お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

温かいうちに食べるのは作ってくれた人に対する礼儀でしょ? うどんが伸びたらどうしてくれんだ。

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「はぁ? バレー部の先輩が夢子ちゃんとベタベタしていたからそれに気を取られたぁ?」
「だ、だってあの女、小池先輩の腕に馴れ馴れしく抱き着いていたんだもん!」

 私は今、クラスマッチ後の打ち上げをしていた。1-3女子バレーチームメンバーで炭火を囲んで楽しく焼肉パーティをしていたのだが、肉を焼いている最中にぴかりんが試合で失態を犯した理由を勝手に自供し始めたのだ。
 もう気にしてないって言ってんのに。

 小池先輩ってのは、部活の合宿以降ぴかりんといい感じになっている男子バレーの2年生ね。スポーツ特待生の一般生で男子バレー部のオポジット。バレー用語で完全攻撃専門の選手だ。
 攻撃専門というだけあって、その手から打たれるボールはとても強い。そしてあの二宮さんよりも背が高い人だ。2メートルとは言わないが、190は優に超えているであろう。話す機会があった時に足の辺りをのこぎりで切って私に移植してくれないかとマジで頼んだらドン引きした顔をされたことがある。その時傍にいた二宮さんには大笑いされたので、きつく睨んでおいた。
 …私はこんなに努力しているというのに身長は未だに伸びない……ズルい…

 話がずれてしまったが、その小池さんが夢子ちゃんとイチャついていたらしい。

「夢子ちゃんねぇ…宝生氏とただならぬ関係みたいだけど?」
「夢子は将来有望そうな顔の良い男全員に目をつけてるの! あの女、あたしを見て笑ったんだよ!? これって宣戦布告じゃない!?」
「…直接小池さんに聞いてみたら? 誤解かもしれないし」

 ぴかりんは嫉妬で試合に集中できなかったらしい。
 でも私にそんな事を訴えられても、できることはなにもない。夢子ちゃんもよくわからない人だし、触らぬ神に祟りなしっていうし…ぶっちゃけ関わりたくないから、夢子ちゃんじゃなくて小池さんに直接確認したほうが良いと思うよ。

「…そろそろ焼けたかな? いただきまーす」

 私は話を締め括ると、焼けた肉を頬張って肉の美味しさに顔を緩めた。んまーい。肉も美味しいけどタレも美味しいな。
 ぴかりんも…うじうじ考えても何も解決しないんだから、その話は明日に持ち越しなよ。

「エリカお嬢様、こちら社長からです。ヒレ肉になります」
「わっ! ありがとうございます! みんな! ヒレ肉来たよ~! 美味しい部分!」

 こんなに美味しい肉は久々だ。動き回った後の食事は美味しいね! 

 みんなでワイワイ楽しく焼肉をガッツリ食べ終えた後は皆をマイクロバスで家まで送り届けた。
 私は明日からの学校生活が楽しみになってきた。部活だけじゃない。クラスで仲良くなれそうな友人ができたからだ。
 その日は疲れもあって、ぐっすり眠ることが出来た。

■□■

 突然だが、阿南さんがバレー部に入部した。
 バレーの楽しさが忘れられないと、クラスマッチ翌日に入部届を出しに来たのだ。
 クラスマッチと違って厳しいよ? ここのバレー部、インターハイ出るくらいの実力があるから練習きついよ? と念押しをしてみたが、阿南さんは「大丈夫です!」と大きく頷いていた。彼女の意志は固く、そのまま入部したのだ。

 阿南さんはお淑やかで線の細いお嬢様だ。だから筋肉があまりついていない。そう、前のエリカちゃんの身体のように華奢で、アスリート向きではない体型なのだ。
 だけど、彼女が本気ならば私は協力しようと思う。仲間が増えるとワクワクするしね!
 阿南さんに負けないよう私も頑張らなくては!

「今日はカレーうどんとミックスサラダ、チーズささみ春巻きください」
「あらエリカちゃん、今日はご飯は良いの?」
「炭水化物過多になるので我慢します」

 最近仲良くなってきた食堂のおばちゃんとちょっと会話しながら注文の品を受取った。今日も食堂でガッツリ昼食をとる。カレーうどん美味しいよね。前掛けが必須になるけど。
 セーラー服型の英学院の制服は、襟とスカートを覗いた大部分が白い。そのため汚れが目立つ仕様なので、飛び散る物を食べる時は要注意なのだ。よだれ掛けみたいで嫌なんだけどしっかり前掛けを装着してから、私はカレーうどんと対峙した。
 ぴかりんやバレーで仲良くなったクラスメイトみんなが席に着いたのを確認して、さぁ食べようと手を合わせたその時、事件は起きた。

「二階堂エリカ! お前にはほとほと呆れたぞ! 姫乃に対する嫌がらせの数々、言い逃れはさせないからな!」

 いきなり3人の男子生徒+夢子ちゃんが私達の前に現れて嫌悪の瞳で睨みつけてきたのだ。
 まるで夢子ちゃんを守るかのように男子生徒が囲んでおり、その誰もが整った顔立ちをしていた。
 
「……はぁ?」

 突然意味がわからないことを言われた私は彼らを胡乱げに見上げたが、ふとあるものの存在を思い出した。
 制服のポケットから携帯電話サイズの小さな機器を取り出すとそれをテーブルの上に置いた。これは二階堂ママに渡された録音レコーダーである。何かがあった時に録音しておくようにと言われたのだ。念の為に会話を録音しておこう。
 レコーダーのスイッチを入れると、怒鳴ってきた面々に視線を向ける。…私は椅子に座ったままで。

 私を怒鳴り散らしてきたのはあの宝生氏だ。本当に怒鳴るのやめてくれないかな。静かに話せないのこの人。そもそも何の話をしているんだ。ちゃんと状況を見て話しているのか?
 ここは食堂で周りには沢山の人がいる。その上私は食事をしようとしていたのだ。相手の状況を把握せずに、訳の分からない言いがかりをつけてきた相手に非難する目を向けた。

「……ていうか、今見ての通り私はお昼ご飯を食べているんだけど? …後でにしてくれない?」
「…ふざけるな!」
「ふざけてない。温かいうちに美味しく頂くのが作ってくれた人に対する礼儀でしょうが」

 『今日はカレーうどんなんだよ? 麺が伸びるの見てわからない?』と宝生氏にクレームを付けていると、彼はわなわな震え始めた。何でそんなにイライラしてんだか。カルシウム摂ったほうが良いよ。
 こいつの相手をしているのが無駄だと判断した私はカレーうどんに視線を戻した。先程からグウグウ唸るお腹を満たすために、カレーうどんの麺を箸で持ち上げた。

 しかし、私の食事を妨害するかのように私の頭皮に鋭い痛みが走った。がくんと頭が後ろに持っていかれたため、私がカレーうどんを口にすることは出来なかった。

「い゛っ…」
「…昨日、姫乃を体育館倉庫に閉じ込めたそうだな。…お前という女は何処まで腐っているんだ…!」

 ポニーテールにしている長い髪を思いっきり後ろに引っ張られた。相手がなにか怒鳴りつけてくるけども、私は頭皮の痛みに呻いていた。

「ちょっと! エリカに何すんのよ!」
 
 何すんだコイツとイラッとしたが、文句を言う前にぴかりんが席を立って宝生氏の肩をドンッと突き飛ばして庇ってくれた。
 解放されたが頭皮の痛みは残る。エリカちゃんの綺麗な髪の毛が…何本か抜けてしまったかもしれない…
 …宝生氏許さんぞ…! お前の髪の毛も抜いてやろうか…!

 私はひりひりする頭皮を手で抑えながら宝生氏を睨み上げた。その睨みに宝生氏が怯んだ様子を見せた。…エリカちゃんが睨むとは思っていなかったのだろうか。
 私は威嚇するかのように更に険しい顔をさせて宝生氏を睨みつけた。

「…それっていつ? 身に覚えがないんだけど」
「…く、クラスマッチの時だ! グラウンドの体育倉庫におびき出して姫乃を閉じ込めたんだろう!」
「…証拠は?」
「そんなの姫乃が泣いて訴えたんだから間違いないだろ!」

 ……証言じゃなくて証拠だって言ってるでしょうが。アホか。
 何が何でも私が犯人って言いたいのか。

「…それをやって私になにかメリットは有る?」
「お、俺が婚約破棄をしたのを逆恨みしてるんだろうが! お前は俺に執着していたからな!」

 そう来たか。
 仮にエリカちゃんがそれを恨んでいたと仮定しても、私には別にどうでもいいことなんだよね。

「もうその話は終わったし、宝生家から慰謝料貰ったことで解決した話だよ」

 この間あんたのところの両親が二階堂パパにネチネチいびられてんのを私は見たんだよ。あんたの行いが原因で経済援助は打ち切りになって、両家の縁は切れたんだ。
 大体うどんが伸びてしまうじゃないか。いい加減にしてくれよ。何でこんな聴衆の前で濡れ衣を着せられなきゃならないんだ。私が「やっていない」と訴えても信じないパターンじゃないか。

「体育倉庫に閉じ込められたねぇ…具体的に何時に?」
「二階堂さんもうやめてよ! 倫也君とあなたはもう何の関係もないのよ!?」
「そのくだりはもういい。私、昼ドラ属性ないから。それで…何時に閉じ込められた? いつ脱出できたの? もしかして昨日からずっと学校にいるの?」

 宝生氏に未練があるネタをいつまで引っ張るつもりだ。もう終わったと何度も言っているだろう。
 昨日のクラスマッチの時、私と夢子ちゃんが接触したのは第1試合終了後の少しの間だけ。…誰かと勘違いしてるんじゃないのか?
 
「違う! 倫也君が助けに来てくれたからちゃんと夜にはお家に帰ったもん! バレーの第3試合後よ。その後ヒメを体育倉庫に閉じ込めたに決まってる!」

 夢子ちゃんはどうしても私が閉じ込めたと決めつけたいらしい。確かにちょっとだけ1人になった時間もあったけど…体育館傍で水飲んでただけだし……何が何でも私を犯人に仕立て上げたいのか。
 …本当に何なんだろうなこの子は。一体、何がしたいんだろうか。
 この学校にいる肉食系女子と同じなのか。それとも見目が良くてお金持ちの子息を侍らして優位に浸っているのか。私を当て馬にして恋の鞘当てごっこでもしてるとでもいうのか。

 さてどうしたものかと考えあぐねていた私だったが、そこに第三者が口出ししてきた。その第三者というのがなんと……

「エリカならその後俺と一緒にいたが?」
「!」
「し、慎悟君!?」
「それに閉じ込められたとはおかしいな。体育倉庫には内鍵が付いている筈だから、例え閉じ込められたとしても自力で脱出することが可能なはず」

 加納慎悟だった。
 まさかまた助けてくれるとは思っていなかったので私は目を丸くして加納慎悟を見上げた。
 それと同時に彼の言葉で思い出した。校内でいじめが勃発したのを機に内鍵がつけられたと阿南さんに教えてもらったことを。
 そうだ外から鍵を掛けられても内鍵さえあれば脱出することはできるのだ。
 
 夢子ちゃんの顔を見るときょとんとした顔をしていた。
 どうやら知らなかったらしい。

 …よくわからない流れになり始めた。私は何をどうすれば良いのだろうか。
 私を庇うように立つ加納慎悟の背中を見つめて、ただ傍観するしか出来なかった。
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