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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
私が勝手にやったことだもの。彼女は悪くないんだ。
しおりを挟む文化祭で喫茶店をするとしても、お客に出すメニューの大部分は外注だから特に何かを作る必要はない。そして内装も業者任せ。生徒は店のイメージを業者に指示するのみだ。
それはうちのクラスだけでなく、この学校全体そんな感じらしい。
なので私達はコーヒーや紅茶の美味しい淹れ方と接客を練習するだけだった。あとコスプレの準備ね。
なんか…私の知っている文化祭と違うんだけど。どうでも良い所でセレブ感出すなぁ。今のうちから人を使う事を覚えているのか、セレブの方々は。
少しくらい青春らしく文化祭の準備に奔走しようよ…
ちなみにバレー部では文化祭の出し物はしない。だが、姉妹校である高校のバレー部の生徒を招待して試合をすることになっていて、相手校と交流を深めるという重要な任務がある。
公開試合なので、在校生・来客共に自由に観戦することが可能だ。
「二階堂、お前はスパイカーとして出場してみろ」
「えっ? …ですが私は低身長…」
「物は試しだよ。背の低いスパイカーもいるにはいるんだから。ジャンプ力を養えば出来ないこともないと思う」
3年の大部分が部活を引退した為、今度の招待試合に向けて1年生の中からもレギュラーが選出されたのだが…まさかのご指名である。
願ってもいないスパイカーの座ではあるが、エリカちゃんの背は全く伸びた気配がしない。
これで大丈夫なのか? クラスマッチとは訳が違うぞ。保健室に行って身長を計ってみてもミリ単位で変動するだけである。
…16歳であるエリカちゃんの骨端線はなくなってしまったのだろうか…
「とりあえずやってみろ」とコーチに肩を叩かれた私はぽかーんとしていた。
身長が低いため守備専門リベロを目指していた私だったが、思ってもみなかった機会を与えられた。嬉しすぎて声が出ない。
「エリカ良かったじゃない」
「……ごめんぴかりん、私のホッペタ引っ張って…イッタ! 夢じゃない!」
自分で引っ張っても現実だと実感できないからぴかりんにお願いしてみたら、彼女は躊躇いなくホッペタをつねって来た。
痛い! 夢じゃない! やったね!
私は浮かれていた。またバレーの試合でスパイクを打てるのだと思うと喜びを隠しきれなかった。部活が終わって家に帰って、一晩眠って翌日になっても私はニコニコと笑っていた。
「……何だお前は…朝っぱらからヘラヘラして…気持ち悪いぞ」
「ふふふ、私はとても機嫌がいいからその無礼な発言を許してやろう」
学校に登校して教室に向かっている途中で隣のクラスである加納慎悟とバッタリ遭遇した時に気味悪がられた。
いつもなら奴の発言にイラッとするところだが、今の私は違う。加納慎悟の失礼な発言にもニコニコ神対応してあげた。
だけど加納慎悟は更に不気味そうなものを見るかのような目を向けてきた。
失礼だなコイツ。可愛いエリカちゃんの顔で笑ってやってるんだから少しは喜べよ。
「えー聞きたいー? 私が上機嫌な理由」
「…いや別に」
「仕方がないなぁ、教えてあげるよー…文化祭の時他校のバレー部生と招待試合するんだけど…その時、私はスパイカーとして出場することが決まりましたー!」
「……まさか金に物を言わせて」
「違う。実力だよ失礼な」
おめでとうぐらい言えないのかコイツは。
両手を広げて喜びを表現しながら自慢した私を若干引いた顔で見てくる加納慎悟。金で買ったポジションじゃないのかと言ってきたので睨んでおいた。失礼な奴だな全く。
「…精々頑張ればいい」
「皮肉か? それは」
「激励してやってるだろうが」
本当かよ。腹の底ではまた馬鹿にしてんじゃないだろうな。
私は疑い深い眼差しで加納慎悟のおキレイな顔を見つめた。それに対して加納慎悟は面倒臭そうにため息を吐いて私を見下ろしていた。
だからそういうところが馬鹿にしているように見えるんだってば。
「二階堂さん、おはよう」
睨み合い(主に私が)をしている私達の間に割って入って声を掛けて来た人物がいた。
「あ…おはよう…」
「聞いたよ、今度試合に出場するんだってね。僕も観に行くよ。頑張って」
「……ありがとう…」
それは男子生徒Aだった。彼から応援の言葉をかけられたのだが、いきなりの登場にビックリした私はお礼を言うしか出来なかった。
男子生徒Aは加納慎悟に会釈して横を通り過ぎると、1組の教室に入っていった。
…あーびっくりした。ていうか情報が耳に入るの早いな。試合のこと何処で聞いたんだろうあの人。私と加納慎悟の会話を聞いていたのかな?
「…上杉といつの間に仲良くなったんだ? お前」
「え? あの人上杉っていうの? …いや、こないだからよく声を掛けられるけど、仲良くはないよ…?」
「……そうか」
加納慎悟は上杉君とやらが入っていった1組の教室をじっと見つめて何かを思案している様子だったが「HRが始まるから、お前もさっさと教室入れよ」と言って自分のクラスに入っていった。
え、何その気になる反応は。一体彼は何者なんだよ。
加納慎悟にそれを問うにも、既にここにはいない。
仕方がないので情報通なセレブ生・阿南さんに尋ねてみた。
「上杉様は大手芸能プロダクション社長のご子息ですよ」
「そうなんだ」
「私は中等部の時に上杉様と同じクラスになったことがありますが、クラス委員を任される程の人望の厚い方ですよ。成績も学年5位以内には必ず入っていらっしゃるし、成績優秀な方でもあります」
勉強得意とか自分で言っちゃうのかと思ってたけど、マジで頭いいんだ。
5位以内とか…変態かよ。
もしかしたら…エリカちゃんが美少女だから、下心を持ってお近づきになりたいのだろうか…残念なことに中身私なんだが。
…上杉君、実に謎なお人である。
■□■
私がエリカちゃんとして英学院に通うようになってから二階堂家の車で送り迎えをしてもらっていた。
だが土曜のその日は運悪く迎えの車が来れなくなったので、私は公共交通機関で帰宅することになった。それで寄り道と言うには遠出だけど、電車に乗って隣市に向かった。生前の自分の家、松戸家に遊びに行くのが目的である。
最寄り駅に到着すると、私は徒歩で実家に向かった。電車の中でお母さんに向けてメッセージを送っておいたけど、返事がないから手が離せないのかな。もしかしたらパートの休日出勤に出ているのかもとは思ったけど、ここまで来てしまったからどっちにせよ実家には向かうつもりだ。
合鍵は持っているし、最悪愛犬のペロに会えたらそれだけでもいい。
松戸家に到着した私は、庶民的な一軒家と道路を隔てる門扉を開いた。するとそのタイミングで家の玄関のドアが内側から開かれて…中から小平依里が、私の親友が出てきたのだ。
以前の私と同じくらい高身長で、うりざね顔の大人っぽい顔立ちをした私の親友。彼女は見慣れた誠心のシンプルな紺のブレザー姿だった。
依里は私を見て、目をパチパチと瞬きさせた。
「…あなたこの間の…」
「よ……こ、こんにちは…」
私はついつい「依里」と彼女の名前を呼んでしまいそうになったが、エリカちゃんが依里のことを知っている訳がないので途中で言い留まった。
家の玄関では依里を見送ろうとしていたらしいお母さんがいて、こっちを見て固まっている。その状態じゃ私からのメッセージ見れてないんだろうな。だから私が来たことと、依里とバッテイングしたことの二重で驚いているのかもしれない。
「あー…えーと」
「……あなたも、あの通り魔事件に巻き込まれたんだよね?」
何をいえばいいのだ、どうしようと思って、私が口をモゴモゴさせていると、依里が話しかけてきた。
「……まぁ…そうですね…」
「……もしかして、笑が庇った相手だったりするのかな?」
依里の目が一瞬鋭くなる。私は依里にそんな視線を向けられたことがなかったので思わずぴしりと固まってしまった。
無言を肯定と受け取った依里は、唇を歪めた。その表情は泣くのを我慢しているかのようであったが、依里の瞳にはじわじわと涙が浮かんで、今にも溢れそうになっていた。
「…あのさぁ、私がこんな事言うのはお門違いだけど…あなたを庇ったせいで笑は死んだのよ。あなたが家に来る度におばさんたちが辛くなるとか考えない?」
依里のその言葉に私は頭が真っ白になった。
彼女の頬に涙がこぼれ、頬を濡らしていく。私が呆然としている間も依里はエリカちゃんの姿をした私を責め立ててきた。
「笑はね、バレーが大好きで、やっとスパイカーになれたの。夏のインターハイで活躍できるはずだったのに…。なのに! …あなたのせいで笑は夢を叶えることができなくなったのよ!?」
依里の激高に私はついつい口走ってしまった。
「違うよ依里! 私が勝手に庇ったんだから! エリカちゃんは悪くない!」
「え…?」
私はハッとした。
普通に依里の名前呼んで、端から見れば自分で自分を庇う発言をしてしまったから。今の自分は二階堂エリカの姿なのに何を言ってるんだ私は。
依里が目を丸くしてこっちをぽかんとしているのだが、私は咳払いして誤魔化してみた。
「あ、いや、え、笑さんならそういうんじゃないかな…なんて……」
「……」
「えーと……それじゃあ…私は失礼します…ごきげんよう!」
依里の視線だけでなく、お母さんの視線も痛い。この上なく気まずい。この状態で松戸家に入っていくことなんて出来るわけがない。
この状況を収める術もなく、私はオホホ…とお嬢様ぶった笑い方をしながら後退りすると、現場から走って逃げたのであった。
絶対に頭おかしな人間と思われた……エリカちゃんごめん…
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