ。
「この先に道はあるのか」「ミチ、何?」
 わたしはナウに問う。
 何度にもわたる言葉のやり取りをして、ようやく、ここの仕組みが少しわかった。
 オカはここら辺りでは、裕福なところとして名高いらしい。ただそういう噂が流れているだけで、実際のオカを見た者は少ないという。なぜなら、オカの場所が簡単にみつからないように、自然をそのままにして、わざと草木を周りに茂らせているという。ここからイズモに向かうには、右手に大きく回ったところにある谷を下り、川沿いを進む必要があるとのことだ。
 だがそんな仕組みであったため、イズモから見ると、オカへの侵入は割と容易くできるという。イズモは、ここら辺りのほかの者たちとは、少し違う文化を持っているらしい。そして恐れられているともいう。ほかの者たちが、オカにたどり着くためには、途中でイズモが支配する領域を通らざるを得ない。それはあまりにも危険な行為だ。だからそこを突破してくるものは、極端に少ない。
 そしてまた、イズモにとっては、自分たちの地を通らなければ、オカに行きつけないという点を利用して、オカから奪った穀物を使って、周りの者たちから、自分たちの欲しいものと交換して、暮らしているらしい。
 イズモのその仕組みは、わたしには好都合だ。まさにそれを、武器にして戦おうとしているのだから。
 渓谷に下りると、いかにも進みやすくなった。
 もともとの河原も歩きやすかったのであろうが、イズモがたびたびオカを襲うためにここを通り、帰りは奪った穀物を抱えてここを通るのだ。自然と道ができただろうことは、容易に想像がつく。イズモは、己の武力が強いという認識を持っているのだろう。だから簡単に自分たちの領域は侵されない。よって、この道を隠す必要もなかったのだろう。
 川の流れは速い。つまりオカからイズモへの道はかなり急な下り坂だということになる。
 イズモからみれば、まさに丘と呼べる高台に、オカはあるわけだ。
 日の差す角度が、はっきり変わったと、わかるくらいは歩いた。小一時間ばかりくらいであろうか。
 ナウが突然立ち止まった。身をかがめる。わたしにも同じようにしろと、身振りで伝えてくる。
 なるほど。どうやらイズモにこちらの動きを察せられたらしい。どこかに、侵入を知らせる、からくりでもあったのだろうか。
「イズモ、ひと、ひと、ひと。ここ、いる。ここ、はいれない。イズモ、くる。ソキ、ころす」
 要するに、すでに周りを囲まれていて、逃げることもできないというのだろう。だが殺されるのは、わたしだけとも。ナウだけならば、ここからの脱出に自信があるということが言いたいのであろう。
「隠れる必要はない。イズモと交渉をしにいくのだ。堂々と進もう」
 いくらかのやり取りで、ナウは理解したようだ。かがめていた体を起こすと、わたしに進むべき方向を、指さして示した。
 わたしはナウが示した方向に、ゆっくりと歩みを進めた。
 少し進むと、周り中から、奇声が沸き起こった。
 
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