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37話
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日もとっぷり暮れて、私とシンティオは洞窟から近い場所にテントを張って、火を囲んでいた。
今日はここで野宿する。連れ帰った毛むくじゃらの大男と共に。
黄金のリンゴの件もあるし、何より出入りするにはシンティオに竜の姿になってもらわないといけない。
人に竜の姿を見せることは掟に反することだから、私とシンティオは薬草や食料など必要なものを洞窟から持ち出して、大男の介抱をすることにした。
大男は右足首を捻挫していて、腫れを抑える湿布を貼っていると目を覚ました。
のそりと起き上がると最初は状況を理解していない様子で目を白黒させていた。
私が経緯を話すと、あの一件を思い出したのかぶるりと震えてカチカチと歯を鳴らす。
それも束の間、彼は目の前で煮えたぎる山菜スープと溶け始めたチーズの串焼きに気がつくと盛大にお腹を鳴らした。
サッとお腹を押さえる大男に私は微笑むと食事にしましょうと言って湯気の立つ木椀を手渡す。
「嗚呼、あなた方に出会えて良かった。捻挫の手当てに食事まで。なんとお礼を言ったらいいのか!!」
目元を隠せるほど長い前髪と無精髭で、表情は読み取れない。けれど、何度も感謝の言葉を口にするので、その気持ちは十分に伝わった。
そして、それからはとても速かった。
大男は用意していた食事を物凄い勢いで次々と平らげていった。
あっという間に食べ物がなくなり、私とシンティオは目を丸くして互いに見合った。
「ここ数日何も食べていなかったから、身体に沁みるよ」
大男は満足げに腹を摩ると幸せそうな溜息を吐く。
視界が良く見えていないのか私とシンティオの分も食べてしまったことが分かっていない。
ややあって、自分が全て食べてしまったことに気がつくと、恥ずかしそうに後頭部を撫でた。
「私としたことが申し訳ない。君たちの分がなくなってしまったね」
「大丈夫ですよ。良い食べっぷりで、見ていて気持ちが良かったです。あなたを発見した時は大変な状況だったので焦りましたけど、安心しました」
すると、今まで黙っていたシンティオが口を開いた。
「其方は何故白霧山におるのだ? 旅人や商人ではないのだろう?」
あの蛇たちの光景を見た時点で私とシンティオは、サンおばさん特製の蛇を魅了する薬が使われたと判断していた。
サンおばさんはそれを貴族に頼まれて作ったと言っていたから、きっと大男はその関係者。さらに言えばその貴族の側近だと推測される。
大男の着ている服は一般的な使用人よりも随分と良い生地が使われているし、数日ぶりの食事だというのに食べ方に気品があった。
大男は顎髭をさすり、何と答えたものかと考える素振りを見せる。
「……私は学者の端くれでね、あるモノの研究をしているんだ。最近ここの領主様の宝物庫で重要な文献が見つかってね。そこにはこの辺りの山にそれがいるとされていて、本当にいるのか気になって調査しに来たんだ」
「そのあるモノとは何なのだ?」
シンティオが尋ねると、大男はうーんと言いながらポリポリと頬を掻く。
「お願いだから笑わないでくれよ。私は幼い頃からずっと竜族に興味があって、その研究をしているんだよ。伝説の生物だからいないって思っている人は多いし、馬鹿にはされるけどね。それでもあんなにカッコ良い生き物は他にいないと思うんだ!」
少年のように生き生きと話す大男はその風貌とかけ離れているほど、ピュアな心の持ち主だった。
シンティオを横目でちらりと見てみれば、こちらもキラキラと目を輝かせて嬉しそうに微笑んでいる。きっと竜の姿だったら全力で尻尾を振っているだろう。
私は咳払いをして視線を大男に戻した。
「ところで、竜の研究をしているのにどうして蛇に襲われたんですか?」
「あー、それがね。腕の良い薬師がいると知人から聞いて、その人経由で薬を作ってもらうように頼んだんだ」
大男はポケットから空になった小瓶を取り出した。
それは間違いなくサンおばさんが作った蛇を魅了する薬だった。
「でも、まさか竜の研究をしているなんて口が裂けても言えないし。ほら竜ってちょっと蛇に似てるじゃないか。だから、もしかしたら蛇を寄せ付ける強力な薬を作れば、きっと竜も寄って来るんじゃないかって思ったんだよ!」
「くふふっ。確かに蛇と竜って見た目似てますもんねえ」
はい、ここでシンティオの表情を見てみましょう。
さっきとは一転してギリリと奥歯を噛み締め、ジトーっとした目つきで大男を見ている。
「我と蛇を一緒にするでない!」と言いたいのを我慢しているのがひと目で分かった。
けれど、睨まれている当の本人はその視線に気づいていない様子で、何度も悔しそうに地面を拳で叩いた。
「嗚呼、なんでっ……なんで蛇なんだ!! どうして竜じゃないんだ!? あんなに蛇がうじゃうじゃ現れるなんて予想外だ!! あれか? 私に下心があって薬師に懐いてもらえる成分も入れてくれって頼んだから。だから逃げても逃げても追い回されて……――うわあああ!!」
最終的に蛇まみれになったことを思い出したようで、大男は頭を抱えて記憶を消し去るように何度も首を横に振る。
私はそんな大男に申し訳ないと思いつつ、さらなる追い打ちをかけた。
「幼い頃からここに良く来ますけど、竜は一度も見たことがありませんよ」
「そうだな。薬を使っても来なかったのだ。ここに蛇っぽい竜はおらんのだろう」
シンティオも私の意図を汲んで加勢してくれたけど、まだ蛇と一緒にされたことに怒っているようだ。
「私はまだ調査したりない。隅々まで調べないと納得できない! いいかい君たち、竜というのはね――」
どうやら彼は気骨のある人物らしい。そして私とシンティオは変なスイッチを押してしまったみたいだ。
ここから数時間にわたり、大男は竜に対する熱い想いを語ってくれた。
嗚呼、熱すぎて胸焼けしそう。
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